137 11階層 ハーピー階
11階層。
階段を降りると
「きゃあ!」
という悲鳴。
「む。」
僕たちは無意識に声のほうに走った。
藪をかき分けて草原に出ると、なんと「チーム暴風」のウィリーさんたちではないか。
メグさんが腕を抑えているから、怪我をしたのはメグさんだろう。
敵は、ハーピーだった。
おお。ハーピーもはじめて見た。
森にはいなかったな。
いや、これも黒龍のせいで引っ越したのかも。
僕は今にもメグさんに襲いかかろうとしていた一匹に、電撃をくらわした。
「!」
「大丈夫ですか!?」
僕が走り寄る。
シンハはそのままハーピーを蹴散らす。
「君はっ!」
「サキ君!どうして此処へ!?」
「え?普通に初階層から来ましたよ。真面目に。」
ハーピーはあきらめて逃げ去ったようだ。
シンハの威嚇はぱねえからな。
「だって、早すぎ。普通は此処までくるのに、何カ月、いいえ、何年もかかるのよ。このダンジョン、ハードだから。」
え、ハードなの?これで?
と思ったが。
「あはは。シンハが強いんで。助かってます。」
とごまかした。
「ああ、君、変異体のキングゴブリンを倒したんだったね。」
と納得してくれた。
「ええまあ。…それより…。メグさん、治癒魔法、できますか?」
「うん。でも今もう魔力なくて…ちょっとつらいわ。」
「じゃあ僕が。」
と僕が手をかざして腕の怪我を治す。ついでに肩が脱臼していたので、ちょっとカームして、ハイヒールしながらぐぎっと治してあげた。脱臼ならハイヒールでいけるから。
「!…あら、痛くない。肩治すの、結構痛いはずなのに。」
「動かしてみて?…大丈夫?」
「ええ。治ったわ。ありがとう。」
「良かった。」
にこっと笑うと、メグさんもほっとしたように笑った。
「すごいのね。強いだけじゃなくて、そんな器用なこともできるなんて。ねえ、うちに入らない?」
「え。」
「そうだな。君がいてくれると、心強い。」
「あー。すみません。シンハがいろいろわがままなので。ソロがいいんです。」
「あらそうなの?残念だわ。」
おい、背中を鼻でぐいぐい押すなよ。嘘も方便だろ。いや、わがままは本当か。
「…ところで、どうする?この先。一旦戻るか?」
「そうしてほしいわ。私、もう魔力ないから。」
としかめっ面で並ポーションを飲んでいる。不味そう。
「了解。今日はこのくらいにしよう。」
「じゃあ、僕たちは先に進みますんで。また。」
「おう。気をつけろよ。此処のハーピーは男を攫うぞ。」
「え。」
「あー。確かに。サキ君美形やから、危ないでー。」
「…。帰ろうかな。」
「シンハ君、ちゃんとサキ君を守ってあげてね!」
「ばう。」
「ふっふっ。まあ、進むかどうかの決断は君自身でしろよ。俺たちは先に失礼する。」
「またねー。」
「さようなら。」
彼らは手を振って笑顔で戻っていった。
「…。なあ、シンハ、ハーピーは男を攫うのか?それって、ゴブリンみたいな意味?」
『男を孕ませることはできないが、男に孕ませてもらうという意味では、ゴブリンと同じ意味だな。』
「うっく。森にハーピーいなくて良かった。」
『ある意味、男には極楽らしいぞ。ハーピーは媚薬魔法を使うから、心地よく犯してくれるだろうし、子種さえもらえば解放してくれるから、ゴブリンとは違うぞ。』
「やーめーろ。僕は普通に人族の女の子としたい。」
『それは種族偏見ではないか?』
「いや、だから、ハーピーに恋したらそれはそれでいいかもしれんけど。無理強いはやだ。」
『くくく。お前をからかうのは楽しい。どうした。美少年。真っ赤になって。』
ちぇ。さっきの仕返しか。
「うるさい。今夜メシ抜きにするぞ。」
『おっと。それは虐待というのだぞ。』
などと、言いつつ進んでいると、
ギャーギャー、とハーピーたちが僕の頭上で騒ぎ始めた。
「むう。」
僕はシンハを真似て、威圧をかけてみた。お前らのせいだからな、と八つ当たりだ。
魔王になった気分で。
すると、ハーピーたちが真面目に恐がって、それからは寄ってこなかった。
楽でいいな。
『ほう。お前の威圧も、まんざらではないな。いつもそれくらい真面目に仕事をするとよいのだが。』
うるさいな。
そんなことをしていると、ほどなくボス部屋まで来た。
えー。雑魚敵ってハーピーだけなの?
ボスは…でっかいハーピーでした。クイーンハーピー。
下から見上げると…胸でかっ。なにカップ?
「シンハ。出番だよ。」
『まったく。手抜きだぞ。』
といいながらも、ボスが風魔法でこけたところを喉笛に噛みつき、あっという間に戦闘は終わった。
ボスハーピーは黄色の魔石と、美しい金色の羽根を落として消えた。
ほう。これはなんだ?
鑑定さんに聞くと
「ボスハーピーのドロップ報酬「金色の羽根」。ひたすら美しいだけの羽根。羽根ペンの贈答用として王侯貴族に人気。(ただし、隠し機能として、高レベルの魔術師がこの羽根に魔力を流しながら魔法陣を書くと、間違っても自動修正され、正しい魔法陣が書ける。)」
となっている。
どうやら、僕の鑑定はレベルが高いので、隠し機能まで見れたらしい。
「さすがジオのダンジョン。面白いものがたくさん出るなあ。」
と僕がつぶやくと、
『いや、明らかにこれはお前が異常だぞ。国宝クラスが出過ぎだ。』
とシンハにぶつぶつ言われた。
「そなの?やっぱり、世界樹のご加護かなあ。」
『ちなみにお前のステイタスに、運に関する記述はあるか?』
「あるよ。ギルドの石では表示されなかったみたいだけど、隠しスキルの一つに『強運』というのがあるね。」
『それだな。加護はどうかわからんが、直接作用しているのは、その『強運』が関係しているのだろう。』
「へえそっかぁ。ステイタスって、奥深いねえ。」
『まあ、いいスキルがあって、よかったな。』
「うん!」
『ところで。ワイバーンまであとどれくらいだ?』
「それなんだけどさ。今日は戻らないか?」
『何故だ!泊まるといったではないか!まだ時間も早いだろう。もう少し進めておくべきだ。そうでないと明日もワイバーンまでたどりつけぬぞ!』
「それなんだけどさ。僕、思いついちゃったんだけど。」
『ん?』
数分後、僕たちはダンジョンの一階層に戻っていた。
受付で手続きをしてダンジョンを出る。
乗合馬車は行ったばかりらしく、いなかった。
僕たちは徒歩で町まで戻る「ふり」をする。
そして受付から見えなくなると、脇の藪に入った。
「で、実験開始。」
『おう。』
僕は魔法陣の布を取り出し、地面に引いた。シンハと一緒に乗る。
そして
「エヌ・レッセ・ヤーフェ…○△◇…オムニス。」
次の瞬間、僕たちの姿はそこから消えていた。