三、おひさの温泉逗留
やっぱり。
熊本までの道のりは長い。
夕刻の道中、一行は山鹿温泉に通じる街道を進んでいる。
馬上の誾千代がソワソワしだす。
「どうした」
宗茂が妻に声をかける。
「あなた様、ここは」
夫は察し頷いた。宗茂もまたそうなのである。
「清正殿」
「なんじゃ?」
「ここは山鹿でござる」
「然り」
「山鹿といえば」
誾千代が食い気味に話しに加わる。
「???」
「温泉です」
夫妻は同時に言った。
「お、おう」
2人の勢いに思わず清正は頷いた。
こうして一行は、山鹿温泉へと足をのばし一泊逗留することにした。
草木も眠る丑三つ時。
「はー、いい、お湯」
誾千代は久しぶりの山鹿温泉の湯船に浸かり堪能する。
「だな」
宗茂は両手で湯を掬い顔にあてがう。
「お前様」
「ん?」
「見事な身体つきでございます」
「なんじゃ。藪から棒に」
宗茂は思わず顔を赤らめた。
「ほんに、おなごなら殿方がほおっておきませんでしたぞ」
むにっ。
誾千代は宗茂の乳房を掴む。
「これ」
「よいではありませんか。ふたりきりなのですから」
清正や家臣たちは宴会で酔いつぶれて寝てしまっている。
「・・・・・・」
「そりゃそりゃそりゃ」
むにっ、むにっ、むにゅ。
誾千代は強弱をつけ揉みしだく。
「えーい、やめい」
宗茂は誾千代の手を払いのけようとすると、妻はするりと夫の懐へ入り込む。
「へへへ」
誾千代は宗茂の胸に顔を埋めると笑った。
「おい誾、どうしたんじゃ」
「あなた様、お慕いしております。誾はずっと・・・」
「おう」
宗茂は顔を真っ赤にし、そっぽを向いた。
誾千代はそっと涙を流す。
弓張り月がふたりを見ている。
温泉はいいよね。