四、徳川の臣となりて
忠勝来訪一戦。
数日後、ケロリとした顔で連貞が戻ってきた。
彼は包み隠さず、すべてを話したとのこと、「それでよい」と宗茂は笑った。
次の日の夜半。
本田忠勝が宝祥寺を訪れた。
鎧甲冑姿に自慢の大槍蜻蛉切を携えてのものものしい出で立ちであった。
「久しぶりだな、宗茂殿」
「忠勝殿もご健勝で」
「はははははっ!・・・で、覚悟は決まったとみえるが」
「は、この宗茂、立花家、徳川家にお仕えし、粉骨砕身ご奉公いたす所存」
「よくぞ、申してくれた」
忠勝はがしりでごつい手で、宗茂の両手を握りしめた。
「だが、しかし」
「は」
「それは、ワシがお主を認めてからだっ!」
「はい?」
「宗茂殿、お主は身体がなまっておるであろう!その腑抜けた身体で徳川家の奉公が務まるかどうか、ワシが見極めてやる!」
(なるほど、そういうことか)
宗茂の口角がわずかばかり動く。
「おもしろい。宗茂の力がなまっておるかどうか確かめてもらおうか!」
「応っ!」
宗茂も素早く鎧甲冑へと身を包むと、2人は庭に飛び出した。
忠勝は鹿の大角を双方にあしらった異形の兜をかぶり、極黒の甲冑を身に纏っている。
「ふんぬっ!」
右足を地に叩きつけ踏ん張ると、砂塵が舞いあがる。
大上段に構えた大槍蜻蛉切が唸りをあげ、対峙する宗茂へと打ち下ろされる。
月輪の兜をつけし宗茂は、素早く後ろへ飛び退くと、間髪迫る忠勝に向かい神速で弓を番え、矢を放つ。
忠勝は突進を止めず、首を前に倒し、兜で矢を防ぐ。
衝撃でひび割れる兜。
笑みがこぼれる。
二撃目の槍は横薙ぎ、宗茂の横腹目掛けて一閃される。
刹那の一撃は、抜刀する隙を与えない。
宗茂は腰をくるりと回し、刀の入った鞘ごと、忠勝渾身の槍にあてる。
激痛が身体を走るが、最小限に攻撃の威力を緩め、わざと食らったかのように飛ぶ。
地に激突するさいは、上手く受け身をとって大げさに転がる転がる。
忠勝を油断させ、宗茂はすくっ立ち上がると、弓を番え一矢、二矢と放つ。
忠勝は槍を旋風させ防ぐ。刹那、
「!」
忠勝の男が見上げた頭上には、宗茂が赤月に舞い、愛刀無銘伝二字国俊を煌かせ兜割をする。
バッサリ。
兜が真っ二つに割られる。
「見事」
忠勝は唸った。
「忠勝殿、これにて身が引き締まり申した。改めて願わくば我らは徳川家に仕えとうございまする」
宗茂と家臣たちは深々と頭をさげた。
「宗茂殿、よくぞ決意された。徳川家はこれで安泰じゃ!かたじけない」
忠勝は大粒の涙をこぼし男泣きした。
男泣き。
※拙作、ショートショート作品から抜粋。書き直し追加しております。