宗茂、誾千代縁編 一、婚儀
結婚。
第二次石坂大宰府の戦いが行われた同年翌月、宗茂と誾は婚姻した。
うだるような夏の暑い日のこと、油蝉が庭の木々にとまり五月蠅く鳴いている。
大広間には、白の肩衣袴姿の宗茂、白綾の小袖と打掛姿の誾千代が二人並んで上座にいる。
道雪は目を細め、入り婿の晴れ姿と、愛娘、誾の花嫁姿を見て、思わず涙をこぼした。
「ワシはこれで安心して、いつでもあの世にいけるわい」
「父上っ!」
そんな感傷にひたる父に、誾は目をつりあげ怒鳴った。
「なんじゃ」
「何を弱気な!」
「しかしな、こんな目出度い・・・」
「目出度くなどない!誾はこの家の当主だったはず!何故、結婚したからと言って宗茂殿に家督を譲らねばならぬのですか!しかも、おなごに!」
「誾よお主もおなごじゃ。それに何遍を言うておろうが、宗茂には大将の器量がある」
「誾にはないと申すかっ!」
「ええい!せっかくの晴れの日を!」
2人は睨み合い親娘喧嘩となる。
「まあまあ」
と宗茂は二人をなだめる。
「よいか、二人ともワシの願いは一つじゃ。宗茂、お前はこれより立花家の当主として、大殿ひいては、この国の民を守っていくのじゃ」
「はっ!」
「誾よ。そなたはこれより女子として生きるのじゃ。宗茂の分までな・・・名を誾千代と改め、宗茂の捨てたおなごの思いを受け継ぎ、婿殿を支えよ」
「嫌じゃ」
誾千代は即答する。
「なんと、ワシの申すこと承服出来ぬと申すか」
「宗茂殿・・・むかし千代様の思い受け止めることは、やぶさかではございません・・・しかし、誾も立花家の家督を継いだ者でございます・・・誾・・・誾千代も共に戦いとうございます」
「その言、天晴じゃ・・・じゃが・・・」
道雪はちらりと宗茂を見た。
婿はこくり頷いた。
「父上、誾千代と共に!」
宗茂は道雪に平伏すると、誾千代もそれに倣った。
老父は苦笑いを浮かべると、右の手の平を何度か振った。
「もうよい。分かった、これからはお前たちの時代だ。思うようやってみよ」
「はっ!」
「はい」
のち、花嫁花婿が三々九度の盃を交わす。
これで2人は晴れて夫婦となったのであった。
宗茂と誾千代は清水で身を清める。
白無垢姿となった誾千代は、侍女に案内され新居の寝所へと入り、夫宗茂が訪れるのを待った。
「宗茂め!」
その顔たるや怒りに満ちていた。
さあ、どうなる?