136 7階層~10階層
「ダンジョン、なんだか楽しいー!」
『ふふ。初潜りだしな。6階層の宝箱は幸運だったな。』
「うん!珍しい魔獣を倒すのももちろん興味深いけど、やっぱり宝箱は、これぞダンジョンの醍醐味って感じ。」
『ああ。だが気を引き締めろよ。此処から先は、さらに上位種が出るはずだからな。』
「うん。そうだね。…ところで、今何時だろ。」
と時計を見ると、まだようやくお昼を過ぎたところ。
「あらま。もっと時間が経ったと思っていたのに。」
『早朝から潜っていたし、結構飛ばしたからな。少し休憩するか。』
ということで、6階層のボス部屋で昼食休憩。
ゴブリン階とこの6階で時間を取ったが、それでもそれぞれ約1時間だったようで、他は各階爆速で駆け抜けてきた計算だ。
でも目標が25階だからね。がんばらないと。
さて、休憩もそこそこに、気を引き締めて7階層。
此処は沼地で、足元が悪い。
此処では僕が発明・製作した、スライムゴム製の魚屋さんオーバーオール(胴付き長靴)が大活躍。
さらに、泥の上に透明な板(滑らないやつ)を魔法で出現させ、それを足場にして戦った。
泥だらけになりながらも、雑魚敵のヌーボーフィッシュや変異スライムを退治。
同時に沼地産の珍しい薬草や美味いと評判の大沼エビや、この世界の住人は食べないというウナギもゲット。ウナギはちゃんと鑑定さんが「美味!」と教えてくれたよ。
ボスは鯰の魔獣のキングキャットフィッシュだった。
これも珍味だとシンハが言ったので、僕が雷魔法で退治しようとしたが、雷には耐性があった。此処は沼地。水や土にも耐性がありそうだ。ということで、今回はシンハと一緒に風魔法で真空斬り。
生きたままズバズバ切り身にして一丁あがりだった。
ドロップ報酬は、『帯電防止靴』!
って、ゴム長じゃん。
まあ、素材に興味があるからいいけど。これは研究材料だな。
8階層。
今度は火山だ。
さすがに暑いので、暑さを遮断する結界を発動。
さらに万一に備えてシンハにも急遽氷魔法でブーツをこしらえて、地熱に耐えられるようにした。
氷魔法のブーツは冷たすぎるので、黒龍の革や魔兎の毛皮を駆使して、冷たさが通らないようにした。
帰ったら、シンハ用の特製ブーツをちゃんと作ろうかね。
此処の雑魚敵は鬼火と火ネズミ。ネズミと言ってもでかくて、この毛皮は高価だ。
此処の雑魚敵はこれまでと違い、倒すとすぐに姿を消す。そして何かをドロップする。
鬼火は一定時間維持するたいまつ。ってあんまりいらない気がするけど。
火ネズミは火ネズミの革を落とす。
これがなかなかいい値段で取引されているらしい。
此処のボスはなんと火猫だった。
猫も数メートルとでかくなると、可愛げがなくなるものだ。
毒性のある爪がやばいのと、すばしっこいのが特徴だが、僕もシンハも、森で動体視力は鍛えられているから、攻撃をかわせないことはなかった。
爪の攻撃が来る前に、よけることができた。
だがそればかりでは勝てないので、僕は例の魔剣を取り出して、猫の前足を両方とも斬り飛ばした。
そして痛がる化け猫の喉笛をシンハが爪で掻き切る。
まだあばれようとするので、僕が剣で心臓をひとつき。戦闘終了だった。
『うーむ。もっと骨のあるやつはおらんのか。これでは森のほうが、よほど強い奴がいたぞ。魔兎だって、もっと強かったぞ。』
確かに、まだ魔兎も出てきていない。
意外に強かったんだな。魔兎。
火猫のドロップ報酬は、『消えない火』???
よくわからん。
突然現れたサラマンダが欲しがったので、食べさせたら、イモリみたいな体が光り出し、ステゴサウルスのような、背中に堅い突起が何個もある爬虫類みたいに変化した。
「おっとー。進化したの?」
クエー!
なんか強そうになった。色も赤を通り越して、光っている。
だがそれも数秒で、やがて今まで通りのイモリになった。
僕にすごく感謝しているみたいで、ほっぺをぺろっと舐められ、そして消えた。
ん?
ステイタスに「火妖精王の加護(大)」が現れた。
それをシンハに言うと
『まあ、今後は火魔法がさらに扱いやすくなるということだろう。』
と当たり前のように言われた。
9階層。
ここは水中生物だ。沼地ではなく海だ。
大海原が広がっている。
いけどもいけども砂浜と、少しの岩場が断続的に続いている。
波まであるし。
「ダンジョンに海があるなんて。すごいな。」
『海はこの国にもないから、なかなか珍しい光景だな。海の魚はどれも美味い。楽しみだ。』
「なるほど。」
『海の魚は美味いぞ。』
シンハが二度言った。
「ふふ。じゃあ、がっちりとらないとね。そういえば、海の魚はこの世界ではまだ食べてないや。あ、最初に川で獲ったシャケ以外は、だね。」
そういえば、海は遠いのにシャケは居たなあ。
『シャケ?』
「ほら、卵がいっぱい詰まったやつ。」
と映像をシンハに送ると
『ああ。サムンのことか?珍しい魚ではあるが、あれは川の魚だぞ。海には居ない。』
「え、そなの!?今更ながらにオドロキ。さすが異世界。」
『ふむ…。で、此処では魚をどうやってとる?』
「んー…。蚊帳、使うか。」
『おお。あの薄い布か。あれならアラクネ製だから丈夫だしな。』
僕は洞窟から持ってきていた、蚊帳を取り出した。
アラクネ糸でつくり、自分で染めたものだ。
ちょっと網にするのは勿体ないが、あとでよーく洗えばいいだろう。
「じゃあ、地引き網をするぞー。」
僕とシンハは、蚊帳の縁に重しになる小石を適当につけたあと、風魔法を使って、網を遠くまで飛ばしながら広げ、海に落とした。
待つこと十分。
「よし。あげてみよう。」
地引き網の要領で、うんうんとあげてみる。
すると、中は鯖とかアジとかブリとか…中型魚を中心に、大量に入っていた。
『おお!さすがダンジョン!大漁だな。』
「うん!…おや。何か光ったよ。」
網の一部から光が漏れている。
なんだろうと見てみると。まるで占い師が使う水晶玉の中でも大きな、直径30センチはあろうという真珠玉だった。
真珠って、貝の中で成長するんじゃないの?なんで水中にあるのさ。
わからん。でもとにかく、真珠玉だった。
此処のボスは大蛸で、文字通り大蛸なだけだった。
一般にはその締めつけがやばいらしいが、僕とシンハには目の前に大きな食料があるように見えただけで、なんの脅威でもなかった。
電撃でおしまい。
スパスパと足はぶつぎりにして、収納。あとで刺身で一杯やりたい…おっと、僕はまだ未成年だった。
スミは魔法陣を書く時の魔術用高級インクになるそうだ。
意外だったのが、キングの魔石。大きな真珠だった。直径25センチくらい。
さっきの真珠より少し小さいだけで、豪華な真珠だ。
まんまるの真珠…また真珠!?
ってことは、あの海中から出たのは、先代のボスの魔石だったのかもしれない。
以前倒した人は何故とりそこねたのか。
つうか、何故ダンジョンに吸収されなかったの?
謎だ。
『おそらく、海底に着く前に、貝かなにかの中に入ったのかもしれんな。』
なるほどね。
ドロップ報酬は、宝箱にナミナミに入った、イカ墨。
実は高値で取引されているんだって。
木炭と混ぜて、魔法陣を書いたり、魔術師には必須のものだ。僕は魔法陣を書くのにたくさん使うから、売らないよ。たぶん。インクに加工すれば匂いもなくなるし。
その前に、今度イカスミスパゲティを作ろうかな。
10階層。森と草原の階層だ。
ここでようやく雑魚敵として魔兎が出てきた。
でも毛皮は馬鹿売れしたから、今は少し僕のせいで値下がり気味だ。
肉もたっぷりストックあるしなあ。
森産の方が魔力が濃いので、味も濃縮した感じがすることは、町で食べ比べて知ってしまった。
ダンジョン産はそれはそれで美味いのだけれど。
それよりもうひとつの雑魚敵の火狐がちょっと魅力的。
狐の毛皮、ないんだよね。
食べるのはあまり美味くない肉らしいんだが、火狐の毛皮は魔兎なみに高価だそうだ。
そういえば、森にはいなかったな。
「どうして森には火狐がいないんだ?」
『昔は居たんだが、黒龍があの黒い山に住み着くようになって、姿を見なくなった。
たぶん縄張りを変えたんだな。食べてみたかったのか?あまり美味くはないぞ。』
「いや、別に食べたかった訳じゃないよ。ただ毛皮には少し興味がある。」
『そうか。森ならかなり遠くまで行かないと会えないが、せっかく此処にたくさんいるんだ。少し狩っていこう。』
「まあ、ほどほどにね。僕は食料以外の狩りはあまりやる気にならないんだよね。火狐が人族に悪さするなら狩るけど。ゴブリンみたいにさ。」
『なるほど。お前らしいな。まあ、あの毛皮は俺も嫌いじゃない。それに、適当に間引いておかないと、スタンピードであちこち火をつけられても面倒だ。適当に狩っていこう。』
「そういう理由もあったな。判った。」
という残酷な会話をしつつ、僕たちは数減らしのために狩りをした。
此処のボスは、兎のでかいのかと思ったら、狐のほうでした。
三尾の狐。
九尾じゃないんかい、と思ったが、もっと長命になると、尻尾の数は増えていくらしい。
三尾でも相当なワルだという噂。
戦ってみると、フェイントをかけてくるし、すばしっこいし、確かに正攻法ではつらい相手だろう。
だがこっちにはシンハがいる。
僕とのコラボの氷と風の饗宴で、凍った風刃で尻尾を切断すると、とたんに弱くなり、あとは心臓をひとつきで終わった。
この毛皮はなかなかだ。
ふかふかしてほこほことあったかい。ギルドには売らずに使うことにする。
尻尾は襟巻きにしよう。
ドロップはなし!