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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
105/529

105 奇妙な魔獣

「よう。新人君。おはよー。」

北門にはテッドさんが居た。

「おはようございまーす。」

中から隊長も顔を出した。

「おはよう。」

「おはようございます。お二人とも、昨日はごちそうさまでした。」

「いやいや。…うーん。飲み過ぎてちと頭が。」

とケネス隊長。

「ふふ。あ、これ飲むといいですよ。」

僕は緑色の丸薬を袋から取り出して、二粒隊長の掌に乗せた。


「ん?」

「ペイネ草を固めて錠剤にしたものです。」

「じょうざい?」

「丸薬です。とにかく、水でごくっと飲んでください。

痛み止めです。二日酔いの頭痛にも効くと思います。」

「そうか。ありがとう。」

一応毒味もかねて、僕も一粒、水なしで飲んだ。


朝っぱらから教会でいろいろあったからね。すっきりするのにちょうどいい。

せっかく毒味しているのに、隊長はろくに僕を見もせず、自身の手から水を出して躊躇せずに丸薬を飲んだ。隊長なのに。もう少し人を疑った方がいいのでは?僕が毒でも飲ませたらどうするのさ。


他人が生活魔法を使うのを、目の前で見るのも新鮮だ。

実はこの丸薬、ペイネ草だけでなく、メルティアも少しだけ使っている。といっても、メルティアはエリクサーを作った残りかすの部分をちょっと足しただけだが。

それでも痛み止めと毒抜き、浄化を同時に行うので、侮れない丸薬なのだ。二日酔いだけでなく、大抵の病に効く万能薬だ。しかも苦くない!すっきりミント味、みたいな。

大人は二錠、子供は一錠。


「2分くらいで効きますから。」

「そんなにすぐに効くのか?」

「ええ。自分で実験済みですから。」

「ありがとな。…で、今日は?ダンジョンか?」

「まさか。最初ですからね。まずは薬草採取です。ペイネ草とか、ロンギ草とか。」

「おーおー地味ぃ。堅実だな。おい。」

テッドさんがひやかす。

「薬草、大切ですから。」

「草原にしておけ。森の中には絶対行くなよ。」

と隊長。

「そのつもりです。」

「うむ。じゃあ、気をつけてな。」

「はい!いってきます!」

「おう。がんばれー。」

「はーい。」


「……隊長。」

「うん?なんだテッド。」

「サキ君を疑う訳じゃないけど、よそ様からもらった薬、確かめもせずにすぐに飲むってどうなんです?」

「え?あ。」

「ふう。サキ君のほうが人間出来てますね。ちゃんと自分も飲んで毒味役してましたもんね。」

「あ、そうか。そういうことか。酒を飲んでないのになんであいつ飲むんだ?と思ったんだ。」

「隊長~。」

「まあ今度から気をつける。頭がとにかく痛くてな……あれ。」

「どうしたんすか?」

「ふむ。凄いな。本当に痛くない!サキからもらった丸薬、もう効いたぞ!」

「え、うそまじっ!薬師としてもなかなかの腕前ってことっすね。へえー。」

「しかも全く苦くなかった…。とんでもない新人みたいだな。サキは。」

「まあ、どうも自覚は薄いみたいっすけどね。」


僕とシンハは門から出て北へと向かう。

昨日、此処に来た時は、誰も僕を知らなかった。

今日はもう、複数の知り合いができた。

なんだかうれしい。

今日もお天気。

こんな毎日なら、いいのに。

そうも思ってしまう。


僕は、門から少しいったところで街道から草原へと入る。

さらに周囲に人の姿が見えなくなったあたりで、索敵と鑑定を半径500メートルでかけることにした。

「さてと。さっそく『索敵鑑定』しますかね。」

ペイネ草は緑、ロンギ草は紫、ミンクの木は黄色の点で表示させる。

すると、緑と紫がぽつぽつと草原のあちこちに見える。

ミンクは樹木なので、やはり森にいかないとないようだ。


「結構あるじゃん。取り放題だね。」

『ふむ。つまらん。』

「ふふ。僕は採取に専念するから、シンハは見張り。よろしくね。」

『心得た。』

一時間もしないうちに、袋はそれぞれいっぱいになった。


「そういえばさ、」

『なんだ?』

「メルティア草はこのあたりでは「全く」採れないの?」

『いや、森の浅いところでも、周囲の清いところなら採れる。湧き水のある水辺などだな。そこなら精霊もいるし。だから少し森に入るからDランク程度の依頼になる。』

「なるほど。」

ちょっとは危険なところまでいかないと採れないのか。

『水辺には魔獣もやってくる。新人では死人がでるからな。だから常時依頼からわざと外してあるんだろう。』

「ふうん。」

なるほどね。


もう少しとって行こう、と思った時だ。

『む?』

「?どうしたの?あ。」

シンハの反応に僕が顔をあげる。僕も感知した。

『群れだ。魔狼のようだ。』

「そうだね。へえ。ここまで出るとは、聞いてないけど。」

『まあ、そういう日もあるだろう。行くぞ。』

「あ、僕も行く!乗っけて!」

するとシンハがむくむくと大きくなった。僕を乗せると、すごい速さで走り出す。


魔狼が僕たちを見つけると、速度をあげてきた。

向こうも僕たちを獲物とみなしたらしい。

僕はさっと弓を取り出す。

10匹はいるか。

大きめの群れだ。

『少しは俺に譲れ。たまには狩りをしないと、体がなまる。』

「了解!」

僕は立て続けに矢を放った。

ピシュッッ

キャイン!

ドスドス!

ギャン

走りながら、僕が弓でそれぞれ一発で仕留めていく。

シンハも数匹、風の刃・ウインドカッターで狼の首を狙い、仕留めた。


と、最後の一匹は、黒い大きな雄だった。これがボスだろう。

僕はシンハから降りた。

シンハは普段と同じ大きさに戻ったが、ウウッッとうなり、威嚇する。

もしも魔狼と戦うなら小回りが利いた方がいいからだ。

普通ならシンハの威嚇だけで逃げていくはず。

すごい威圧だからだ。

けれど、さすがリーダー。仲間がやられて、逃げ出すことはあきらめたようで、シンハに向かってきた。


ガウッ!

ガオッ!

魔狼が飛び掛かってきた。

同時にシンハも飛び掛かる。

魔狼がシンハに噛みつくとみせて、少しよけてすれ違った。

しかもすれ違いざまになんと毛を針のようにして撃ち出してきたのだ。

「シンハ!」

僕は無意識にシンハに結界魔法を飛ばしていた。

狼との間に壁ができ、その透明に壁にカカカッと毛針が当たってはじけ飛んだ。

とっさに鑑定すると、あの毛針には毒がある。

「シンハ、毒針だ。気をつけろ。」

『承知!』

なるほど、ボス狼は勝てる自信があったから、シンハの威嚇を受けても逃げなかったのか。


シンハが自分の周囲に風を起こした。

彼が使えるのは風と光。今では他者への簡単な治癒もできるようになっている。

ウウーッ

ガウッ

両者にらみ合い。でまた同時に二匹とも飛び掛かる。

だが、魔狼は、シンハに向かっていくとみせて、僕のほうに走ってきた。

僕が倒しやすいとみなしたのだろう。

僕は剣を背中ごしに亜空間から抜き身で取り出し、斬るために構えた。

『サキ!気をつけろ!』

「了解、相棒!」

奴が針を放ってきた!

そのタイミングで、僕は目の前に空気の盾を金属盾のイメージで出現させ、左手で空気盾を構え、右手には長剣を握って構える。

カカカカッ!

と空気盾が針を弾いた。

と同時に

「雷刃!」

『(ウィンドカッター!)』

ビリリ!と僕は剣から雷を発し、同時にシンハが風魔法を発動。奴の喉を切り裂いた。


それで終わり、のはずだった。

だが、雷刃のあと、一瞬、奴が再び針を発射しようとしたのを察知した僕は、瞬間的に剣を投げつけていた。

「ギャウ!」

それが奴の断末魔だった。

剣は奴の心臓をしっかり突き刺していた。

黒い靄を纏った光の粒が、天へと昇っていく…。

『即死だな。心臓をひとつきか。腕をあげたな。』

とシンハに褒められた。

「まあねー。」

『調子にのるな。』

「はあい。」


魔狼の死骸を回収。肉はいらないというので、剥かずにそのままギルドに提出することにした。

まあ、魔兎とか魔鶏のほうが美味いもんね。

ところでこのボス狼だが。

「これ、亜種だよね。突然変異体ってやつ?」

『そうだな。毛針を飛ばすなど聞いたことがない。』

「しかも毒針だったよ。恐いね。毒は…麻痺毒だな。大量に当たれば命にかかわる。」

僕は結界を手に施して毒針を少し採取。

毒は薬にもなるから、分析材料にしよう。


『まあ、この程度の針なら俺には刺さらないだろうがな。』

とシンハ。

「うん。でも目とか口に入れば無害とはいかない。」

『ああ。いつぞやの二の舞になるところだった。』

あの大蛇の毒が目に入った時のことを言っているのだ。

シンハが、もともと使えていた治癒魔法をさらに進化できたのも、あのあとすぐだった。今では自分だけでなく、他の生き物にも簡単なヒールならできるようになった。

もともとシンハは怪我しにくいし、一晩寝ればかなりの傷でも治る不死身体質だが。

「こんな奴がぽいぽい出てきたら、嫌だね。」

『ああ。…続かないことを祈ろう。』



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