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白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第二章 冒険者の街ヴィルド編
100/529

100 ある眷属フェンリルのひとりごと 2

100話目!

セシルの次に旅したのはエルフの男とだった。彼は魔術師。

ただの魔術師ではなく、賢者と呼ばれる者だった。

長生きのエルフで、俺の母とも面識があると言っていた。

奴…レスリーとの旅はまた別の意味で面白かった。

セシルと違い、魔法が抜群にうまく戦う力を持っていた。

珍しい薬草や薬の材料となる魔物の肝などを探して旅しているということだった。

よく魔獣狩りにも付き合わされた。レスリーが賢者であるゆえに、貴族や王族からの依頼で珍しい場所にも行った。


旅の途中でパーティーを組むことになり、剣士として参加したのがレスリーの親友で剣聖のウルだった。

ウルはすでにそれなりに高齢だったが、それでも剣筋は見事だった。

よくレスリーがウルに剣術を教わっていた。

強くなるためというより、強い剣士と戦う時にどうすればよいかを知るためのようだ。

それでも見た目は若いレスリーは、ウルの動きをよく真似、それなりの剣の腕前になった。

俺もよく、ウルやレスリーの稽古に付き合わされた。

だから、自然にウル流の剣筋を覚えた。


ウルとは彼の本拠地の街で別れ、またレスリーとの旅となった。

その旅先で、あの剣聖ウルが死んだと聞いた。

さすがにレスリーは落ち込んだ。

自分の知り合いは自分より先に死んでしまうのだ、と。

俺を旅の友としたのも、聖獣なら自分より長生きだろうからということもあったようだ。


だがそれからほどなくしてレスリーの旅も終わる。

レスリーが死んだのだ。

事故でも戦でもない。老衰だ。


レスリーは死に場所を求めて旅をしていたのだ。

だが、結局彼が息をひきとったのは、彼の家。気に入って暮らしていたとある森の大樹の家でだった。

セシルの時と違い、彼は最期まで幸せそうだった。

俺を残していくのだけがつらいと、言っていた。

レスリーの亡骸は砂のようになり、風に運ばれて消えた。

妖精になったのだ。

長生きのエルフは往々にして妖精となる。

最初は意識のない妖精の赤子、光の粒に過ぎないが。

だから俺は、心静かに旅立つことが、できた。


帰ろう。俺の森へ。

もう十分、人間とも付き合った。

もう、あの森から出たいとは思わない。

あの過酷だが居心地のいい「はじまりの森」の最奥、俺のねぐらで暮らすのだ。


やがてレスリーも意識を持った妖精に成長するに違いない。

そのころには、俺はまだこの世にいるだろうか。

もしいれば、またあいつと旅をするのもいいかもしれない、などと思いながら。


俺はまた自分のテリトリーで暮らしはじめた。

時折、森を回って森を荒らす魔獣を退治したりなどしながら。


それからどれくらい経っただろう。

ある日。

母の思い出のあるあの大岩の上で、ひなたぼっこをしながらうつらうつらとしていると、何か予感がした。

うれしいような、わくわくするような。

ふと天を見上げると、光るものがゆっくりと降りてくる。


それは最初人間の赤ん坊だったのに、降りてくるうちにゆっくりと大きくなり、そして着地する頃には少年の姿になっていた。

これは魔術師のような格好だなと思った。

なにより、こいつからは幽かだが、いい匂いと良質で膨大な魔力が感じられた。


母から聞いたことがある。

天からひとが降ってくる話。

天から降りてくる人は、世界樹の意志でこの世界に送り込まれた特別な存在なのだと。

そのことがふっと頭をよぎったが、それよりも先に、このかすかないい匂いは、世界樹の匂いだと、すぐに理解した。

まだ俺は世界樹を見たことはなかったが、枯れた枝は知っている。

その香りとよく似ている。

いや、もっと甘やかだから、こいつはきっと世界樹の花の匂いなのだろう。

だから、母が言っていた話がすんなり理解できたのだ。


こいつが森にいる限り、俺はこいつを守らねばならない、と思った。

何故ならこの森で一番強いのは俺だから。

あの悪しき黒龍や、森のどこかに潜んでいるアンデッドどもに殺されてなるものか、と思ったのだ。


それにしても…。

いったいコイツは何なんだ。

目を覚まして俺を見た時は、さすがにびびったようだったが、俺が安全とわかると、すぐに懐きやがった。

しかも俺の傍が一番安全と本能的に解ったのか、またぐうすか寝てしまった。

まったく。キモがすわっているというか、脳天気というか。

まあいいか。傍に居てやろう。


そして。

俺はこの少年にシンハという新しい名前をもらい、俺も、こいつにサキという名をつけてやった。

そして念話ができるようになり、一緒にあちこち森を駆けめぐった。


サキは面白い奴だった。

なにより、すごい魔力を持っている。なのにちっとも自覚がない。

いくつか魔力の使い方を教えてやった。

ウルの動きを覚えていたので、剣のアドバイスもしてやった。

人間の文字や数字、さまざまなことを俺はサキに教えてやった。

サキはかしこくて、すぐに魔力を自分なりに使いこなし、剣術もそこそここなすようになった。

俺も驚くほどの成長ぶりだ。

しかもよく働く。よく考える。余計な事までよく考えている。

家を改造し、布を織り、鍛冶もやる。獲物も自分で料理する。

その料理がまたすさまじく美味いのだ。

どちらかというと素朴な料理が多い。にもかかわらず、美味いのだ。


俺はもう、サキの傍を離れたくなかった。

美味い料理が食える。

それはなにより魅力だ。

なにしろセシルもレスリーも、ついでにウルも、料理は下手で味つけは大雑把だったからな。

そしてなにより、毎日が楽しい!


サキはよく笑う。冗談も言うし、何事も前向きに捉える。

基本的に明るくて、そして優しい性格だ。

妖精たちともすぐに仲良くなった。

というか、奴らを菓子で籠絡し、大人気である。


ちょっと聞いたが、奴はチキュウというところのニホンという国から転生してきたらしい。

そこでは、不治の病にかかり治癒院のようなところで、寝たきりの生活をしていた。

そして、わずか16才で亡くなったという。


時折、俺も奴の過去を夢で見ることがある。

真っ白い部屋で、管を腕にくっつけたままで、車椅子で移動していたり、ベッドから、外の世界を眺めていたり。

相当つらい闘病生活だったようだ。だが、それでも奴はいつも笑顔でいようとしていた。

両親をこれ以上困らせたくないから、と。


そんなサキだから、今は五体満足で、信じられないくらい元気に森を駆け回っていられることが、うれしいのだと、笑う。

俺も、奴が幸せそうに笑うのを、ずっと見ていたいと思った。


普段はほのぼのとしていてどこかネジが緩んでいるんじゃないかと思えるサキ。

だが魔獣を仕留める時にはしっかり本気を出す。

そして俺の教育が良かったせいか、かなりの強者に育った。


なんと、あの強敵黒龍をも、ついに俺とサキとで仕留めることに成功したのだ!

俺はとても誇らしかった。


そして。

サキは人間の町をめざすと言い出した。

それはほぼ最初の頃からのサキの願いでもあったのは、なんとなく知っていた。

サキは人恋しかったのだ。

それも致し方ない。森で会う連中は、魔獣か妖精しか居なかったからな。


ああ、もう別れか。

それは俺にはとても残念なことだった。

それだけ俺はサキを大好きになっていたのだろう。

だが、サキはたしかに人間の中で生きるべきだ。

俺は決心して、サキを背中に乗せ、森のはずれまで連れていった。


そこで勇気を出して別れを言ったのだが、今度はサキが、驚き泣きだした。

絶対俺と別れないと。

サキよ。泣くな。お前に泣かれると、俺はどうしていいか判らなくなる。

判ったから。俺はお前の傍にずっといることにしよう。


サキを守りたい。

今度こそ。

セシルのような別れは嫌だ。

そしてなによりサキと強く結びつきたかった。

俺は誇り高いフェンリルだが、サキの眷属となることに、なんの抵抗もなかった。


俺はサキとの主従契約に成功し、一緒に町で暮らすことにした。


相変わらずサキは面白い。

常識がないのだから仕方ないが。

街に入ってたった一日だというのに、もうすでにいろいろとやらかしている。

本当はものすごく強いはずなのに、ちっとも自覚がない。

やはり俺が傍にいないと、危なっかしくて見ておれぬ。

相変わらず臆病…いや慎重で、いまだに結界を切らないし、たくさんの薬を持ち歩く。

だが着実にこいつはとんでもなく強くなっている。


これからこいつはどこまで成長するのだろう。

そしてなにをやらかしてくれるのだろう。

わくわくする。

俺のアルジは見ていて飽きない。


さて、そろそろ起きてもいい時間だ。ねぼすけめ。

今日はこれから冒険者ギルドでクエストを受けると言っていたはずだが。

いや、その前に、教会に行くとか言っていたか?


いずれにせよ、そろそろたたき起こすか。

いや、昨日ははじめて人の街で過ごし、宴会をやり、疲れて眠ったのだ。

今朝はもう少し、このまま寝たふりをして、自分から目が覚めるのを待っていてやるとしよう。



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