120 ゴブリン事件 1 事件発覚
事件です!
今日から数日、毎日投稿します。
僕とシンハは、3週間くらいは、薬草採取や町中での荷物運び、大工の手伝いなどのほか、ヴィオールのレッスンの時、雑貨屋のおやじさんにダシスープを飲ませてあげたり、サリエル先生のところにポーションを卸したついでに治癒術師のバイトをしたりと、のんびり過ごしていた。
町中の依頼をこなしていることが多かったのは、今は夏なので、依頼が滞りがちだったということもある。というのも、冒険者の多くが涼を求めて、火の山階層以外の「夏ではない」ダンジョンに潜ってしまっているからだ。
僕とシンハは寒暖にはめっぽう強く、夏でも汗だくにならないという特技(?)をもっているからでもあった。
だが、さすがにそろそろ討伐系をしたくなったので、今日は森の入り口付近に、ゴブリン退治に来た。
ゴブリンについて、少しおさらいしておこう。
ゴブリンは、背格好は人間の10才から15才程度の背丈で、小型二足歩行の魔獣だ。血や体液は緑色で性格はずる賢く残忍。筋肉は強く人間の大人程度の力は十分にあり、武器を使って戦う。
ただし武器は自分たちでは作れず、人族から奪ったものを使う。
群れで暮らし、雑食で、人族ももちろん食べる。
ゴブリンメイジ以外、普通は魔法が使えず、体臭が酷い。好色で多産。
ゴブリンの肉は非常に不味く、好んで食べる特異な魔獣もいるらしいが、ほとんどの魔獣が嫌う。
当然、グルメのシンハはかみつくのさえ嫌で、倒す時も牙を使わず爪か風魔法でしか倒さないほどだ。
冒険者にとって収入になるのは、右耳が討伐の証拠になるのと、暗緑色の小さな魔石だけ。
しかもアンデッドにならぬよう、死体は聖水をかけるか焼却せねばならず、討伐対象としても評判が良くない。
そしてゴブリンの一番の特性は、なんと言っても他種族を妊娠させることができる点である。
どんな種族が母親でも、胎児は必ずゴブリン族となる。ハーフは生まれない。
ゴブリンの雌が妊娠した場合は、子供は普通に生まれるし母体に影響はないが、他種族の雌が孕ませられると、ゴブリンの胎児は母体の臓器とランダムにつながり、内部から侵食、母体を栄養源として育つ。妊娠期間は約2ヶ月から3ヶ月と、とても短い。
そして、最後は文字通り母体の腹を喰い破って生まれてくる。
そのため、ゴブリンの子供が生まれる時、必ず、その母体は死ぬのだ。必ずである。
しかも、そうやって他種族から生まれた者のほうが、強い個体であることが多いという。
要するに、全ての種族の女性にとって、敵なのである。
さて、僕達が初クエストで遭遇した毒針魔狼の件は、初めてのケースだったので、本部にも依頼して調査を続行中だ。同じような魔狼は全く出ていない。
一方、ゴブリンメイジと手下のゴブリンの件については、ギルドがすぐに森の調査をした。結構奥まで丁寧に調査させたらしいが、特に森に変化はなかったという。
一応、冒険者たちに注意喚起をしたものの、あれ以来、同様のケースはなく、ごく普通のゴブリンしかでていない。
そのため、あれはたまたま浅い所に出てきたハグレだったのだろう、という結論に達していた。
僕も、ゴブリンの件はちょっと気にはなって、成り行きを見守っていたが、3週間経っても変化なしということで、いちおう安心はしていた。
僕はゴブリンの緑色の血が嫌いなので、今日も主に弓矢で仕留めていた。シンハもウィンドカッターを乱発。
「なんか、こいつらちょっと強くない?」
『ああ。妙だな。』
とシンハも違和感に同意した。
ところが。
さらにちょっと強いゴブリンを仕留めた時だった。
「!シンハ。来て!」
『どうした?』
「イレズミだ。」
首に十文字の花のようなイレズミがあった。
「それに…この武器。街で見かけた人間の武器と違う。ゴブリンって、武器を作ったりするの?」
『ありえん。ゴブリンは人族の武器を奪って自分の武器とする。手入れもできないから、錆び付いたものを使っているのが普通だ。』
だが、その武器…山刀は、無骨だが錆はなく、ぎらぎらしていた。
さっきまで狩っていた3匹の雑魚ゴブリンは、普通にサビサビの人族の剣だったのに。
「それにこの武器、イレズミと同じ十字花の模様が彫ってある。」
刃の根元に、十字の花模様が刻まれていた。
どういうことだ、と思っていると
「!また来た!今度はもっと強いのが混じってる!」
それからは次々と襲ってくるゴブリンを、僕とシンハで確実に倒していった。
中には魔法を使う奴と、雑魚より二回りも大きくて、鎧を着けた奴もいた。ゴブリンメイジとゴブリンナイトだ。もちろんそれらもしっかり倒す。
気づくと、合計30匹も倒していた。
「ふう。これで一段落か。」
僕は索敵をして、近くにもうゴブリンが居ないのを確認し、ようやくほっとした。
普通なら倒したら討伐部位だけとって高熱で死体を焼くのだが、不思議なイレズミをしていたことと、そいつらが雑魚でさえやけに強かったので、念のため死体はすべて、ギルドに見せることにした。
僕とシンハによって討伐されたゴブリンは30匹。
そのうちイレズミありが12匹。ゴブリンメイジとゴブリンナイトが1匹ずつ含まれている。まるで1個小隊だ。
しかもイレズミありが持っていた武器は、弓、槍、山刀、棍棒だったが、どれも無骨だが統一感があり、イレズミと同じ模様が武器にも彫られていた。まるで自分たちで作ったもののように。
シンハが言ったように、普通、ゴブリンが使う武器は、人族から奪ったもの。自分たちで作ったりはしない。
鑑定さんは『突然変異体』だと教えてくれた。
僕とシンハがギルドにとって返し、急ぎ報告すると、先日の毒針魔狼やゴブリンメイジに引き続き、これはいくら辺境とはいえ、由々しき事態とギルドは判断した。
きっとゴブリンの『突然変異体』のゴブリンキングがいるはずだとなり、領都にいる冒険者たちに、明日必ず出頭すべしとお触れが出た。
どうやら、「ぴかぴかの刃物を持つゴブリン」は、これまでにも数体、目撃または討伐されて居たらしい。だが、イレズミに気づかなかったり、たまたまきれいな刃物を人族から盗んだんだろうと考え、異変だとは思わなかったようだ。
今回は30匹という数だったので、皆も異常だと気づけたのだった。
翌朝。
冒険者たちはほぼ全員ギルドに集合していた。ダンジョンは昨日午後から閉鎖され、中にいた冒険者たちも強制的に帰還させられていた。
ギルドの地下練習場。
大勢の冒険者の中に、僕もシンハもいた。
テオドール・フォン・マッケレンさんも、ギルドに来ていた。
あのグリフィンのミケーネの飼い主だ。
「マッケレンさん。おはようございます。お久しぶりです。」
「おう。おはよう。サキ君か。元気だったかい?」
「はい。」
マッケレンさんとは、初日の飲み会以来、会えていなかった。
お互いギルドには通っていたようだが、特に僕のほうがイレギュラーな時間に行っていたせいだろう。
ミケーネがシンハを見て喜び、翼をはためかせてギャーギャーと啼いた。
そしてまた頭をかがめて、最敬礼ポーズだ。
シンハはフンフンとミケーネの嘴に鼻をつけてやる。
仲いいね。
「ミケーネと数日潜っていたんだが、ダンジョンでは会わなかったね。」
「実はまだダンジョンには行けていないんです。冒険者になりたてなので、採取とか町中の手伝いを中心にしていたので。」
「そうか。まあそういった仕事も冒険者には大切な仕事だからな。」
「はい。」
「特に町中の仕事は安全な割にポイントが高い。真面目にやったなら、ほどなくEにあがれるだろう。がんばりなさい。」
「あ、はい…。ありがとうございます。…えと、実は」
「おーい。サキ!ちょっと。」
ギルド長が僕を呼んだ。
「あ、すみません、ちょっと行ってきます。」
「ああ、うん。」
ギルド長に呼ばれた僕は、皆にゴブリンが出た状況について説明しろと言われた。
そのため、自分がすでにCランクだとマッケレンさんには言いそびれてしまった。
続きは明日!




