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宗茂大往生

 宗茂大往生。


 島原の乱終結後、宗茂は家督を養子の忠茂に譲り、剃髪後隠居の身となった。

 江戸にて、これまでにない穏やかな日々を過ごす宗茂だった。

 足腰の自由は効かなくなったが、多彩な趣味を持つ宗茂は茶や能などをゆるりと嗜んだ。

 時には若い、立花の家臣に武芸の稽古を見て、指導を行う。

 将軍家光から要請があれば、良き相談相手となり、隠居の身といえども忙しい毎日を送っていた。


 寛永19(1642)年、早朝、凛とした空気、白い吐息が洩れる。

 宗茂は藩邸の大広間上座で胡坐をかき、雪景色の庭園をぼんやり眺めていた。

 うつらうつらと眠気が起こる。

(いかん、いかん)

 夢か現か。

 目の前に誾千代が現れた。

「あなた様」

 懐かしいその声に宗茂は微笑む。

「来たか」

 ゆっくりと頷く。

「はい」

 微笑み返す誾千代。

「待っておったぞ」

「はい。私も」

 誾千代の言葉に、宗茂は手を差し伸ばす。

 妻は夫の手を握りしめる。

「あたたかい」

「・・・・・・」

「ずっと、ずっと会いたかった」

「・・・私もですよ」

「私・・・ワシの方が・・・ずっと、ずっと」

 宗茂は愛する者を力強く抱きしめた。

「あなた様・・・」

 その身を委ねる誾千代。

「ずっと、ずっと一緒じゃ」

「はい、とこしえに」

「いこう」

「いきましょう」

 静寂。

 庭にしんしんと積もる雪。

 宗茂の手が畳に落ちた。

 満面の笑みを浮かべながら逝く。

 立花宗茂享年75歳、まさに大往生であった。


 立花藩邸の遥か上、青空には二匹の白鷺が南へ向かって飛んだ。



 不覚にも書いていて涙がでました。

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