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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
138/529

138 ビッグワイバーン

「成功したみたいだよ!」

『おお!』

僕たちが転移したのは…そう。僕たちがかつて暮らしていた、洞窟の前のメルティア広場だった。メルティアの香りが懐かしい。


『大成功ではないかっ!』

「うん!」

『魔力の消費はどんな具合だ?』

「やっぱり距離が遠いと、少し減りが大きいかな。でも、たいしたことはないよ。楽勝で町へ戻れると思う。」

『そうかそうか。ではさっそく、ワイバーン狩りを。』

「まあ一休みしようよ。久しぶりの我が家なんだから。」

『まあ、そうだな。それにしても…少し荒れているとは思わないか?』

「うん。ちょっといや、かなり荒れてますね。何かに襲われた感じ?」

『ああ。これは…ワイバーンだな。』

「そうみたいだね。足跡がある。あーあ。ほとんど何も作ってなかったとはいえ、畑もめちゃくちゃじゃん。」

『まったく!ゆるせん!』

シンハは相当頭にきているようだ。


風呂やトイレは頑丈に作ったが、窓がやられていた。

鍛冶工房は扉と窓が破壊されている。中は無事。というか、本当に何も残していかなかったからな。

肝心の洞窟の方は、入り口に冬用の木戸をしっかり立てておいたのだが、これがめちゃくちゃに壊されていた。

結界石はおいたが、強い個体が来たようで、結界が破壊され、中に侵入されていた。

といっても、此処も大切なものは何も残していかなかったが。

それでも、ベッドの藁が荒らされてフンがされていたり、囲炉裏が破壊されていて、灰があたりに散乱していたり、張っていた蔓のロープをひっぱられて壊されていたりした。それから、竈が壊され、水を入れておく大甕が割られていた。

って全部やないかい!


「竈と甕が。囲炉裏もだ。くっそー。」

『決まったな。これは血祭りだ。』

「おう。同意するぜ。」

『よし!犯人の臭いは判った。すぐにも狩りに行くぞ。』

「待って。その前に此処を綺麗にする。よそ者のフンなんか、置いておかれないよ。」


僕はまず亜空間収納に眠らせていた世界樹の杖を取り出し、クリーンマックスの魔法をかけた。

これで悪臭を放っていたフンは分解し、完全消滅。

洞窟内の空気も入れ換え、脱臭除菌をしたあと、掃除。

ベッドの藁は外で燃やし、寝床はさらに水洗いもして石のままとする。

囲炉裏の灰を綺麗にし、囲炉裏のまわりの板もレンガも整えた。

割れた甕は魔法で修復。竈も。

蔓草のロープは元通りに張って、ヒールで回復。

洞窟入り口の木戸と鍛冶場の扉もヒールで回復。

(物の修復もヒールなのだ。)


あとは風呂場の窓。

ガラス片を集めて修復。

足らない部分は亜空間収納にストックしてあるガラスの材料を加えて補った。

竹細工の方の窓は新しい竹で作りたいが、時間がないのでひとまず縦の桟にし直して、アラクネ布を張る。これで小さな虫の侵入は防げる。


畑はほとんど休耕状態だが、土妖精たちが、薬草エリアだけは規模を縮小して続けてくれていたようだ。

幸い、そこは畑の隅だったので、荒らされずにすんだらしい。

だが、ほかのほとんどのところは、荒らされた形跡がある。

散らかった枝葉を魔法でかたづけ、畝を土魔法で作り直す。

これでいつでもなんでも作れる状態に戻せた。

ついでだからちょっと魔力で肥料も与えておいた。

そして、畑も含むエリア全体に保存魔法をかけ、結界石は地面に埋め込み、より強固なものにした上で、3重結界を張った。


「よし。こんなもんかな。」

『おお。お前もだいぶ魔術師らしくなってきたな。』

「へへ。この杖いいねえ。魔力がこれまでの1割程度ですむんだ。もっと使わないと、もったいないね。」

『さすがだな。世界樹の杖は。』

「うん。…さて、一服したら、本気で狩りに行くよ!」

『おう!』


僕はシンハに乗って、久しぶりに「はじまりの森」の中を駆けめぐった。

洞窟修理などで使った魔力は、愛用エリクサーをドリンクしたからもうばっちり。

すでに夕暮れだが、ワイバーンの巣がある場所は知っている。

これまではあいつらをわざと見逃してやっていたが、あんなことをするのではもう駄目だ。

おそらくあれは僕たちというか、シンハに対する挑戦だろう。

険しい岩山が数個連なる丘の上。

そこがワイバーンたちのねぐらだ。


僕は、まず巣に火矢を放った。宣戦布告の火矢だ。

ギャギャア!!

怒りの声が聞こえる。

そこからばっさばっさと複数のワイバーンが飛び出してきた。


ガオォォォォォォォン!!!

普段あまり吠えないシンハが、思いっきり威嚇の声をあげた。

ビリビリビリと空気が振動するほどだ。

その威圧はハンパない。

数体は、そのまま気を失ったらしく、落下。

雌たちは怯えて、巣から離れない。

奥から、一体のとりわけでかいのが悠然と飛んできた。


「あれがこのあたりのボスか。」

『あいつだな。俺たちの棲家を荒らしたのは。』

「ふうん。どうする?」

『まずは地上に引きずり降ろす!』

「じゃあ、落雷を軽く与えてやるよ。落ちたらあとは、シンハに任せよう。」

『そうしてもらえるとありがたい。積年の怒り、此処ではらしてしまいたい。』

「オッケー。いくよ。…豪雷!」

ドンガラガッシャンビリビリ!

とすごい音がして、ビッグワイバーンに雷が当たった。

さすがにしびれたらしく、落下してくる。草原の上だった。

だが、すっかり地面の上に落ちる前に、意識を取り戻したらしく、ばっさばっさと地上近くで翼を動かした。

「お。さすがタフだね。」

『あとは俺がやる。任せろ!』

「任せた!」

僕は高見の見物だ。

少し離れたところで二匹の様子を見る。


落ちかけたワイバーンは、結果としてやはり地面に落ちた。だが受け身をとったような形になり、ほとんど傷はないだろう。

まだくらくらするのか、平衡感覚がおかしいようで、飛び上がれずにいる。

シンハがまっしぐらに突き進み、ビッグワイバーンの足に噛みついた。

ギャウア!

咄嗟にワイバーンはシンハを突つこうとする。

同時に尻尾でも攻撃してくる。

だがシンハはすべてをひらりとかわし、今度は後ろにまわり、そのまま背中に飛び乗った。

ギャオン!

ワイバーンは背に違和感を感じ、ひっくり返って背中を地面にこすらんとする。

だがシンハはそのまま喉元を狙ってひらりと飛び下り、がぶりと噛んだ。

「おお。」

だが、ワイバーンは固かったようで、致命傷にはなっていない。

首を強く振って、シンハを振り落とそうとする。

ガウガウ!とシンハが威圧をかけながら首を離さない。

ギギ、ググ!

とくぐもったワイバーンの声。


とそこに、若い雄が、割って入ろうとした。

僕が魔法でふっとばそうとする前に、なんとビッグワイバーンに、若い雄が翼ではね飛ばされていた。

邪魔するなっということか。

こうなると、もう誰も手だしはできない。

双方、己のテリトリーを守るための戦いだ。

他のワイバーンは手出しをせずに二匹を見守っている。

ワイバーンが、何かブレスを吐こうとしているようだった。


「(シンハ!ブレスに気をつけろ!)」

僕は念話で呼びかけた。

『ああ!』

ワイバーンが首を大きくふりまわし、翼も使ってシンハをたたき落とそうとした。

シンハがぱっと離れた瞬間、ワイバーンはブレスを吐こうとした。

だが、シンハもこの時を狙っていたのだろう。

とたんに真空斬りを繰り出した!

ドシュドシュ!

鈍い音がして、ワイバーンの左翼が根元近くで切り落とされた。

ギャウア!

そして風刃はそれだけではおさまらず、そのまま首を、斬りにいった。

ドシュ!

その一撃で、首はもう半ばまで斬れていた。

ギェェ…。

弱々しい断末魔の声をあげて、ビッグワイバーンはどうと倒れた。

それでも、何か吐こうとしている。

煙が見えた。

「(シンハ!離れろ!)」


ぱっとシンハが自分の風魔法を利用して大きくワイバーンから離れた。

その一瞬あと。

ボガン!と鈍い音がして、ワイバーンの頭が爆発した。

自爆してシンハを道連れにしようとしたのだろう。

ぶわわっと周囲の草が燃える。

まだワイバーンのからだはヒクヒクと動いていたが、それもほどなく止まった。

勝負は決した。

ガオオオオオオオオオオン!

シンハが勝鬨の声をあげた。


続きは明日。

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