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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
124/529

124 ゴブリン事件 5 決戦!ゴブリンキング!

「走って!」

アリーシャがきりっとした表情で、僕に命令するように厳しく言った。

僕はその声に背を押され、弾丸のように家屋を飛び出した。

あとはもう、振り向かずに、走った。


小屋の異変に気づいたゴブリンどもが、次々襲ってくる。

アリーシャのファイヤボールとマリンの雷撃の援護射撃が、僕を通り越して敵に命中し、奴らを屠った。

僕は走って走って、向かってくる敵は全部魔法長剣で斬った!

「このくそったれ!なにが世界樹だ!なにが『世界樹の息子』だ!ばかやろう!!」

半泣きしながら、そう叫んでいた。

世界樹を恨むなんて八つ当たりだとわかってる。でも、無力な自分が、なにより腹立たしかった。


走って集落を脱出したときだった。後で

バリバリバリ!!ドッガァァァン!!

と落雷の音。

振り返ると、あの家屋の天井が高く吹き飛び、ぶわっと炎に包まれ、さらに家屋の中央で

ゴォォォ!!バチバチバチ!!…

と雷を帯びた派手な火柱が立った。


アリーシャとマリンの、冒険者らしい最期の火柱だった。


僕は、涙を拭い、ユリアというエルフの少女をサルスベリの木の根元に降ろした。

そして緑魔法を使う。

「サルスベリよ。ノウゼンカズラよ。この子を敵から守って。」

すると、彼女の背にしたサルスベリの木を中心に、ノウゼンカズラの蔓がするすると延びて、彼女を覆い、繭のようになって、保護した。

僕はさらにその上に落ち葉や枝を置いて隠す。

待っててね。

キングを倒してくるから。

君の恩人たちの仇を、とってくるから。

結界石も置き、さらに何枚も結界を張って万全を期すと、僕はまた集落に取って返した。


広場に走ると、そこにはシンハと、マッケレンさんとミケーネ、そしてギルド長がキングと対峙していた。

さすがにシンハは無傷のようだが、シンハ以外の2名と1匹は、それなりに傷を受けている。

周囲から矢をいかけられたようだ。

ほかの冒険者もゴブリンと戦っている。

キングはさしてでかくはなかった。2メートル50程度か。

だが石壁のようにがっしりした体躯だ。

相当のパワー持ちだろう。

その証拠に、手にした黒光りする棍棒は、自分の背丈よりでかい。

ウウー…。

シンハがあちこち噛みついたようで、キングはすでに傷だらけだった。

だが、それでも致命傷はない。

シンハが手こずるなんて珍しい。

キングは魔法も使うようだ。それと、周囲に冒険者がいるのでシンハは戦いにくかったらしい。


などと状況を把握していると

GUOOOOOOOO!!

キングが体を大きくしはじめた。

UGAAAAAAA!!

なんと5メートル…いや、8メートル以上か。

近くの木々ほどの大きさだ。

でかくなると同時に、体の傷も小さくなって癒えていく。

「なんだこのデカさは!」

「突然変異体だ!」

そんな冒険者たちの驚きとおびえの混じった声が聞こえる。

「怯むな!まずはザコどもから片付けろ!」

ギルド長の声が響く。

ギルド長は、両腕に傷を負っている。


僕はギルド長やマッケレンさんたちが、襲ってきたザコゴブリンを仕留めるために一歩シンハから離れた隙に、シンハに駆け寄り、僕とシンハとキングを中心にトルネードを起こし、ギルド長や冒険者たちと隔離する。

「トルネード!業火!」

火が竜巻にまじって、凄い勢いで周囲を燃やし始めた。

ギルド長や冒険者達には数秒だけ重力魔法をかけ、ゴブリンだけを浮き上がらせる。

火と竜巻に巻き込まれ、次々とゴブリンだけが宙に舞った。

舞い上がったところに、僕はさらに

「かまいたち!」

ざっくざっくとゴブリンが切り刻まれていく。


僕は怒っていた。

自分自身にも。ゴブリンにも。キングにも。ギルドにもだ。

どうして彼女たちを助けなかった。

何故知らなかったんだ。

行方不明になっていることを。

冒険者だろう?

ギルドは守ってやらなかったのか!

そしてなにより、自分の未熟さに怒っていた。


もっと僕が、あの時、森を独自に調査していたら!

もっと僕が、彼女たちの不在に気づいていたら!

もっと僕が、治癒魔法を学んでいたら!

もっと僕が、強かったら!

もっと僕が…!


魔法のヴィオールを習ったって、何になる!

いくら薬やポーションを作ったって、何になる!

肝心な時に、救うべき人を、ちっとも救えてないじゃないか!!


ああ!くそっ!気分が悪い!

だから。切り刻んでしまえ!


『サキ!サキ!』

はっとした。

シンハの声。

『お前が『堕ち』ては駄目だ。魔物になるぞ!』

魔物?…まもの…。僕が?

ああ、そうか。


『闇墜ち』という。

一説には、魔物は怒りや嫉妬、恨みなんかでできるとも言われる。

僕はそうなりかけていたのか。

だって、仕方ないじゃないか。

僕は聖人じゃない!

人間だもの!

時には怒りも、憎みもする!

「シンハ。僕は聖人じゃない!」

『それでもだ。落ち着け。現実をみろ!』

現実を?

僕は現実を見た。


周囲は火と竜巻で荒れ狂い、ゴブリンたちは粉々になり、腕や足がもぎ取られた状態で風に舞っていた。

冒険者たちはその竜巻をおそれ、その外側で竜巻を見守りつつ、我が身が竜巻に巻き込まれぬように精一杯防御していた。

ふっと僕は竜巻を解除した。

ぼたぼたと無残なゴブリンの死骸…いや残骸が降った。

その中央に、まだキングは立ち、僕とシンハをにらみつけている。

『やっと正気に返ったか。馬鹿め。』

「どうせ僕は馬鹿だよ!そして未熟者だよ!」

開き直る。

『そうだな。だから俺が傍にいてやるんだ。いくぞ!相棒!』

「ああ。絶対、仕留める!」

『おう!』


シンハがむくむくと体を大きくした。

僕がシンハに飛び乗ると、シンハはキングを中心に、竜巻と同じように走りまわり始めた。

僕はさっと矢をつがえる。

矢には、特製の鋭く長い鏃。

堅い魔獣用に、作ったものだ。

魔力を込め、シンハに乗ってキングの周囲を巡りながら、奴の頭部を狙う。

キングが不敵に笑った。

そんな矢など、あたるものかと。

確かに。

それでもいいんだ。

これが僕たちの戦い方。


シンハが、奴の正面にさしかかった時だった。

一瞬シンハが風を起こす。

木々の枝が飛び、キングの目を打った。

今だ。

僕は魔力を込めた矢を放つ。

一瞬、はっとしたように、キングはそれでも手にした棍棒で矢をたたき落とさんとした。

だが、矢はそれをふいっと回避するようにすり抜けたかと思うと、キングの首筋にグサッと刺さった。

GYA!

よほど痛かったのか、思わず棍棒を取り落とし、慌てて首に刺さった矢を抜こうともがく。

次の瞬間。

僕はシンハが飛び上がったのにあわせてシンハの背に立ち上がり、さらに一段、高く跳躍した。

キングは棒立ちになっている。その真正面!


「フレイムソード!!!」

火魔力を乗せた魔剣を真上に振りかざす。

一瞬だけサラマンダの幻影が見えた。

同時にシンハが

GAOOOOONNNN!!

と吠えて風と魔力を僕の剣に送ったのがわかった。

途端に魔剣の炎がぶわっと増す。

すべてがスローモーションで進んでいく。クロックアップの効果だろうか。それとも集中力のせいか。

キングはあわてて腕を交差し、身体強化をかけてそれを受け止めようとした。

「でやああああああああ!!!!!!」

通常の5倍ほどの長さに変わった白いほどの炎の魔剣を、気合いと魔力を込めて、クロスしたキングの両腕に最上段から振り下ろす!


魔剣は火の魔力を帯びてまばゆい光を放ちつつ、キングの防御せんとした両腕を斬り、頭頂部を斬り、顔を斬り、胴を斬り進み、まるで羊羹でも切るかの如くに、縦にまっすぐに斬った!!

Hii!

と言ったのがキングの最期の悲鳴だった。

シンハが僕を背にキャッチしてふわりと降りる。

ドドォン!!

地響きをたて、キングは真っ二つになって横たわった。本当に真っ二つに。

筋肉の反射だろう。ひくっひくっと2、3度痙攣を起こしたが、すぐに巨体は静かになった。黒い靄とともに、光の粒が昇天していく。

キングの黒緑色の魔石も、真っ二つに割れていた…。


おーー!!!

冒険者たちが勝利の雄叫びをあげた。

あとのゴブリンたちは冒険者たちの手で全滅させられた。

集落は消えた。


僕はアリーシャとマリンが居た家屋を振り返った。

火はまだちろちろと燃えていたが、家の形はもうほとんど無かった。

入り口だったあたりに、ゴブリンどもの焼け焦げた足や胴が、折り重なるように複数見えた。

ああ、やはりアリーシャたちは、最期まで何匹も道連れにしたのだなと判る。

すでに屋内だったところに生命反応はない。胎児も含めて、だ。

僕は再びそこに業火で火をかけた。

誰にもみられたくない。

そう彼女たちの魂の声が聞こえた気がしたから。

家屋もゴブリンも、彼女たちも、何もかもが、綺麗な真っ白な灰になるまで、僕の業火は消えなかった。


その後、中央の家屋からも自害した女性たちの遺体が出た。

ひとりはやはりエルフだったそうだ。

彼女たちも、冒険者の女性たちの手で荼毘にふされた。

男たちには見せたくないからと。


アリーシャとマリン…。

二人の女性冒険者との出会いと別れは、サキの心に強い印象を残したのでした。

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