二、宗茂邁進と政宗
勤勉実直に励む宗茂。
宗茂率いる立花家は5000石を給され徳川の臣に加わった。
のち、将軍秀忠の御伽衆に任ぜられ、慶長11年(1606)陸奥棚倉に1万石を与えられ、立花家は大名へと復帰した。
宗茂は棚倉の地より九州の方角へ向き静かに両手を合わせ、誾千代に感謝した。
実直勤勉な宗茂は、その才覚をいかんなく発揮し、よく将軍秀忠を補佐し、軍略、政治などの多方面を支え続けた。
早数年が経ったそんなある日。
宗茂は江戸の伊達屋敷に招かれた。
ほろ酔いの独眼竜はニヤリと笑う。
「宗茂殿、丸くなったの」
「・・・政宗殿は、あいかわらずですな」
宗茂は涼しい顔で返した。
「・・・それはどういう意味かな」
「まんまですよ」
「ふん、一たび生を受けた以上、大望を抱かねば武士とは言えまい」
「今は徳川の世、何を今更」
「さればよ」
政宗の円熟味をました胸がたわわに揺れる。ぐいっと、宗茂の顔に迫り、熱い吐息が吹きかかる。
「伊達と立花で天下をとらぬか。2人ならばやれるぞ!なんなら信繁も・・・」
「笑止。酔っておられるのか」
政宗は苦笑いを浮かべると、酒をあおった。
「か~つまらんヤツだな。犬か、天下の無双者は犬に成り下がったか、くそ真面目にも程があるぞ」
「今、天下に乱を起こして何になる」
仏頂面で宗茂は言った。
「されば、天下を掴める好機あれば逃す手立てはなかろう」
「・・・豊臣ですか」
「左様。大御所は必ず豊臣を取り潰す」
「左様ですな」
「ここに隙が生まれる」
「これまでですな」
すくっと宗茂は立ち上がった。
即座にパチンと政宗は額を手で叩いた。
「あいた。同い年生まれのよしみだ。戯言ととして許せ」
「戯言にも程がありますな」
「然り。だが、夢はいつでも語ってもよかろう」
「夢は所詮夢にて」
「夢が無いのう」
「夢を見続ければ、いずれ夢に食われまする」
「・・・左様か」
「これにて」
宗茂は一礼をして、席を離れようとする。
「宗茂」
政宗は宗茂の背中に向かって言う。
「ん?」
「九度山を降りた真田信繁は豊臣方だ」
「・・・そうですか・・・左様でしょうな。いずれ戦場にて相まみれることも」
宗茂はそう言うと振り返りもせず立ち去った。
「フン・・・馬鹿者」
政宗は苦笑しながら酒を飲み干すと、盃を投げ捨てた。
宗茂と政宗。
来月もよろしくお願いします。