106 ゴブリンメイジと報告
薬草はだいぶ採れたので、あとはミンク枝探し。
低木だが草原にはなかったので、森に向かった。
カークさんが言っていたように、入り口付近にはかなりあるようだ。
適当な枝を短剣で切り取る。
あ、何本採ればいいか、聞いてこなかったな。
まあ、そんなに使うものでもないから、10本もあればいいか。
ということで、依頼はクリアだ。
「おーわり。休憩してから帰ろう。」
『はやいな。つまらん。』
「ふふ。少し遊んでいく?」
『ああ。せっかく森に来たんだ。少し周囲の様子を見たい。』
「判った。サンドイッチ、食べる?」
『いただこう。』
二人分作ってもらってきたので、シンハに渡すと、あっと言う間に食べた。
ミルクと、お水入りボールも出す。
それも完全にからに。
「おいしかった?」
『ああ。あの宿にして正解だな。』
「ふふ。女将さんに言っておくよ。」
絶好のピクニック日和。
森から吹いてくる風は少しひんやりしていて気持ちよい。
ヒバリだろうか。小鳥が遠くで啼いている。
平和だなあ。
シンハには追加でポムロルを。
僕はゆっくり味わって昼食をとる。
森ではほとんど昼食をとらなかったが、町に来て、『生前』のように昼食を食べたくなって作ってもらったのだ。
焼き肉とチーズとトマトとレタスを挟んだバゲット系サンドイッチは、シンプルだが特製ソースが効いていて美味い。
自家製あつあつオニオンスープと一緒に食べる。
厨房は女将さんと息子さんとでまわしているようだったが、忙しそうだった。
そういえば、乳製品の手持ちが不安だな。
女将さんに相談して譲ってもらおう。
僕はそんなことをつらつら考えながら、のどかに食べた。
昼食を終えて一息つくと、森の中を散策する。
「今日は奥にはいかないよ。そうだなあ。1キロ奥までとしようか。」
それでも結構奥ではないかと普通は思うのだろうけれど、森で暮らしていた僕たちにとっては超「浅いところ」である。
「(あ、鹿だ。このあたりは普通の獣もいるんだね。)」
と念話だけで話す。
『そのようだな。サキ。あれを狩ろう。食いたい。』
「(判った。食いしん坊め。)」
『俺が倒す。威嚇だけしてくれ。』
「(了解。)」
弓で一発だとつまらないらしい。
シンハは自分で狩ると言い出した。
獲物は若い雄。角は小さい。肉はやわらかいだろう。
僕はわざと鹿の足元を狙っていかけた。
鹿が驚いて駆けだしたところをシンハが狩る…はずだった。
だが。
僕の矢が鹿の足元の草に刺さり、驚いて鹿が駆けだそうとした時だった。
ドスッ
別の矢が飛んできて、鹿の首元に当たった。
ピイ!
鹿が痛みに悲鳴をあげるが致命傷ではない。
逆にそれは哀れだ。獲物はなるべく一刀で仕留めてやるべきだ。
走り出す鹿の前に飛び出した者がいた。
なんとゴブリン!
そのとたん、シンハのターゲットが変わった。
ガウッ!
シンハが飛び出し、ゴブリンの首を鋭い爪で一閃。
僕は走り出した鹿の頭に咄嗟に矢を射て、絶命させた。
シンハはもう一匹のゴブリンも倒したところだった。
『うー。俺の獲物を横取りしようとは、許せん。』
「まあまあ。次に仕留めればいいよ。それより、気配、完全に消してたな。こいつら。」
『気をつけろ。近くにゴブリンメイジがまだいるはずだ。』
「!あそこだ!」
僕はすぐに矢を放つ。
だが相手は魔法で矢を払った。
風魔法か!
「気をつけろシンハ!奴は風を使う。」
『風なら負けぬわ!』
ガウッとシンハが威嚇しつつ突っ込んでいく。
相手は風で「かまいたち」を出そうとしたが、シンハの「竜巻」魔法のほうが強く、キャンセルされた。そしてゴオオッという音とともに発生した「竜巻」に体が浮く。
そこに僕が火魔法をかけた。
「業火!」
ギャアアア!!
ゴブリンメイジが断末魔とともに、焼死体になった。
火はすぐに消したので、森には移らない。そこはちゃんと考えている。
ゴブリン討伐の提出部位は耳だ。僕は耳をそいで収納した。耳にはメイジらしく、大きめの金属のわっかがついていた。こういう装飾をするのは、メイジ以上のゴブリンだから、メイジ討伐の証拠になろう。
「メイジまで出るなんて、このあたり、やばくね?」
『うむ。昔はもっと奥にしかいなかったはずだが。』
「増えてるってことかな。」
『かもしれん。帰ったら、ギルドで情報を得たほうがよかろう。』
「そうだね。」
僕たちは、僕の魔法で掘った穴にゴブリンたちの死体を入れて焼き、灰にしてから埋めた。
そうでないとアンデッドになるおそれがあるからだ。
仕留めた鹿は収納した。
提出するつもりはないので、亜空間で解体。鹿の血は穴を掘って適当に抜く。内臓の一部や爪などシンハが食べない部分は穴に廃棄。
鹿革は亜空間内でなめし加工をする予定。鹿革はやわらかいから、いろいろと使えそうだ。
「そろそろ帰ろうか。調味料、買いたいし。」
『うむ。』
調味料のせいにしたが、これ以上、情報なしに森で動くのは危険だと、本能的に感じたからでもある。
そこはシンハも同じようで、無言だったが、索敵はしているようだった。
僕もしたけれど、あとはゴブリンたちも近くにはいないようだった。
森を出て、町の門が見えて、街道に人が複数歩いているのを見て、僕たちはようやく少しほっとした。
それにしても、今日は変なやつらにばかり会ったな。
毒針を使う魔狼に、ゴブリンメイジ…。
僕はなんだか胸騒ぎがした。
スタンピード、とかないよね。
と否定しつつも、嫌な予感が拭えなかった。
薬草を提出しがてらギルドでカークさんに報告したら、すぐに別室で死体検分となった。
仕留めた普通の魔狼と、ボスの毒針魔狼を部屋の中央に出している。
もちろん、ボスは毒針持ちだから絶対触らないでと伝えてある。
カークさんが、遅れて入ってきたギルド長に説明すると、
「なに!?毒針を放つ魔狼だと!?」
と驚いていた。
やっぱりイレギュラーなんだな、と思う。
部屋にはほかに、昨日、魔兎提出時に鑑定してくれたケリスさんも居て、淡々と調書をとっている。
ケリスさんは、すっかり僕の買いつけ担当みたいになっちゃってる。
討伐魔獣とか、グロいのが出てきても動じないのは、さすがプロだなと思った。
「こいつぁ…本部に報告だな。」
「ですね。」
とギルド長とカークさん。
どんどん話がでかくなる。
「で、これを何処で見つけたって?」
「草原です。まだ森の手前の。群れでやってきて、手下の魔狼はご覧の通り普通でしたが、ボスのこいつだけ、こういう奴でした。」
「よくやられなかったな。」
「シンハが戦ったのですが、なんだか雰囲気が妙だったので、結界を張りました。なのでシンハも無事で良かったです。」
「雰囲気が妙?」
「ええ。シンハの威嚇ははんぱないので、魔狼程度なら普通は逃げていくんです。なのにこいつは逃げなかった。だから妙だなと。」
「なるほど。」
「冷静な判断だったな。」
「それからもうひとつ。森の浅いところでゴブリンが出たんですが、」
「ん?」
「鹿が居たので仕留めにかかったところに、ゴブリンが2匹出ました。そいつらの気配を全く感じなかったんです。すると近くにゴブリンメイジが居たので、そっちも仕留めました。」
「「ゴブリンメイジ!?」」
カークさんとギルド長が同時に声を上げる。
ナゼ驚く?
こちらも討伐部位を提出。
「ピアスだな。確かにただのゴブリンじゃない証拠だ。」
メイジの耳を見てそうギルド長がつぶやく。
「…火で退治した?」
とケリスさん。
「はい。あ、もちろん、森に火がつかないように注意したから大丈夫ですよ。あとはアンデッドにならないように、ちゃんと焼却処分もしてきました。」
「いや、そういうことではなくて、ですね。」
とカークさんが眼鏡をツイとあげながら、眉間に皺を寄せている。
「ふう。まあ、仕方ないだろう。もともとFの実力じゃねえんだから。」
とこちらはギルド長。
「??」
「つまり、俺たちが言いたいのは、普通のFだったら、とっくに死んでたぞってことだ。」
「森へは深く入ってません。ミンク枝を取りにいっただけなので。」
「ああ、判ってるよ。ただ、危険だと思ったら、次はこっそり引き返せ。ひとりで無理するんじゃねえってことだ。」
「…判りました。」
ちょっと理不尽だ。僕はこんな程度の魔獣には、シンハがいなくとも負けたことはない。だが、僕の実力を知らないのだから、仕方がないことだ。
「とにかく、ルーキーが無事で良かった。毒針魔狼とゴブリンメイジの件は、ギルドで調査をする。
それより…カーク、こいつはさっさとレベルをあげてやれ。FだのEだののまんまでまた強敵倒されちゃ、ベテランだって納得せんだろう。」
「判りました。」
ということで、僕は地下の練習場に連れていかれた。ランクの昇格試験をするためだ。そこでは魔法や剣の訓練もできるようになっていた。
すでに新人の実力ではないサキ。周りの違和感、ハンパない。
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