五、旅立ちの刻
宗茂立つ。
宗茂は血相を変えてまくしたてた。
「なにぃ!仏門に入るだと」
誾千代は夫を真っすぐに見据える。
「はい。私はこれより赤村(現熊本県長洲)で余生を過ごしたく思います」
「馬鹿なことを申すな」
「馬鹿なことではございません。これからの話、私の遺言と思い聞いてくださいませ」
「・・・・・・」
「どうやら、古傷が悪化したようでございます」
「・・・・・・」
「思うように動けず、最近は立ちあがることもきついことがございます」
「・・・何を」
「日の本一の武士宗茂と共に歩む道もここまでです」
「まだ、まだじゃ」
誾千代は懇願にも似た宗茂の言葉にふるふると首を振った。
「あなた様。今こそ立ちあがる時です。私はこの数か月とても幸せな時を過ごさせていただきました。」
「な」
「立花の臣は待っています。こんなところで終わるような人ではないと。信じておるのです・・・それは私も亡き父上たちも・・・よいですか、あなた様」
「・・・・・・」
「あなた様はこれから道が開けます。きっと」
「まさか」
「いいえ、私がお祈りいたします。これからずっと、ずっと・・・だから、あなた様は自分を信じて 己の道を立花の信義を貫いてくださいませ」
誾千代は、そう言うと宗茂の手をとりぽろり涙を流した。
しばらく、天を仰ぐ宗茂だったが、
「あい、わかった」
やっと、言葉を発した。
翌日、立花一行は別れのささやかな別れの宴を開いた。
宗茂ともに立花家再興復活の道を探るものたち。
加藤家の臣として残る者たち。
そして、静かに見守る者。
立花のみな笑顔で時折、涙をみせ感情を爆発させた。
今宵は大いに飲んで騒いだ。
誾千代は。