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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
132/529

132 乗合馬車

「♪~」

『おい。浮かれてないで。しっかりしてくれよ。ダンジョンの地図とかちょっとした薬とかはちゃんと準備したのか?』

「大丈夫だよ。地図は持ったし頭にも入ってる。

薬は亜空間収納以外にも普通にカバンに入ってる。

誰かにみられても大丈夫な中級ポーション(注:特上)に、ちょっとした傷につける傷薬(注:メルティア入り特別仕様)、毒消しポーション(注:特上)。

それからお菓子と水筒。数本のクナイ。スリ対応用の小銭しか入ってないサイフ。腰にはジャンビーヤ。うん、問題ない。」

『ダンジョンまでは歩くつもりか?』

「乗合馬車を使おう。満員ならシンハに乗る。」

『調子がいいな。乗せてください、だろ?』

「はいはい。乗せてください。シンハさま。」

『まったく。判っているのかね。俺の価値を。』

「判ってるって。神獣だろ?世界に4匹しかいないという超レアなしんじゅう。」

『だったらもっとあがめてもいいんだぞ。』

「あがめられたいの?僕なんかに?それでいいの。」

『ちっ、いちいち可愛げのない奴だ。』

「ふふ。まあまあ、そうからむなよ。ダンジョンにはシンハの好物のワイバーンもいるからさ。さっさと深いところまで潜って、新鮮なのを捌いて食べよう。そろそろストックも心もとないからな。」


ダンジョン内の魔物は、ほおっておくとダンジョンに吸収されてしまう。肉や革などが欲しければ、倒したらすぐに解体するか、布袋にでも入れねばならない。

ダンジョンの壁や床に接していると、吸収されるらしい。


『おう。今日はワイバーンを狙うぞ。何階だ?』

「えーと。あ。本当に深いな。25階だ。今日中に行けないかも。」

『途中は全速力で抜けるということはできないのか?』

「その階のボスを倒さないと、下への階段が出てこないって地図の裏に書いてある。特に僕たちは初潜りだから、ちゃんと倒さないとね。」

2度目の潜り以降は、踏破した階を省略できるのだ。

『うー。では今日はダンジョンに泊まりだな。』

「そうなるかもと思って、その支度はしてあるよ。もっとも、僕の亜空間収納は、いつでも臨戦態勢だから、テントからベッド、バスタブまで入ってるけどさ。」

『ふふ。何日か泊まって、絶対ワイバーンは狩るぞ。少なくとも20頭は。』

「えー、それは多すぎだよ。せいぜい5頭でいい。」

『大丈夫だ。毎日ワイバーン肉を食べればいい。』

「それは駄目。1頭でたぶん数ヶ月はもつんだよ。20頭なんて持ち歩きたくないし、食べたって絶対飽きる。」

『俺は飽きない。』

「じゃあ、生でどーぞ。あぶるのだって、手間かかるんだぞ。」

『ちっ。とにかく。なるべく多くとるぞ。』

「わかった。それには同意しておこう。」

『おう。』


北門まで来るとテッドさんと隊長さんにあいさつし、ユリアが無事にギルドに就職したことをお知らせした。

二人とも心配していたので、とても喜んでくれた。

ギルド長が養女にするという話には、さすがに驚いていたけれど。

二人ともギルド長の奥さんのアマーリエさんはよく知っているそうで、彼女らしいなと言っていた。


乗合馬車の乗り場はその門のすぐ脇だ。

馬車は魔馬2頭が引く大きな幌馬車だった。

シンハともども乗れたけど、なんだか炭鉱にでも出稼ぎに行く馬車みたいだ。

女性の魔術師とか剣士らしい人もいたので、少しだけ華やかだったけど。

僕は新参者だし、シンハを連れているので、一番後ろのすみっこに座った。

此処なら外にすぐ出られるし、シンハも人ごみで酔うこともなかろう。


「あんたがサキ君だね。女の敵のゴブリンキングを、やっつけてくれたってのは。」

と声をかけられた。

やめてくださいよ。無駄に注目されちゃうじゃないですか。

案の定、他の冒険者たちにぎろりと睨まれた。

「いやいや、みなさんの支援のおかげなんですよ。」

「謙虚だねえ。あたいはウィリー。こっちはメグ。『チーム暴風』のメンバーさ。」

「よろしくね。」

「よろしくです。」

「大きな獣だね。犬かい?」

「ええ。シンハです。」

「ばう。」

「今返事したよ。可愛いねえ。撫でてもいいかい?」

「ええ。どうぞ。女性には優しいので。こいつ。」

「ふふ。…真っ白でふわふわじゃないか。撫で心地がいいねえ。」

クフウン。

まったく。女性には受けがいいんだから。尻尾をふっさふっさと振って、ご機嫌だ。甘え声まで出しちゃって。


ウィリーさんは剣士。メグさんは魔術師だそうだ。

さらに隣に座っているのがリーダーで拳闘士のトーレスさん、斥候のグレイさん。4人で「チーム暴風」。おそらく風魔法が得意なのかも。

トーレスさんは拳闘と斧が得意らしい。斥候のグレイさんは、いかにも身軽そうな青年だった。メグさんはハーフエルフらしい。


「あんた、ソロかい?」

「ええ。シンハとペアですけど。」

「なるほど。まあゴブリンキングを倒したんだから強いんだろうけど、此処は階層が進むといろんな奴が出るからね。属性もいろいろだから、結構油断ならないよ。」

「今、このダンジョンは、最下層は50階ですよね。噂では龍がダンジョンボスだって聞いてますが。」

「ああそうだよ。誰も見ていないが、ギルドの分析では、龍だろうってさ。しかも全属性持ちじゃないかって噂だ。」

「全属性!…確認した人はいないんですか。」

「ああ。50階層に行ったのは、Sクラス冒険者のチームだが、全員戻って来なかったってさ。もうかれこれ30年にもなるな。」

「49階層まで行った別のSクラスが、50階のボスらしい声を聞いたんだって。それが龍の声だろうって話だ。」

「戻ってこれたんですね。そのチームは。」

「49階層で深手を負ったから、断念して戻ってきたのさ。そのまま50階層へ行っていたら、どうなったかわからんな。」

「ああ。その後はそのチームが解散しちまったから、ダンジョンへの挑戦はやめて余所に旅立ったって話だ。」

「なるほど。ではまだそのボス龍を倒した人は誰もいないんですね。もし、ボスを倒したら、ダンジョンってなくなるんですかね。」

「このダンジョンはもともと魔力の溜まりやすい場所だから、なくならないだろうと言われている。ボスが倒されたら、しばらくは少しおとなしくなるが、やがて魔力が底に溜まったら、新しいボスを生み出して、また活発になるだろうな。」

「ダンジョンって不思議ですね。」

「まあ、そうだな。おかげで俺たちみたいなのが、とんでもない古代の宝に出会えるんだがな。」


ダンジョンから出るレアな宝は、古代文明の遺産だと言われている。

すべてではない。レアの場合である。他はありきたりの短剣だったり、ポーションだったりする。

階層の浅いところでは、普通は滅多にレアものは出ないが、それでも皆無ではなく、時々一攫千金のレアな宝物が出ることもある。

特にこのダンジョンは、レアな宝物が浅い階層で出やすく、かつ狩った魔獣の値段が高いものが多いので、人気なのだ。馬車に乗り合わせた人々も、皆生き生きしている…というか、ぎらぎらしている人が多い気がする。


僕とシンハの目的は…まあ、ワイバーンだな。うん。

希望が現実的すぎて夢がないと言わないでくれ。

あの森で長く暮らした我々にとっては、魔獣イコール食料なんだ。

普通、領都ヴィルドに出回っている魔獣の肉は、ダンジョン産である。

それらを食べた限りでは、それなりに美味しかったので、期待している。

魔獣は、魔素の濃いところにいる奴は、それなりに美味いのだ。


ほどなく馬車はダンジョン前に到着した。

道中、思いがけなく「チーム暴風」と仲良くなったので、飽きなかった。

「じゃあ、我々はすぐに潜るから。気をつけるんだよ。」

「サキ。無理しないで、難しいと思ったらすぐに引き返すんだよ。」

「シンハ。サキ君のこと、お願いね。」

とそれぞれに僕たちに声をかけて、ダンジョンの入り口へと向かっていった。


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