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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
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11 サバイバル生活 7日目、8日目

7日目。

僕は魔猪を倒していた。

偶然出くわしたのだが、なんとか対応できた。

シンハも手伝ってくれたが、留めを刺したのは僕だ。

電撃をすると毛皮が使えなくなるし、短剣では頸動脈に達するのは難しいから、最終的には昨日魔狼に使ったように、短槍に魔力を通して強化したものを、回転とコントロールも魔力頼みでつけて、猪の目にぶちあてた。

目なら骨がないから脳まで達する可能性が高いからだ。

今度はマグレではなく、ちゃんと魔力で方向も威力もコントロールして当てた。

まあ、僕の腕力では魔法で強化しないととても長い竹槍なんか使えない。

というか、竹槍の形をした魔力槍を突き刺した感じだ。さすがに頭蓋が硬いので、魔力槍は頭蓋を突き抜けることはなく脳内に先端がとどまっていたが。


斃した瞬間、それでもまっすぐ僕に向かって走ってくるのには焦った。

そうだった。走っている生き物は慣性でそのまま筋肉が走る動作を続けるのだった。

ちゃんと飛び上がって避けたけど。

大樹の前だったから、魔猪はそのまま大樹に激突し、木をへし折って止まった。

やべえ。僕が押しつぶされてミンチになるところだった。結界は張っていたけどさ。


シンハが焦ったようでしばらく僕にグルグルウウと唸りながらじゃれてなめ回していた。

「ああ、ごめん驚かせたね。大丈夫、僕はちゃんと生きているよ。どこも怪我もしていないから。じゃれるなって。あはは。」


今日はもう狩りはおしまい。

その日は豪華に魔猪肉パーティー。

シンハにもたらふく食わせて、保存食も作って、僕もいっぱい食べた。


亜空間収納は優秀で、時を止めるだけでなく、物質を思ったとおりに分離や変形させられる。

魔猪もまるままぶち込んで、肉と、皮と、内臓と骨にわかれろーと念じてみたら、綺麗にわかれていたよ。

ただし魔兎よりかなり多く魔力を使うみたいだ。

さすがにイワシと金属を入れてイワシの缶詰になって出てくる訳ではないけれど、多少の変形は亜空間の持ち主の意志でできるらしい。


だから、短剣も使い込んでそろそろ手入れしたいなと思い、試しに亜空間に入れてみた。研ぎあがった短剣をイメージして魔力で短剣を包む。そして取りだしてみると、案の定、新品のようになって出てきた。

なんなんだろう。僕の亜空間は。


シンハは僕の危なっかしい魔猪狩りに驚いたようで、洞窟に帰ってからも僕にぴったりくっついて離れなかった。

「大丈夫。結界も張ってたし。最初から上に飛び退く予定だったんだ。ちょーっとあいつが大きすぎて、結構上に飛ばないといけなかったけどさ。心配かけてごめんよ。」

と言ってなでまわすと、

「くうん」

と甘えた声を出し、僕をやたらと舐めた。

「わかったわかった。もう無理しないから。ごめんね。よしよし。」

ぎゅっと抱きしめ、撫で繰り回してやると、ようやく安心したように僕に身をくっつけたまま傍で寝そべった。可愛いなあ。


それから魔法のこと。

今では鑑定さんが言うように、僕は水系、火系だけでなく、雷系、土系、植物系、風系や光系も使えるようになっていた。闇はちょっとよく判らないけど。

それだけでなく、亜空間は空間魔法だし、鑑定は無属性魔法というやつだろうし、それらすべてが一通り、初級はできますよ、という状態。

なお、厳密には空間魔法は無属性魔法の一種らしいが、一応「空間」と「その他の無属性」と表記されている。

魔力はまだまだ枯渇したことはなく、少し使い過ぎても、ちょっと休めば元通り。


光系は治癒魔法にもなることが判ったのも偶然だった。

サバイバル生活をしていると、どうしても小さな擦り傷や、トゲを刺すなどがおきる。このからだは回復力がかなりいいようで、擦り傷はみるみるうちに治っていた。

だから逆に僕が治癒魔法を使えると気づくのが遅くなったのだが。


保存食を作ろうと、囲炉裏で肉をあぶっていてちょっと二の腕をヤケドをした。

痛いなあ、と思って手を傷口にあてていたら、ほわんと光って傷が治った。

むむ、もしや、と思い、今度は意図的に、ちょっと右手の小指の先を短剣の先で突ついて血を出し、左手をかざして治れーっと念じたら、ほわんと光ってあっという間に傷がなくなった。それで確信ができた。

「シンハ。僕、治癒魔法も使えるみたい。」

とつぶやくと、

「ばう。」

と眠そうに答えた。

何をいまさら、とでも言ったのか。あるいは、あっそう。程度か。

とにかく気のない返事だった。

まあ、相手はフェンリルだ。治癒力がぱねえ奴だから、治癒魔法が使えることが、どんなに大きなことか、判らないのだろう。

「おめでとうって言ってよ。これは僕にとってすっごくうれしいことなんだぞ。」

前世、からだが弱く、いろいろな病気と戦って結局若くして亡くなったのだから。


僕はシンハを撫でながらつぶやくように言う。

「シンハ。僕ね。昔、すっごくからだが弱かったんだ。それこそ歩けないくらい。だから、治癒魔法が使えるってことや、からだが健康で、自由に飛んだりはねたり、走ったりできるってことが、すっごくうれしいんだ。今度は長生きしたい。できれば、ずっとシンハと一緒に。」

そんなことをつぶやきながら、僕は長いことシンハのやわらかい毛を撫でていた。



8日目。

シンハとはじめて会ったところの傍にある、湖に来ている。

真っ青な綺麗な湖だ。

「綺麗だね。妖精か精霊がいそうだね。」

とつぶやくと、

「バウ、バウ」

とシンハが答えた。

「え、いるの?湖の精霊さんとか?」

「バウ!」

「そっかー。じゃあ、綺麗にしておかないとね。…入ってもいいかな。」

「バウ。」

「大丈夫なんだ。魚は?とってもいい?」

「バウ。」

「なるほど。じゃ、ほどほどにとらせてもらおう。」

という感じで、僕はシンハと会話している。

勝手な思い込みではなく、イエスは「バウ」、ノーは「バルル」だ。


湖のほとりは遠浅のところと岩場のところ、そして芝生が広がったところがある。

遠浅のところは砂浜のようになっている。

よく見ると、ここにも綺麗な石がたくさんあった。

拾い上げて鑑定してみると、さまざまな鉱物だ。

石英、ルビー、サファイア、エメラルド、珊瑚…珊瑚!?

水はしっかり淡水で、海ではないのに何故かそういうものもまじっている。

湧き水のある河原より小ぶりだが、その分いい具合にまろやかになって、オーバル形とか球状のものもあり、そのままでブレスレットやペンダントに加工できそうな石ばかりだ。


僕は毎日、シンハのお気に入りの湧き水の下の沢で水浴びをするのだが、この川底には、逆に結構大きなルビーとかサファイアが転がっている。

小川は一度地底に潜り、それから濾過されて湖に流れているらしい。

湧き水の方が湖より小高いところにあるのだが、湧水から下流にむかってたどっていくと、ほどなく地下のトンネルに潜って終わっていたので、そう推測できた。

湖のほとりにさまざまな小粒の貴石があるのも、このあたりの地質によるものなのだろう。


「シンハ、湖とか川の石って、勝手に拾ってもいいのかな。それとも妖精さんとかに断らないといけないの?」

すると、ばるる、と言ってシンハが自分で大きめのサファイアを口にくわえて僕の前にコロリと置いた。お座りして尻尾を振る。

「ん?くれるの?」

「バウ!」

「ありがとう!そうか。勝手に取ってもいいんだね?」

「バウ!」

「わかった。ありがとう。わー綺麗だねえ。」

僕は宝石たちを拾っては陽に透かして眺めた。

どれもとても綺麗な宝石たちばかり。

売ればそれだけでかなりの金額になりそうだが、今のところ売り先もない。

まあ、少し拾っておいて、いろいろと装飾に使おう。

それから石英はガラスを作る材料だから、別の意味でしっかり拾う。


さて。

シンハの案内で岩場に行くと、格好の漁場になっていた。

さっそく竹槍で魚を何匹も仕留める。

地球では絶対こんなことをしても仕留められないだろうが、身体能力がこちらの世界に来てからというもの、飛躍的に増大しているので、竹槍での漁も難なくこなしている。

もうすっかりサバイバル生活が板についてきている。

走る速度もとんでもない。

体はほっそりしていて筋肉質ではないけれど、敏捷性が高くしなやかで、かつかなり丈夫な肉体みたいだ。


僕はすでに生前の自分を思い出していた。

病弱で、心臓が悪く、16才までしか生きられなかった。

もちろん、運動なんかできない。

1日1時間だけ許されたゲームで異世界を冒険していただけ。

そんな僕が、今は本当の異世界で、サバイバル生活!

シンハという神獣フェンリルと一緒に!

夢のようだった。

もちろん森には危険はいっぱいあるけれど、今のところシンハと一緒なら他の魔獣に食われる危険は少ない。

なにより、シンハが可愛くて!

僕はシンハと毎日暮らせるのがうれしかった。



夜。寝床で。

「なあ、シンハ、そろそろ塩が足らなくなりそうなんだ。森の何処かに、しょっぱい岩とか、ないかな。たぶん白とかピンクだと思うんだけど。」

ふさふさのシンハの毛を手作りの櫛で梳いてあげながら、そうつぶやいてみた。

シンハの毛は不思議で、抜けるとふわりと中空に消えてしまう。きっとシンハが精霊みたいなものだからだろう。

「そうそううまくはいかないか。だったら町に行って買うしかないかなあ。」

そんなことを言いながら、僕は眠くなったので、櫛をかたづけ、おやすみなさいを言ってシンハの横に寝た。



異世界転生から一週間。ようやく生活の基盤ができてきたようです。

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