表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金(しろがね)の魔術師 もふもふ神獣との異世界旅  作者: そぼろごはん
第一章 はじまりの森編
1/529

01 プロローグ 空から 1

初投稿。よろしくです。

天気のよい日だった。

蒼い湖面を持つ湖のほとり。

白い毛並みの大きな獣は、お気に入りの岩の上で、日向ぼっこを楽しみつつ、午後のまどろみに身を沈めていた。

頭には小鳥が時々とまったりするが、気にするふうでもない。

小鳥がつんつんといたずらすると、さすがにちょっとは耳を動かしてたしなめはするけれど。


此処は「はじまりの森」と言われる森。

ローエン大陸の中央に位置した広大な樹海である。

森の中央部へいくほど魔素が多いため、強い魔獣も多く、森の先に見える山には龍も住むという。

畢竟、人族にとっては恐ろしい魔の森であった。

森のはずれにはダンジョンがあり、そこで生み出される稀少な宝物を求めて、多くの冒険者が立ち入ってくるが、さすがに蒼い湖のある奥地まで行こうという猛者はいなかった。

それでも白い魔獣にとっては、住み心地のよい場所。

この世界では総じて強い魔獣ほど美味。それゆえこの森の最奥のエリアは美味い魔獣が多く生息し、餌は豊富。よりどりみどりである。

人族にとっては恐ろしい森でも、白い魔獣にとってはよい餌場のある棲家である。


彼はフェンリル。

伝説の魔獣。神獣とも霊獣とも言われる種族。

特に彼は「はじまりの森の白き王」と呼ばれていた。

その彼の縄張りはこの広大な森全体ではあるが、特に蒼い湖を中心に半径数十キロが彼のお気に入りの場所だった。

白いフェンリルは近くを飛ぶ羽虫の音や、のどかな魔鳥の声を聞きながら、午後のお昼寝を楽しんでいた。

と。


ふと、不思議な予感がして、彼は目をあけた。

急に空気が変わったのだ。

悪い予感ではなかった。

ただぴくっと耳を動かして立ち上がると、大きくひとつあくびをして体全体を軽くのばし、雰囲気が変わった原因を探した。

どうやら右でも左でもない。上空らしい。

だから彼は天をじっとみつめた。ほとんど自分の真上。

すると。


高い高い青空の上から、強い光に包まれた何かが、ゆっくりと落下してくるのが見えた。

なのにまったく危険な感じはしない。

むしろ次第にわくわく感が湧き上がってくる。

その光る物体は次第に大きくはっきりと見えるようになっていく。

光る物体の正体は、人のようだった。

落下速度は桜の花びらよりもずっとゆっくりだ。

まっすぐに、静かに降りてくる。

まるで見えない手に乗ってゆっくりと降ろされてくるかのようだ。

しかも、最初は赤ん坊だったように見えたけれど、ゆっくりと降りてくるうちに、次第に成長していく。

最初は裸だったようだが、やがて白い丈の長いワンピースのような服を着ていた。

それと同時にその天から降りてくる人を包んでいる光は、強いものから次第に柔らかな光へと変貌していった。


フェンリルは小首をかしげつつその降りくる人をながめた。

危険な予感は相変わらずない。

むしろ善なる存在と感じた。

なにか、フェンリルの運命を変えてくれるような期待感さえ感じた。

空から降りてきた人が、大岩の近くの芝生の上にゆっくりと到着した時には、12、3才くらいの少年に成長していた。

しかも芝生の上に着いた時には、魔術師風のゆったりしたローブ姿になっていた。

ブーツを履いて、腰には短剣も帯びている。

旅の魔術師(初心者)といった出で立ちだ。

髪はさらさらの金髪だが、光線の加減で白くも見えるプラチナブロンドだ。

目鼻だちは可愛らしくなかなかのというか、かなりの美少年だ。


だが魔獣のフェンリルに人の美醜が判るかどうかは不明である。

それでも、フェンリルには好ましい存在に思えた。

少なくとも、餌だとは思わない。

むしろ何故か庇護してあげたくなる存在だった。

髪がプラチナブロンドで、白いフェンリルの毛に似ていたからかもしれない。

あるいは、その子供が最初は強く、次第に柔らかに変化した光に包まれていたからかもしれない。


フェンリルは遠い昔に話を聞いたことがある。

このように空から人が落ちてくることがあることを。

その人は、別世界から神の意志によりこの世界に連れてこられたのだと。

それゆえ神のご加護は強く、何かしらのたぐい稀なる才能を持っているものだと。

フェンリルは大岩の上からしばらく覗き込んでいたが、やがて我慢しきれず、ぱっと大岩から飛び下りた。

かなりの高さがあるはずだが、フェンリルにはたいしたこともない。

すとっと大岩から下の草地へ降りると、その子供に近づき、フンフンと匂いをかいだ。

知らないはずなのに、どこか懐かしい草木の匂いがする。好ましい匂い。

獲物として「美味い」という匂いではなく、存在としての「好ましい」匂い。

傍に居たくなるような。

しかも自然に膝をつき頭を垂れたくなるような…畏敬の念が沸いてくる。


世界樹の匂いだ、と、フェンリルは直感した。

世界樹なんて見たことはない。だがエルフから得た枯れ枝の、かすかな匂いは知っている。今は亡き母が幼い自分に語ってくれた世界樹の話も。

世界の真ん中にあって、この世界を支えているとか見守っているとか言われる、神様のような大樹。それが世界樹。「真ん中」にあるのに、世界の中心と言われる此処「はじまりの森」ではないのは、亜空間のダンジョン内にあるからだと、たしか母は言っていたような。

その世界樹の匂いだと、フェンリルにはわかった。


でも危険な人間の魔術師の匂いもちょっとする。

なのに、なんだか少しも危険そうじゃない奴だ。

腰には短剣も帯びているのに。

くーかーと眠ってしまっている。

まったく。此処は一応とても人間には危険な場所なのだぞと、フェンリルは呆れた。

と、唐突にゆっくりと、その少年は目をあけた。

少年の目は菫色だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ