二、政宗と
稀代の英傑。
元和9年(1623)、徳川将軍家は3代家光の治世を迎えた。
戦の世を知らぬ経験浅い将軍を補佐する為、宗茂、政宗らは相伴衆として、時に戦国の昔話を語った。
「さあ、ばあばたち、今日も戦国の話聞かせてもらうぞ」
若き将軍家光は目を輝かせて、2人の戦人を見た。
「くくく、この独眼竜と西国無双にババアなどいうお方は、あなた様ぐらいなものですぞ」
政宗は苦笑いを浮かべる。
「おお、スマン。政宗、宗茂・・・つい親しい気にの・・・許せ」
家光はバツが悪そうに頭を掻く。
「別に私は一行に構いませんが・・・」
宗茂は咎めるように政宗を見るが、独眼竜は素知らぬフリをする。
「で、今宵は何を話してくれるのだ」
「前は関ケ原でしたな・・・」
「ふふふ、お主が西軍で痛い目をみた」
政宗はニヤリと宗茂を見た。
「・・・後悔はござらん」
仏頂面で返す宗茂。
「ま、ま、ま、話を早く」
家光は話を聞きたくて2人を急かす。
「それでは、今日は大坂の陣を・・・」
宗茂は柔和に微笑んだ。
家光が真の将軍となるまで、相伴衆の宗茂と政宗は時によき相談相手となり、狂言や能、茶会など様々な行事に随伴した。
そうして、家光の治世が10年あまり過ぎ、長らく宗茂は幕府を支え続けた。
そんなある日、
「今日は久しぶりに一献飲もう」
と、政宗から誘いがあった。
「かしこまりました」
宗茂は了承した。
最近めっきり足腰が悪くなった宗茂は杖をつかい、ゆっくりと歩く。
寄る年波には勝てない、ここ最近その言葉が身に沁みる。
「ふ」
そんな自分に思わず笑った。
伊達の屋敷に招かれた宗茂は、改めて政宗を見た。
お互いだが白髪の生えた老婆となり、年月の移ろいを感じざるを得ない。
たが、それにしても政宗の顔に生気が無い。
野望と生気の塊のような独眼竜が、見る影もない。
「宗茂」
「はい」
「どうやら、ワシはこれまでのようじゃ」
「またまた、何を言われる。ご健勝麗しく・・・」
「ふふふ、お前に世辞は似合わぬぞ宗茂。見れば分ろう。この独眼竜の憐れな姿」
「・・・・・・」
「誰にでも死は訪れる。いかに生きたかが肝心。ワシは死が近づいておるが、後悔はない」
政宗はきっぱり言う。
「でしょうな」
盃をぐいとあおり、宗茂は笑った。
「言うわ」
政宗も酒を一口飲み笑い返した。
「政宗殿、感謝いたす」
宗茂はこれまでの思いを込め平伏した。
「やめろ、やめろ。酒がまずくなる。今日はとことこん飲もうぞ」
「はい」
「ふふふふふふ」
「はははははは」
2人は心ゆくまで語りあった。
若かりし頃の野心と野望を燃やした戦国の日々を。
寛永13年(1636)独眼竜と呼ばれた伊達政宗逝去した。
同朋の死・・・宗茂は自身にも人生の旅終焉が近づいているのを感じた。
独眼竜政宗。