二、いざ熊本へ
熊本へ。
立花宗茂改易され、浪人となる。
この一報は、多くの国持ち大名に知られることとなる。
西国無双の比類なき武将、宗茂を召し抱えたいと思う大名はこぞって、宗茂に書状を送り仕官の打診を行った。
主だって前田家に加藤家は熱心に臣下へと勧誘するが、宗茂は首を縦に振らなかった。
ある日、膝枕をする誾千代が尋ねる。
「あなた様、立花家の今後、いかになさるおつもりか」
宗茂は妻の太ももを撫でつけながら言った。
「仕官はせぬ。ワシの器量に見合う場もなし・・・それに今更」
「・・・今更?大名に未練があるのですか?」
「・・・ふん」
夫は妻の顔を覗き込みそっぽを向く。
そんな最中、加藤清正自らが宗茂に面会を求めてきた。
「お通しせよ」
「はっ」
みすぼらしいあばら屋ながら、宗茂と誾千代はきりっとした面持ちで出迎えた。
ぼろは着ていても心は錦である。
「これは、お2人」
清正は会釈をすると座った。
「こんなみすぼらいところに、ようこそおいでくださった」
「なんの。天下無双の者たちを迎え入れるのに、こんなのは造作もない」
「清正殿、ワシは」
「おっと、スマン」
清正は、みなまで言うなと手で制した。
「言い方が悪かった。今日は仕官の件ではない」
「?」
「ま、お主が心変わりをしたとなれば、この清正厚く応じるつもりだが」
「清正殿のあたたかい御心感謝いたします」
誾千代は慇懃に頭を垂れた。
「いや、奥方殿、頭をあげられよ。宗茂殿」
「はっ」
「回りくどいことは嫌なので、単刀直入に言おう。食客として、熊本に来ぬか」
「・・・・・・」
「無論、立花の家臣も連れてじゃ」
「・・・それは」
宗茂は言葉の真意を探る。
「そのままの意味じゃ。ずっと留まるのも出ていくのもお主たちの勝手・・・なあ、ここはあまりにも住みづらかろう・・・のう奥方」
清正はあばら家と果てている家屋を眺め言った。
「かたじけない」
宗茂は頭を垂れた。
「あなた様」
誾千代はそっと夫の肩に手を置く。
「実はこれから先、どうしてよいか迷うておりました。加藤殿よろしくお頼み申す」
夫婦そろって礼を言う。
「そうと決まれば、早速出発じゃ」
「へ?」
呆気にとられる夫妻に、
「この清正、せっかちで意外に計算高い男での。何分、九州の事はまだまだ疎い事が多い・・・きっちり食べる分は働いてもらうぞ、お2人、はははははっ!」
清正は豪快に笑った。
いこう。