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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
119/529

119 その頃、妖精たちは PART2

サキがヴィルドに着いて3週間になろうとしていた。

森を出発してから約2ヶ月である。

そのころ、森の奥では…


「ふあーあ。つまんねー。」

「まったく。グリューネったら。朝はまず『おはよう』でしょ。開口一番『つまんねー』じゃあ、幸せも逃げて行くわよ。」

此処は妖精たちが集う湖のほとり。

朝からグリューネは火の妖精トゥーリに注意されている。


「だってよぉ。マジつまんねーんだもん。」

「サキがいないから、でしょ?ふふ。そんな貴方に、ちょっとしたニュースよ。」

「うん?」

「昨夜、サラマンダ様と、ようやく念話がつながったのよ。サキと森の王様の様子が、少しわかったわ。」

「本当か!?サキとシンハ様はどうしてる!?」

「無事に人間の街ヴィルドに着いたって。」

「おぉ!…で、今なにしてるんだ?魔物退治?ダンジョン?それとも鍛冶屋か薬屋でも開いたか!?あ、菓子屋か食堂か!?」

「あー、うん。そこまでは…聞けなかったわ。」

「えー、なんでだよ。」

「あのね。サラマンダ様は、基本的に言葉じゃなくて雰囲気で念話するタイプなのよ。近ければ映像を送ってくれる場合もあるけど、これだけ遠いと、それは無理。第一、念話に答えてくださること自体、まず期待しない方がいいくらいなのよ。」

「えー。雰囲気?期待しない方がいい??なんだよそれ。」

「えーと…ここだけの話よ。サラマンダ様ってかなり気まぐれなのよ。機嫌が良い時しか念話しないし、伝えてくるのも「いい」とか「ダメ」とか簡単な言葉だけ。しかも、私はこれでも気に入られてるから、念話に答えてくださったけど、普通の火の精じゃ、無視なのよ。」

「へえ。」

「だから、あまりよくわからなかったわ。いただいた言葉は「着いた」「元気」「楽しそう」だけよ。」

「ああ?あー…。お前も結構ボスには苦労してんだな。」

「同情ありがと。こほん。という訳だから、サキとシンハ様は、どうにかヴィルドに到着して、元気にしているみたい。で、楽しそうにしてるってことね。

これでも、「あの」気まぐれなサラマンダ様にしては「楽しそう」って、他の人のことを伝えてくれるなんて、驚きなのよ。普通なら、自分が「楽しい」って送ってくるだけなんだから。」

「なるほどな。ふうん。なるほどな!」

しきりに感心するグリューネ。


「じゃあ、とにかくサキたちは、無事に到着して、楽しくやってるってことだな。シンハ様、結局サキにくっついて行くことにしたんだな。そっかぁ。」

「まあ、サキはなんでもできちゃうけど、森の外ははじめてだからね。」

「確かに。」

「たぶん、自分の魔法の種類も威力も、人外だってことも知らないで、今頃、街でいろいろ戸惑っているか、周りの人をびっくりさせてるんじゃないかと思うわ。」

「くくく。俺もそう思う。あれで結構、剣の腕前もそれなりだしな。くく。」

「そうね。ふふ。」


「で、次はいつ念話するんだ?」

脳天気にわくわくしながら訊ねるグリューネ。

しかしそれがトゥーリの癇癪のツボを刺激してしまった。

「はぁ!?あんた、本気で言ってるの!?そんなこと、すぐにできると思う!?昨夜やっっっと、つながったのよ?3つの言葉を聞き出すのに、何日かかったと思ってるの!?なのにまたすぐに念話しろって!?ボスに!?貴方がやれば!!人の気も知らないで。グリューネの馬鹿!!もう、知らない!!」

「わ、わかった。悪かったって。機嫌直せよぅ。」


トゥーリがサラマンダと交信して、サキたちの情報を得たという話は、瞬く間に妖精たちの間に広まった。特にトゥーリたちが広めた訳ではないのに、である。

まあ、あれだけ派手に夫婦(めおと)漫才をやっていれば、当然といえば当然だろう。


「サキと王様、ヴィルドに着いたって。」

「元気らしいよ。」

まではいい。だが

「魔獣ばんばん倒してるってさ。」

「街の壁、ぶっ壊したらしいよ。」

「街を燃やしたっていう噂だぜ。」

とあることないこと、尾ひれがつき、ついには

「サキとシンハ様が、街をぶっ壊して、支配下におさめたらしいよ!」

「サキが、魔王になったってさ!」

などと、とんでもないことになっていた。


「あらあ。なにそれ。ありえなーい。」

と笑っているのは湖の精。

「聖獣のシンハ様がついているのに、サキが魔王になる訳ないでしょ?」

「「たしかに。」」

「誰からの情報なの?」

「「トゥーリ。」」

「「グリューネ。」」

「俺は土の3番から聞いたぜ。」

「私は風の5番から聞いたわ。」

「コマドリも言ってた!」

わちゃわちゃと勝手にしゃべり始める。

「わかった。わかった。みんなちょっと静かに!」


湖の精は妖精たちにストップをかける。

「話の出所はトゥーリとグリューネみたいね。直接聞いてみるわ。」


そうして、湖の精はトゥーリとグリューネに会い、ようやくトゥーリが「着いた」「元気」「楽しそう」という報告を、サラマンダから聞いたという真実に到達できた。


「ふたりとも、元気でやってるのね。良かったわ。」

「湖の精は、行ってみないの?お水のあるところなら、どこにでも行けるんでしょう?」

とトゥーリ。

「あら、そんなことはないわ。特に私は、汚れた水と、魔素の薄いところは好きじゃないの。力も弱くなっちゃうし。街の中は、たとえサキに会えるとしても、なかなか行く気にはなれないわ。」

「ふうん。私は、湖の精も、サラマンダ様みたいに、サキたちにくっついて行っちゃうかもって思っていたんだけどな。」

「ふふ。トゥーリ、スルドイ。」

と湖の精が笑う。


「本当はそれも考えたわ。でも、私が一緒だと、きっとサキを甘やかしちゃう。あの子に危ないことはして欲しくないもの。サキは街へ人としての経験を積みに行くんだから、私みたいな過保護な妖精が一緒だと、きっとあの子のためにならないと思ったのよ。我慢したのよ。なのに。サラマンダったら、勝手にくっついて行っちゃって。ずるいわ。」

「あー。あはは。すみませーん。」

とボスの代わりに謝るトゥーリ。

「まあ、魔獣退治とかには火の精がいた方がいいでしょ。便利な用心棒と思えば、我慢できるわ。」

「はあ。」


「それにね、サキはきっとそう遠くない日に、此処に戻ってくると思うの。」

湖の精が空を見あげながら言った。

「本人もそう言っていたし。なにより洞窟をあのままにして行ったでしょ。ということは、近々帰ってくるつもりだってこと。」

「そっかぁ。」

「ああ、なるほど。そうだよな!」

とそれまでじっと二人の会話を聞いていたグリューネが目を輝かせた。

「サキは、この森でまだまだやり残したことがたくさんあると思うの。」

と湖の精。

「たとえば?」

「冒険よ。」

「冒険?」

「冒険か!」

「そう。『人の住む街にも行ってみたいけど、この森のあちこちにも行って見たい』って、言っていたことがあるわ。

それに森の王も、そのうち森を見回りに行きたくなるだろうし、ね。」

「なるほどな!」

「シンハ様と一緒なら、森の見回りにサキも行くよね。絶対。」

「そういうこと。」


「はやく戻ってこねえかなあ。サキのポムロルパイ、くいてぇ。」

「まったく。グリューネは、そればっかり!」

「お前だって、同じこと、思ってるくせに。」

「え、私は…ま、まあ、それは…否定はしないけど。」

「ふふ。相変わらず、仲良しね。」

「お、おれはそんなんじゃ。」

「わ、私はそんなんじゃ。」

同時にそう言って、顔を見合わせる二人。

「うふふ。やっぱり仲良しじゃない。ごちそうさま。」



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― 新着の感想 ―
質問なのですが、シンハは神獣なのですよね?セリフでは聖獣となっていますが、神獣=聖獣なのでしょうか?? 私が読み飛ばしてしまっていたら申し訳ございません!! これからも楽しみに読ませていただきます!
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