139 味噌デビュー!
短いです。
草原の火災は僕が消した。
他のワイバーンたちは、何も叫ばない。
一頭のメスがギエエエと悲しげに啼いた。
それを期に、他のワイバーンたちは、巣へと戻っていった。
おそらく、ほどなく次のボスを決める戦いが奴らの間で起きるだろう。
だが、もうシンハに手出しをする者は、当分でないだろう。
あいつはワイバーンの中でもとりわけ大きく強かったからな。
我々がこれまで捕獲してきたのは、ハグレの奴だったり、違う群れだったり、若い奴で、シンハのテリトリーに入ってきたものを中心に狩っていた。
あの巣の周辺には我々もあえて近づかなかった。
美味い食料を根絶やしにするような愚かなことを、シンハはしない。
だが、あのビッグワイバーンは、わざとシンハを怒らせて、挑発してきたのだ。
その報いを受けた。
ただそれだけだ。
弱肉強食。それがこの森の掟。
シンハが僕のところにゆっくりと戻ってきた。
誇らしげかと思ったが、そうでもない。
ただ淡々と、王者はいつもと同じく冷静だった。
口のまわりにべっとりついた血を、べろりと舐めて綺麗にしている。
僕は
「おつかれ。」
と首もとを撫でた。
するとふっさふっさといつものように尻尾を振った。
ただそれだけ。
僕は首から上のないビッグワイバーンに近づくと、奴を亜空間に収納した。
この一頭で2年は肉に困らないだろう。
それほどでかい個体だった。
「今日はもう狩りはいいだろ?町に帰るか。それとも一泊していく?」
『そうだな。久しぶりだから、泊まっていくか。』
「判った。まあ、ダンジョンで一泊するかも、と言ってきたから、ユリアにも心配されないだろう。泊まっていこう。」
『おう。久しぶりにお前の料理が食べられるな。』
「いっつも食べてただろ?いろいろと。」
『まあそういうな。』
などと話しながら、僕たちは洞窟へと帰っていった。
その晩、僕たちはシンハが倒したばかりのビッグワイバーンの肉を、ステーキにして食べることにした。
解体は亜空間にさせたが、でかいのでそれなりに魔力を使った。
大きな個体なので硬い肉かというとそうではない。
魔力が大きい魔獣は、肉が柔らかく美味いのだ。
そして、魔獣の肉は熟成させる必要もなく、獲れたてのほうが魔力たっぷりで美味い。
僕の亜空間収納はいつも獲れたて新鮮な状態で魔獣の肉を保管しているが、やはり心理的には狩ったばかりを食べたいものだ。
そして今夜、ついにデビューする調味料がある!
「シンハ。美味い肉をさらに美味くして食べる手段を、僕はさらに増やしたぞ。」
『む。ではアレができたのかっ!』
「うん。アレができたのだっ!」
ジャーン!
「味噌の完成だっ!」
『おおっ!』
味噌は大豆を八百屋や農家から大量購入して以来、いろいろと試行錯誤していた。
一番の難関はコウジだったが、これは麦からなんとか作れた。
天然酵母を得た時と同じように、「こうじ~こうじ~麦こうじ~」
と念じていたら、なんとか作れた。
そしてあとは塩茹でした大豆にコウジを混ぜて何年も寝かせるものだが、そこは天才亜空間収納君!
がんばってハイスピードで作ってもらいましたよ。
それがやっと今、お披露目できる機会を得た。
「まず塩焼きにするね。普通に。」
とりたてワイバーンの肉。隠し味にニンニクも使う。もちろん美味い!
「次は味噌焼きねー。」
ただしシンハはほとんど肉オンリーを食べるので、しょっぱくしすぎないのがコツ。
焼き肉は塩を使わずニンニクと麦焼酎を少し使って焼き、その上に味噌を焼酎と少量の砂糖で調整したあっさり甘味噌を塗ってさらに焼く。適当な大きさに千切った焼きたてナンを添えて。
できあがりをグルメ王シンハの前へ。
「どうぞ!」
『…!これはっ!美味い!美味すぎる!』
「そうだよー。これだけを塗っても美味いんだよー。」
僕はパンに甘味噌を乗っけて、上を炎で少し焦がして出した。
「んんーーーー!!」
これぞ味噌パン。
『なるほど。お前が味噌が欲しいとつぶやいていたのが、今よく判った。』
シンハは何枚目かのワイバーンステーキを平らげつつ、そう言った。
珍しくナンのほうも食べている。ほらね。口直しにシンプルな主食もいいでしょ。
「味噌は万能だよ。味噌を使ったスープは味噌汁というのだけれど、それもすっごく美味しいから。明日の朝はそれを作ってあげるね。」
『明日と言わず、今作れ。食べたい。食べてみたい!』
「ふふ。判った。あとで喉が乾いてもしらないぞー。」
その晩、シンハも、僕によって味噌崇拝者となったのだった。
続きは明後日。