立花家再興への道編 一、誾千代逝く宗茂慟哭
愛する者の・・・。
宗茂一行は、京にて公家を頼り立花再興を模索していた。
その生活は質素そのもので、かつて公家が住んでいた、あばら家で主従ともども暮らしていた。
その折、宗茂に誾千代逝去の知らせが届いた。
「そうか」
宗茂は一言だけ呟くと縁側に出て、九州のある西の方角を向いて両手を合わせ、目を閉じた。
「すまぬ、一人にしてくれぬか」
家臣たちにそう言うと、宗茂はふらふらとした足取りで奥の部屋へと入った。
しぱらく、棒立ちをし涙が止めどなく溢れる。
長い間そうしている。
喪失感が押し寄せ、狂わんばかりとなる。
宗茂は誰もいないことを確認すると、崩れ落ち畳に額を押し当て嗚咽し続けた。
そうやって3日が過ぎた。
「殿」
心配する十時連貞が、部屋の外で声をかける。
「うむ」
宗茂は頷く。
「もう3日3晩、お食事もとられておりませぬ。奥方様を弔うお気持ち、心中を察しますが、何卒、立花の為、奥方の為にも立ち上がられてください」
「うむ」
「殿!」
連貞は無礼を承知で部屋に押し入る。
「あっ、失礼を!」
宗茂はふくらんだ胸へのさらしを巻いている途中だった。
平然と連貞を見やる宗茂。
「連貞」
「はっ」
「江戸じゃ」
「は?」
「江戸に行くぞ」
「殿っ!」
生気の戻った宗茂の声に連貞の目が輝く。
「もはや公卿殿たちはアテにならぬ。こちらは金も時間もないしの・・・それに、間もなく内府殿に征夷大将軍の宣旨が下る。京において情報という収穫はあった」
「はっ。天下の膝元の立花が乗り込む訳ですな」
「左様。待っているだけでは何も動かぬ。ならばこちらが動くまで」
「はっ!」
「このままでは冥府に行ったさい、誾千代に笑われるでな」
宗茂は赤い目を擦り苦笑した。
為にも。




