141 新たな契約
翌朝。
ピチチチチ、という小鳥たちの声で起きた。
ふあーあ。
なんだか騒々しいような。
メエエエ。
ん?羊さん?
ああ、丁度いいやお乳もらおうかな。
コケッコッコッコッコ!
おや、魔鶏さんもきてる?
卵もらおう。
「サキ。起きて。サキ。」
誰だ?呼ぶのは…。
!湖の精の声!?
「サキ!王様!起きてー」
「「起きて-」」
あれは妖精たちだ!
それでようやく、ここはあの懐かしい森の洞窟だと思い出した。
がばと起きる。みんなに会いたい!
とりあえず、僕は急いで自分にクリーン魔法をかけて洗顔とハミガキを一瞬で終わらせると、洞窟から顔を出した。
そこには、コマドリやカッコウだけでなく、魔羊、魔鶏、それから久しぶりのアラクネ女王とアラクネさんたち。湖の精、魔蜂までブンブン飛んでいる。妖精達もいる…。
「おはよう!みんな!久しぶりっ!…って、みんなそろってどうしたの?」
きょとんとする僕。
シンハがふあーあとあくびをしながら、僕の足元から顔を出す。
「サキ、王様、おかえりなさい!」
と湖の精。
「「おかえりなさーい!」」
メエメエ、コケッコ、ピイピイ…
「やあ!みんな!ただいま!元気だった?」
とご機嫌で挨拶。
でもすぐに、湖の精が恨めしそうに言った。
「「元気だった?」じゃないわ。すっごく待ってたのよ!なのにサキったら、酷いわ。帰ったなら真っ先に、知らせてくれたっていいじゃない。」
「あー。ごめんごめん。昨日いろいろあってさ。夜になっちゃったから。」
「それに…。私たちになんの相談もなく、フクロウとコウモリと先に契約するなんて!」
「本当にそうよ。私だって、契約したいのに。ガマンしてたのよ。サキ。」
とアラクネ女王。
「「俺たちだって!」」
「「そうよそうよ!」」
「ばぶ!」
と妖精たち。グリューネやトゥーリ、土の一番くんもいる。ああ、懐かしい。でもなんだかみんな怒ってる?なぜゆえ?
「え?な、なに?どういうこと?契約、したかったの?僕と?」
「当たり前じゃない!昨夜のこと、もう我々はみんな知ってるのよ。貴方が私たちより先にフクロウやコウモリと契約したこと。」
「えーと…。怒らせちゃったのなら謝るよ。…ごめんなさい。こほん。でも彼らには此処の見張りをお願いしないといけなかったから。夜目の聞く種族の長にお願いして眷属になってもらったんだ。別に君たちをないがしろにしたつもりはなかったんだけど…。」
「だったら。いいわよね。私たちも眷属になっても!」
「そうよそうよ。ずーっとサキの眷属になりたかったの。だって貴方の魔力、とってもおいしいんだもの。香りでわかるわ。」
「そうよそうよ。ねー。」
「「ねー。」」
メエメエ、ブンブン、ピロピー、コケコ…とにぎやかだ。
というか、みなさんバンパイアに見えてきたんですが。
「ええー。みんな?…どうしよう。シンハ。」
『うーん。…まあちと多いようだが…いいのではないか?』
「え。」
『お前の魔力はかなりのものだ。少しきゃつらに与えたとて、そう困るものでもなかろう。あいつらの言い分ももっともだ。契約してやれ。サキ。我も何かと都合がいい。』
「えー。…まあ、シンハがそういうなら、いいけど。でも…人数多くない?」
「あら。いやなの?私と契約するのが。」
「まさかそんなこと、ないわよねえ。サキ。」
「どうなの?」
「えっいや、そ、そんなことはっ、ないです。はい。」
特に人間語を話せる湖の精とアラクネ女王と魔蜂女王が恐い。
女性ってなにかと怒らせると恐いからな。
さっそく契約の儀式を行うことに。
ただし、僕と直接契約するのはそれぞれの長だけにしてもらった。
キリがないからね。
皆それで仕方ないと納得してくれた。
「妖精たちは…どうしようか。」
「妖精達も、それぞれ属性の一番と契約すればいいんじゃない?そうすれば、みんなも納得だと思うわ。」
と湖の精。
妖精たちも、うんうん、と頷いている。
「水は女王である私。火は王様のサラマンダ。土は一番くん…緑は」
「オレだ!」
「あーグリューネね。了解。」
本当に一番なんだな。
「本当の緑の一番は世界樹のユグディアルなの。それを除けば、まあ、グリューネで間違ってはいないわね。実力差はありすぎるけど。」
と湖の精がこっそり教えてくれた。
「風とか光、闇は?」
「風の女王は行方不明なの。でも、シンハ様が風の王様みたいなものだから、契約する必要性は薄いわね。それから闇は、たぶん呼んでも来ないわ。人見知りが激しくてね。あとは光ね。彼女は教会のエライひととすでに契約してるから、今は無理ね。でも、私も治癒魔法に関係しているし、それにサキ自身が光妖精みたいなものだから、無理に契約しなくともいいと思うわ。」
「いや僕、妖精じゃないし。」
「なに言ってるの。ユグディアルの愛し子なんだから、光妖精より強力よ!」
といかにもそれが此処の常識デス的な笑顔でさらっと言われた。
シンハを見ると、うむうむと頷いているし。
みんなも、そうだと頷いている…。
そんなものなのか?
まあ、属性すべての妖精と契約しなくとも、別に僕は構わない。
ていうか、属性すべての妖精と契約できる魔術師なんか、いるのかなあ。
湖の精の言葉で、他にも気になることがある。
光の一番は、教会の上層部の人と契約していること。光は聖魔法、治癒魔法のもとでもある。教会が欲しがるのは納得だ。
それから、風の女王が行方不明というのが気になる。あとで湖の精に事情を教えてもらおう。
さて。誰と契約するかがようやく決まった。
さっそく契約の儀式に入る。名前をつけて、魔力を少しあげればいいらしい。
まずはアラクネ女王から。
「女王陛下。我が眷属となっていただけますか?」
「承知いたしますわ。」
「ありがとうございます。では命名します。…ラプンツェル。通称ツェル。」
「いい名前だわ。ありがとう。どんな意味が?」
「古い童話にある、髪の長いお姫様の名前。糸を出すでしょう?それを考えていたら、長い髪を思い出したんだ。」
「なるほど。素敵なお名前をありがとう。サキ。…んふ。魔力、おいしいわあ。」
お願いですから、そろそろ抱きしめるの、やめていただけません?うっく首、舐めないでえ!
次。湖の精。
「名前は…メーリアブルー。通称メーリア。湖と青という言葉の古い言語だよ。」
「ありがとう。サキ。…本当に美味しい魔力ねえ。…あはん、くらくらしちゃう。」
だから、いちいち抱きつかないでよう。お胸、当たってますよう。ほっぺちゅーはしないで。
こほん。気を取り直して…次は魔蜂の女王。名前はシェルビーネ。通称ビーネ。羽音と蜂beeからの発想デス。
「あら、本当に美味しい魔力ねぇ。よろしくね。坊や。」
「は、はいっ!」
ビーネ様はすっかり蜂の姿だから、さすがにハグやキスはされなくて済んだ。ほっ。
次はサラマンダ。名前は本人がそのままがいいというので、仰せの通りに。
「クエー!」
相変わらず言葉はしゃべらない。でも意思疎通は出来ている。喜んでくれてなにより。今後もよろしくね。
それから妖精たち。まずはグリューネ。
「名前はグリューネのままでいいかな?」
「ああ!それがいい!」
僕と契約できて、すっごくうれしそう。
「良かったわね。」
ととなりでトゥーリが笑っている。
「トゥーリは…契約しなくてもいいの?」
僕が訊ねると、
「私は大丈夫。サラマンダ様がもう契約してるから、いつでも呼んでくれればサキのところに飛んでいけるわ!」
とあっけらかんとしている。全然大丈夫みたい。
そういうものなのか。
妖精システムは、よう解らぬ。
そして土の一番くん。
「名前はグラント。大地の意味から取った名前だよ。これからもよろしくね。」
「ばぶ!」
答えはいつもとおんなじだけど、すっごくうれしそう。気持ちがダイレクトに伝わってくる。
僕もうれしい。君とはこれからもグリューネと一緒に、いろいろ薬草研究とか農作物改良などに、協力してもらいたいから。
それから魔羊、ヤクー。
魔鶏はヘム。
コマドリはロビン。
カッコウはクルックとした。
特にロビンとクルックには、此処の昼間の巡回をお願いした。