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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
130/529

130 治療の成果

ユリアはベッドに腰掛け、僕は椅子に座って、向かい合う。

「今から僕が、右手から少しずつ少しずつ、ヒールをしながら君の中に魔力を注ぎ、そして左手から僕の中に魔力を戻す。つまり、大きな魔力循環をさせるわけだ。気分が悪くなったら、遠慮しないで言ってね。いくよ。」

「いいわ。」

ユリアが目を閉じる。僕は彼女と手を繋ぐ。

美少女が目の前で目を閉じているから、ちょっとどきっとしたけれど、見た目相手は10才なので、それ以上は残念ながらときめかない。妹と手をつないでいるみたいな感覚だ。

ユリアの手は緊張しているのか、少し僕より冷たかった。


さて。

僕はユリアの魔力線をトレースするため、まずはごくわずかだけ魔力を流す。

「トレース。」

お腹にある魔力だまりは普通の大きさだが魔力が濃いのがわかる。しかしそこから伸びている魔力線が、本当なら大動脈のようになっているはずなのに、毛細血管のように迷走している。

しかも、あちこちで詰まりかけている感じだ。

「…どう?大丈夫?」

「ええ。…大丈夫。」


僕は、自分の魔力線も参考にトレースし、ユリアの魔力線のどの通り道を太くするかを選ぶ。

なるべく迷走していない道を選んだ。

そして、その選んだ魔力線に、ヒールをしながら魔力を少量、ゆっくりと流し込む。

「ヒール。」

するとヒール1回で、迷走している細い魔力線すべてで、詰まりが消えたように、ふっとスムースに流れた。だがその流量はまだ少しだ。

「イ・ハロヌ・セクエトー。フェルレン・ゴーシュール・エト・ラ・パールディ…」

僕は無意識に呪文を唱えた。魔力循環の魔法?自分でも不思議だが、そういうものだと思ってしまう。

あくまでゆっくり、流していく。でも今はさっきよりずいぶん魔力線がはっきり、しっかりした気がする…。特に大動脈になるような主要な魔力線に集中して流していく。ゆっくりと。


「ヒール。」

さらに魔力線の流れが良くなった。

「貴方の魔力?これ。…あったかい…。それに…とても『おいしい』…。」

「そう?」

「まるで…綺麗な空気の、森にいるみたい…葉っぱが…風に歌っているわ。」

と幻想的なことを言う。

「…なに?これ。だんだん、目眩が…。」

「おっと。」


ユリアの体が揺れて、座っていられなくなり、僕があわてて手を離して倒れそうになったユリアを支え、ベッドに寝かせる。

「ごめん。急にやりすぎたかな。」

警告はどうしたんだよ。鳴らなかったぞ。とアカシックレコードさんに文句を言う。

まあ、大丈夫、ということだと思おう。

「今日はこれくらいにしよう。」

僕はユリアをベッドに寝かせ、フトンをかけた。

「うー。なにこれ。まだ目がまわっているわ。でも、気持ちがよくて…。」

「ヒール。」

僕は普通に彼女全体にヒールをかけてみた。

すると、目眩はおさまったようだった。


「…ありがとう。目眩が治ったわ。…それにしても、今のはなに?魔力がぐるぐる体中を巡ってた。」

「魔力を巡らせたんだよ。

普通、魔法を使うためには、おなかにある魔力だまりから体内で巡らせて、練り上げて。それから手に持っていって、放出するんだ。

君の場合、その循環がうまくいっていなかったみたいだ。少し魔力の流れがよくなるように、魔力線を太くしてみた。注意したつもりだったんだけど、それでも急激だったみたいだ。ごめんよ。」

「ううん。ありがとう。…魔法を使う人は、みんなこんなに魔力を循環させているの?」

「さあ。他の人は知らないけど、僕は毎朝魔力を循環させるよ。

特に、大きな魔法をおこす時には、循環をとても意識する。たくさん練って、それから手に持ってきて、そして放出するんだ。あ、僕はちょっと特殊らしくて、僕自身の魔力だけじゃなく、それを導火線にして空中の魔素も使うから、他の人より効率よく魔法が使えるみたいだけどね。でも魔力を循環させる基本は同じだよ。」

「ふうん…。導火線?…については難しくてよくわからないけど…。でも家庭教師の先生も魔力の循環のことは言っていたわ。私は何をどうやっても、ひとりでは少ししか回せなかったの。今日やっと、先生が言っていたことが少し判ったわ。体全体を使って回すのね。」

「うん。特に、大きな魔法を使うときには、体内全体でよく循環させるよ。理解するってことは魔法の上達の早道だからね。いいことだ。」

「今なら少し、魔法が使えるような気がするわ。」

「大丈夫?めまいは?」

「もう大丈夫。やってみたいの。」

「わかった。」


ユリアは半身を起こし、手を出して

「ライト。」

と言った。

すると、手からかなりまぶしい光を放つ、光球が現れた。

「お。」

「わっ!」

ユリアはあわてて光球を消した。

「…」

なんだか驚いている。


「いつも、こんな強い光だった?」

「まさか!私ができたのは、せいぜい小さなロウソクくらいの、しかも今にも消えそうな明かりよ。こんな強い光なんて、作れたこと、ないわ!」

「魔力は?うんと減った感じがする?」

「…。いいえ。しないわ。むしろ、活発にまわっていて、いつでも出せるって感じ。」

「なるほど。じゃあ、もう少し、魔法を使ってみる?」

「そうね。私は光と水が少し使えたの。次は水を試したいわ。」

「またさっきみたいになるといけないから…よいしょっと。ここに水を出してみて。」

僕は亜空間収納から、バスタブ(旅行用)を取り出した。

ユリアは目を丸くしている。


「今、どこから出したの!?」

「ああ。僕の亜空間収納からだよ。」

「!すごい…。」

「え、そう?あはは。こほん。まあとにかく、水、やってみて。」

「あ、うん。」

気を取り直したようで、ユリアはベッドから降りてバスタブの傍に立ち、手をタブにむけて

「ウォータ。」

と言った。

すると、勢い良くジャー!と水が指先から出て、バスタブに入り、みるみるうちに水が溜まっていく。

バスタブ半分まできたところで、

はあはあ、と息が荒くなり、その場に座り込んだ。


「すごいね!やったじゃん!」

僕は拍手した。

拍手しながら彼女の魔力残量を鑑定。

うん。大丈夫。あと5,000もある。

「がんばれば、まあ、こんなもんよ。」

と強がり発言がなんだか可愛い。

「ふふ。これから訓練すれば、たぶんもっと楽にできると思うよ。おめでとう!」

「ありがとう。…これが、本来の私の魔法の力?…こんなこと、はじめて。信じられない。」

自分がなし遂げたことがまだ信じられないようだ。

じっとバスタブの水をながめている。


シンハがとことことユリアの傍に行き、彼女の手に、前足を触れさせた。

『おめでとう。ユリア。』

「シンハ?」

「!」

ユリアが驚いてシンハを見ている。

「今…聞こえたわ。シンハの言葉。おめでとうって。」

「(シンハ。いいの?ばらしちゃって。)」

『いいんだ。ユリアには友達が必要だ。』

「シンハ…。私の友達になってくれるの?」

『ああ。我もサキも、君の友達だ。』

「ありがとう!」

ユリアがシンハの首を抱いた。

ひとしきりシンハを抱きしめたあとで、ユリアが顔をあげてシンハに尋ねる。


「でも、どうして?さっきは貴方の声が聞こえたり、聞こえなかったりしたのに。」

『我に触れていたから聞こえたのだ。離れたら聞こえなくなった。そういうことだ。』

「そうなのね。」

シンハがわざと彼女から離れ、僕のところに来た。

『今は、聞こえるか?』

「!聞こえるわ。どうして?離れているのに。」

『おそらく、心が繋がったからだろうな。』

「え、じゃあ、これからは僕とシンハの内緒話は、ユリアにはまる聞こえってこと!?」

『いや、そうはならないだろう。お前は我と「契約」をした仲だからな。』

「私とシンハの内緒話は、サキには聞こえちゃうの?」

『うーむ。おそらく、サキが遠くにいる時ならそうはならないだろう。近くなら、聞こえてしまうのかもしれんな。それは普通に声に出す会話と同じことだ。』

「そうなのね。ちょっと残念。」

「残念って…僕の悪口を、シンハと言おうとしてたの?ひどーい。」

と僕が訴えると、シンハはぐるぐると。ユリアがくすくすと笑った。

「悪口言われないような行動をすればいいだけよ。」

「まあ、そりゃそうですが。」

3人でくすくす笑う。


ふと、ユリアは僕に歩み寄り、両手を広げて僕をハグした。

と言っても、身長差があるので、胸に顔を押しつけて、ぎゅっとされたという意味だ。

「!」

「ありがとう。サキ。魔法のことも。なにもかも。」

「……ん。」

僕もそっとハグを返す。

「私、やっとどうにか生きていける気がしてきたわ。」

「僕もシンハも、心配してないよ。君なら大丈夫。」

「…私、強くないのよ。」

「知ってる。」

「うそ。会ったばかりなのに。」

「それでも。僕もシンハも、知ってる。」

「…そうね。知られちゃったわね。」

「ん…。少し、魔力を使い過ぎたようだね。横になるといい。眠いでしょ?」

「うん。実は、眠いの。」

「魔力、少しあげるよ。横になって。」

「ん。」

ユリアがベッドに入ると、僕は手をつないだ。


ゆっくりと僕の魔力を少しずつつないだ左手から彼女の右手へと送り込んだ。

抵抗はなく、すんなりと魔力は彼女の中に入っていく。

「サキの魔力って…なんだか、こう…陽だまりの森みたい。」

「そう?気に入ってもらえて、良かった。」

くすりと二人で笑う。

静かで、素敵な時間だ。


僕には妹がいなかったけど、いたらこんな感じかな。

でも、この子は発狂しそうな地獄を、毎日毎晩、経験してきたのだ…。

やわらかで小さめのユリアの手。ちょっとしたことで壊れてしまいそうな手だった。

「眠るまで、傍にいて。」

ちょっと言いようのないせつなげな目をして、そうユリアは言った。

「いいよ。」

なるべく自然になるように、僕は答えた。

「ありがとう。シンハも、ありがとう。」

『ばう。おやすみ。』

「おやすみなさい。」

そう言うと、寝顔を見られるのが嫌なのか、ふとんをかぶってしまったが、手はつないだままだった。

あまり魔力をいれすぎても良くないので、適当なところで止める。

手を離そうとしたがきゅっと握られていて、離せなかった。

けれど、やがて眠ったようだ。ユリアの手が緩んだので、そっと手を離し、彼女の手にも布団をかけた。


「(おやすみ。ユリア)」

僕の声が夢の中で届くよう、僕はわざと念話でそうつぶやき、シンハと一緒に部屋を…

おっと。バスタブは消しておこう。

バスタブをユリアが張った水ごと収納して、こっそりと部屋を出たのだった。



ゴブリン事件からユリアちゃんのお話まで、いかがだったでしょうか。

さて次は、いよいよ初ダンジョンですよ!

(あ、でも実際潜るまで、またちょっと掛かるけどね。)


いつも、いいね!や評価、ありがとうございます。

創作の励みにしております。

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