145 査定の続き。11階層ハーピーまで
「…ちょっと貸してください。」
僕は大きな真珠玉を両手で持った。
「…これ、たぶん長いこと貝の中にいたんでしょうね。貝の魔物の。」
「む?どうして判るのだ?」
「貝と魔獣特有の両方の魔力を感じますから。
…ああ、そういえば、やたら大きな貝殻も、網にひっかかってたな。…これですね。なるほど、魔力は同じだ。この貝の中に取り込まれていたのでしょう。」
僕は網にひっかかっていたやたらとでかい、ほら貝のお化けみたいな大きな巻き貝を取り出した。やけに大きかったし、形も良かったので、いちおうとっておいたのだ。
それは巻き貝だったので、僕も気づかなかった。まさか巻き貝が真珠を育てるとは思わないものね。巻き貝に、ヤドカリのような魔獣が住み着いた。この玉は本体に貝の中に押しこめれらていたのだろう。
「ギガントハウスキーパーという、甲殻類の仲間が居ます。
巻き貝に住み着き、成長すると次々巻き貝の家を替えていく魔物です。
もちろん、巻き貝の本体は戦いに破れれば食べられてしまいます。
この貝もギガントハウスキーパーの家だったのでしょうね。」
「なるほど。それでダンジョンには吸収されなかったのですね。あ、でもギガントハウスキーパーの本体は、何処に行ったのでしょうね。網の中には居ませんでした。」
「手狭になったので、家を替えたのか、他の魔獣に食べられたか。いずれにせよ、この魔石がダンジョンに吸収されず、幸運でしたね。」
「そうですね。」
ということで。網にかかった真珠のような魔石は、『先代の隠しボス』の魔石ということで落ち着いた。
「それで、こちらはどうします?オークションでいいですか?」
どうしようかな。真珠層が魔力を帯びているから、良い薬の材料になるんだよね。
「ちなみに、これを使った薬って、開発されてますかね。」
「薬?解呪用のポーションとかかな。」
「削って粉末にして、他の材料と混ぜるんですが、解呪だけでなく、ハイポーション系の薬が作れるはずなんです。」
ここでは不治の病とされている白血病に効く薬や、呪いを解く薬、万能エリクサーなどに真珠が使われる。
だがそれらのどれか一つでも口にするとまた騒動だから、傷を良く治すハイポーションの名を出しておいた。それにも真珠は使えるからだ。
「エリクサーの材料の一つに、真珠があるな。」
おお、さすが治癒術師のカーク先生だ。
「これは魔力も多く含んでいるから、真珠の中でも極上の素材といえるだろう。」
お見事です!カーク先生。
「やはりそうですか。」
「しかし…よくそんな知識を持っていたね。誰かに教わったのかい?」
「あー、昔旅の治癒術師の方から聞いたことがあって。」
とごまかした。
何故僕が知っているかって?
それは僕の鑑定さんが優秀だからさ!
「やはりオークションは控えておきます。しばらく手元に置いておきますよ。もし薬の材料集めの依頼が出るようなら、協力しますが。」
とさっさと話題を切り上げる。
「わかりました。では海の階層分のギルドでの買い取りは隠しボスの大蛸の足4本と墨半袋分のみでよろしいですね?」
「はい。」
魚はすべてマジックボックスへ収納だ。
僕とシンハの大切な食料だからね。
次は10階層分。
ここでは雑魚敵は魔兎と火狐。そしてボスは三尾の狐だ。
「魔兎ですが、今は僕自身のせいで値段がちょっと安くなってますよね。」
「まあな。売るのはやめるか?」
「いえ、売ります。たいした数ではないので。50羽ですね。」
「十分多いんだが。」
カークさんが何か言ったが、僕は聞かないふりをした。
マジックボックスから出して並べる。これは皮をむいていない。肉も売るつもりだったからだ。
「はぎ取り前だな。肉も一緒に売るのか?」
「はい。まだ肉のストックはたっぷりあるので。」
シンハが冷たい殺気を飛ばしてくる。やめてー。
「(大丈夫だよ。10羽は残したから。まだ森産のもたっぷりあるしね。)」
と念話で言うと、ようやく冷たい殺気を仕舞ってくれた。
『うむ。ならよい。ダンジョン産の魔兎も食してみたかったのでな。』
とえっらそうに念話で答えてきた。
まあ、それは僕も同意見だけど。
たぶん森産よりあっさりしていると、店で食べて判っているが、自分たちで仕留めたものだから、やはりまた別の味わいがあるからね。
火狐は毛皮が珍重されるということで、数頭分残してすべて売る。
あったかいので冬の布団とかこたつ掛けにしようと思っているので少し残したんだ。
「ボスは三尾の狐でした。」
「「なに!」」
え?また僕なにかやらかした?
三尾の狐がボスだと告げたとたん、カークさんもケリスさんも食いついた。
「ついに出たかっ!」
「?何がどうしたのでしょう???」
僕だけがきょとんとしていると、ケリスさんが興奮気味に言った。
「普通は大きめの火狐がボスなんだ。だがごく稀に尾が二つのものが出る。
これが長く生きると九つの尻尾まで増えると噂されている。三つの尾だというだけでとても珍しいのだよ。…もちろん、オークションにかけてくれるよね。」
「あー。尻尾切断したんで。それにこれは僕が使う予定なので。オークションはちょっと。」
「ええっ!?一頭で白金貨数枚にはなるんだよ。考え直さないかい?」
とカークさんが勧めてくる。
「えー。でも、尻尾切っちゃったし。」
「ぜんぜんオッケーだよ。縫いつければいいだけだし。」
「いや、まじで売りません。真っ白な毛で気に入ったので。」
「白いのかっ!ますます高値だぞ。」
「売りませんよ。白いふかふかコートにするし。尻尾は襟巻きにするんですから。」
「うう。心変わりしたら、ぜひ教えてくれ。」
カークさんががっかりしたようで、そう言ってきた。
次はようやく11階層。
「今日はこの階層で終わりです。ハーピーの羽根ですね。ボスハーピーの金色の羽根は、僕が使うのでキープします。」
「11階だな!すごいな。さすがだ。初心者でこの階層までだなんて!おそらく冒険者ギルドはじまって以来の快挙だろうな。」
うーむ。やはり飛ばしすぎたか。
だってさ、隣の食いしん坊が、なんとしてもワイバーンまで行くって聞かなかったからさ。ぶつぶつ。
「ハーピーの羽根は魔力を帯びているので、魔法陣を描いたり誓約書を書く時に使われるんだ。高値だぞ。ましてキングの羽根は特にな。」
「魔力はたしかに高いなって思いました。僕もいろいろ「書き物」をする予定なので。すみませんね。」
「いや。一般ハーピーの羽根をこれだけ出してもらえれば助かる。それにしても合計でいくらになる?かなりの額だな。」
「んー。全部で…オークションものを入れなくとも白金貨で10枚以上はいきますね。」
「すごいな。」
明細は以下のとおり。
キングを含む各種スライムの魔石と体液…10万ルビ
吸血コウモリの魔石と羽根…10万ルビ
キングコウモリの魔石、爪、牙、羽根…8万ルビ
ゴブリンの魔石…15万ルビ
ゴブリンメイジの魔石と耳飾り…8万ルビ
オークとオークキングの魔石と角(肉以外)…35万ルビ
スケルトンと吸血アンデッドコウモリの魔石…20万ルビ
スケルトンキングの魔石と指輪…45万ルビ(指輪はマジックアイテム。軽い防御魔法)
デス・フラワーの花びらと花粉…55万ルビ
キラー・オニバスの花と種…45万ルビ
ピオニーアシッドレインの蔓…35万ルビ
キングトレントの枝および幹など…850万ルビ
大蛸の足4本と墨…80万ルビ
鬼火の特殊たいまつ…85万ルビ
火ネズミ…95万ルビ
火猫…(オークション。800万程度以上。)
魔兎50羽…40万ルビ
ハーピーの羽根…50万ルビ
火猫を入れないで合計1,486万ルビ。白金貨で14枚以上だ。1億4千万円以上!?
しかもこれにはあの大型真珠や、各宝箱から出たレアもの、僕が手元の残した一部の魔石や肉などは含まれていない。
一番高値はキングトレント。
裏庭に出して査定を受けた。
まるまる一本なのでこの値段になった。ほぼ半分を占めている。
「木って高いんだね。」
「いやいや、キングトレントまる一本なんて前代未聞だから高いのさ。これでもさらに材木になった売値はとんでもないんだぞ。」
「ふうん。」
「ふうんって…。お前さんなあ。」
と言ったのはいつのまにかやってきていたギルド長だった。
「あ、ギルド長。」
「とんでもねえ坊主だな。お前は。」
えー。そうかなあ。
たとえばキングトレントつまりエルダートレントは、森の奥から来る時に、数10本分討伐してまるっと亜空間収納に入っているから、ピンと来ないんだ。しかも森産のほうが風雨にさらされただけあって、丈夫で良質。価値が高い。
「雑魚敵はどの階も結構な数倒しましたからね。」
と言い訳してみる。
それでも直線で進んだんだけどね。いちおうゴブリンはかなりがんばって倒したけど。
「特に薬の材料になるピオニーアシッドレインとかデス・フラワーは助かる。なかなか狩る奴がいなくてな。」
「一度クリアすると先に進むことばかり考える冒険者が多いから、不足気味なんだよ。」
「なるほど。」
踏破した階はスキップしてしまうためだ。
「それで比較的浅い層の魔物でも値段が高めに設定されているものがあるんですね。」
「ああ。需要があるからな。」
勉強になる。
「それにしてもすごい数と金額だな。」
「ええ。しかも高額なキングハーピーの羽根とか三尾狐などは含まれていませんからね。」
ちなみにちょこちょこ採取していた各階の薬草や毒草は、今回は提出していない。まずは研究からだ。
宝箱のものも研究対象。
宝箱は6階層以外はほぼスキップしたからね。
いずれあらためてじっくり取りにいきたい。
「即金で支払うのはさすがにギルドでも大変だ。預金してもらえると助かる。」
「ええ。いいですよ。当面必要なお金だけいただければ、あとは貯金しますよ。」
「ありがたい。そのかわり、火猫のオークションはがんばらせてもらうよ。」
「よろしくお願いします。」
ということで、いちおう取引を終えて書類もその場でサインして、部屋を出た。
手元には10万ルビだけもらっておいた。それも亜空間収納に入れたので手ぶらである。
「じゃあ、僕はこれで。」
ギルドを出る時、受付を見たが、ユリアは休憩に入ったのかいなかった。
結局トンデモ査定なサキとシンハでした。やらかし坊や(?)たちの活躍は、まだまだ続きます。
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