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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
110/529

110 初心者

トンカントンカン!

今日、僕は屋根の上でカナヅチをふるっている。

口にクギを銜えつつ。

シンハは近くの立ち木の下でお昼寝だ。


「結構おまえさん器用だな。」

声をかけてくれたのは熊さんだ。

いや、落語的な名前じゃなく、熊獣人で大工の親方、タッカーさんだ。通称:熊親方。

最初は当惑したが、さすが異世界だとすぐに頭を切り換えた。


「あざっす。自分、こういうこと、結構好きなんで。」

確か前世では職人の若者はこんな感じで答えてたな、と思いながら、なりきって答えてみた。

にあわねー。と言いたげに、シンハがフンと寝たふりしながらしっぽをぱたんと振った。うるさいよ。これも処世術というのだ、とちろとにらむ。


「おう。仕事も丁寧だ。いつでも転職できそうだぞ。」

「あざっす!」

トンカントンカン!


今日は何をしているかというと、ちゃんと冒険者としての依頼をこなしている最中だ。

一応Cに昇格したものの、カークさんには冒険者の基礎はおろそかにしないように、ということと、EやFの仕事も受けてよい、というか、なるべく最初はそういう仕事をするようにと勧められているのだ。


上位冒険者が下位ランクの依頼を受けていけないとはされていない。

ただ実際受ける人はほぼいないだけだ。

何故なら報酬が安いし、ランクアップのためのポイントも上位ランクにとっては低くて旨味がない。それに、下位者の仕事を横取りするのもよいことではないからでもある。


下位ランクにとっては町中の仕事は侮れない。安全なのに貢献度のポイントが討伐系より高いことさえある。それだけギルドは町中の依頼を大切にしているという訳だ。

カークさんに勧められた仕事の一つがこれ。ランクEの、町中で大工の手伝いをするという依頼だ。

今日はシンハには時々荷物運びを手伝ってもらっているが、あまり出番はないので、今は立ち木の下でおやすみいただいている。


「屋根が終わったら、レンガ運び手伝ってくれや。」

「了解っす!」

数分後には釘うちを終えて梯子を降りると、先輩大工のところに行って、運ぶレンガを教えてもらう。

「この山全部だ。これをあっちの壁際へ運ぶんだ。」

「判りました。」

と言って、僕はレンガのかなり大きな塊に手を触れた。

ふっとレンガの山が消える。

「んん?な、なんだ!?」

「え?」

「今、おめえ何をした!レンガはっ!」

「いや、収納バッグあるんで。あっちに出せばいいんですよね。」

とことこ歩いて、別のレンガ職人が壁を作っているところに行って、

「レンガ、この辺に置いていいっすか?」

と聞くと、職人は壁から目を離さず、

「ああ。」

というので、シュッとレンガの山を出した。

僕がやったことに気づいてはいない。自分の仕事に集中しているからだ。

さっきの先輩のほうは僕の状況を見て、あんぐり口を開いている。

そんなにおかしいだろうか。

収納バッグが存在していることはシンハから聞いて知っているから、別にそんなに驚くことでもないだろうに。

「あんな…量…いったいどれだけでけえバッグなんだ?」

とぶつぶつ言うのが聞こえてきた。

ああ、そうか。あまり物量は入らないと聞いたような気がする。

こんな程度ならきっとあるだろうと思ったのだが。


「おーい、サキ!材木運ぶの手伝えや。」

「ういっす!」

角材の山が熊親方の前にあった。

今届いたばかりの材料だ。

まだ魔馬4頭で引いてきた荷台に乗っている。

「運べるか?お前細いから…無理か?短いのだけでいいから…」

「いえ。収納バッグあるから、大丈夫っすよ。」

と言って、荷台の上の材木だけをシュッと収納したら、今度は親方にも驚かれた。

「んんっ!お前、そんなでけえバッグ持ってたのか!」

「はあ。」

「それだけで商売できるぞ。」

「そうなんすか?」

「冒険者、いやになったらいつでも来いや。」

「あざっす!」

そう言いながら、親方が指示した場所に材木を吐き出す。

シンハはまたフンと鼻を鳴らして、ぱったぱったと尻尾を振っていた。


それからレンガ積みも手伝った。

さっきのレンガ職人に基本を教えてもらってコテを握り、見よう見まねでやっていると

「お前さん、やったことあるな。」

と職人に言われた。

「まあ、自己流で。ちょっとは。」

森のど真ん中に風呂だの鍛冶場だの、作ってましたからね。

「うん。なかなかスジがいい。そうそうまっすぐ。ただ重ねりゃいいってもんじゃねえからな。」

「うす!」

レンガ積みはコツを教えてもらったりして有意義だった。

今度また自分の作業場でも作る時にはもっとうまくできることだろう。


夕方。

「いやー。助かった。サキが来てくれて、今日は仕事がはかどったのなんの。予定していた明日の分までおわっちまったぜ。ありがとよ。」

「お役に立てて良かったす。」

「レンガ積みまでできるたあ驚いた。レンガ職人のマッドも褒めてたぜ。サキならいつでも弟子入りしていいってよ。」

「うれしいっす。」

「今度指名依頼出すから、そしたらまた頼むぞ。指名なら、報酬はあがるはずだからな。」

「あざっす!」

「ところで、お前さんはEか?まさかFってことはねえだろ?」

「はあ。」

「ん?もしかしてDなのか?」

「えーと…」


僕は何も言わずにカードを見せた。

「ん?なぬ!C、だとっ!」

「「はあ!?」」

近くに居た先輩大工たちも驚いている。

「すんません。」

「俺はEランクで出したはずだぞ。なんでCのお前さんが受けてんだ?割にあわねえだろう。」

とやや憮然としたように親方は腕組みしながらそう言った。


熊獣人に目の前で仁王立ちになられて、けむくじゃらの太い腕を目の前で腕組みされると、それだけで威圧感がぱねえのですが。

何故上のランクの者が下のランクの者の仕事をとるようなことをしてるんだ、という意味もあって不機嫌なのだろう。見た目恐いが世話好きそうな親方だからな。


「実は自分、冒険者に登録して間もないので。ギルドからはちゃんと実力を見てもらってCのランクをいただきましたけど、冒険者としては新米だから、基本は学ぶようにってことで、副支部長のカークさんから、EとかFの仕事も勧めてもらってるんです。」

「ほう。なるほどなるほど。カーク先生がね。そういう訳か。それは感心だな。

普通はランクを鼻にかけて、いくら推奨されてもなかなか下のランクの依頼は受けないもんだと聞いていたが。」

「他の人はどうか知りませんけど、自分、確かに基礎ができていないので。もし指名していただければうれしいっす。」

「うーん。普通Cランクへの指名依頼じゃあ高くて無理だが、まあお前さんの働きぶりならそれなりに金出す価値はあるな。まあCランクの報酬までは出せねえが。」

「もちろん、それは承知してますです。」

「そうか。じゃあ考えとくぜ。本当にいいんだな。」

「ういっす!うれしいっす!また来ます!」

「おうよ!」

「今日はあざっした!」

ということで、完了のサインをもらって今日の仕事は終了となった。


『ふわーあ。今日は俺は出番なしだったな。』

とシンハ。

「そだねー。昼寝してるか干し肉食ってるかまた昼寝してるかだったよねー。」

『厭味か。』

「厭味だよ。」

そんな念話をしつつ、ギルドの扉を開ける。

レンガ積みも屋根直しも面白かったから、また受けてもいいな、なんて思いながら。


でもね、平和には終わらんのですよ。

続きは明後日!


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