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プー太郎(浪人)、宗茂と誾千代そして家臣たち編   一、城明け渡し

 田中吉政入城。


 宗茂の後に柳川に入るのは田中吉政だった。

 豊臣秀吉に仕え、頭角を現し関白秀次の筆頭家老まで昇りつめる。

 秀次失脚後は、秀吉により関白秀次に諫言したという功でおとがめなしの三河岡崎10万石の大名となった。

 関ヶ原の戦いでは、東軍に属し、石田三成を捕らえた勲功により、筑後一国32万石の柳川城の国持ち大名となった。

 城郭や町づくりの名人とされる。

 のちの2代目忠政に跡取りが生まれなかった為、改易され、宗茂が柳川に返り咲く契機となった。



 柳川城にて。

 上座に座る田中吉政は痩せた身体で、ぎょろりと宗茂を見た。

 夫妻は慇懃に平伏する。

「此度はもはや・・・いやはや、東西で運命が別れ申した」

 吉政は静かに言った。

「戦いは無常なものです」

 宗茂はつるり頭を撫でて薄らと笑った。

「宗茂殿、そなた程の者なら、どちらに勝機があることなど一目瞭然であろうに」

「ほほほ、そこは我が殿。武骨者」

 誾千代はゆっくりと頭をもたげ、涼しい瞳を見せる。

「これ、誾千代」

 宗茂は咎める。彼女は止まらない。

「我が殿は、太閤様に恩義があるというて聞かなかった。吉政様は盟友である石田様を捕らえられた」

 凍えるような鬼姫の一言。

「・・・・・・」

 吉政はじっと誾千代を見つめ言った。

「だが、それが現世(いま)

「その通りです。勝者は吉政殿であり、敗者は我が夫」

 誾千代は再び平伏した。

「すみませぬ。吉政殿。うちの妻がつまらぬことを」

 宗茂は詫びを入れる。

「いいや、よい。申されることは尤もじゃ。じゃが、ワシは家族を、家臣を守る為に最善をつくした。そのことに一切の後悔はない」

「はい」

 2人は頷いた。


「では、城の明け渡しはすべて滞りなく」

 宗茂は言った。

「ああ、宗茂殿。このワシに言いたい事があるか」

 吉政は去ろうとする旧領主に言葉をかけた。

「柳川の民を頼みます」

「しかと心得た」

 夫妻は深々と吉政に頭を下げ、柳川城を後にした。



「誾千代」

「はい」

「お前の悪い癖だぞ。人にはそれぞれの思いがある」

「ほんに・・・吉政殿は悪い人ではありませんね。きっと柳川の民も安心して過ごせましょう」

「こいつ」 

 惜別の思いを込めて、2人は柳川城を見あげる。

 いつまでも眺め続ける誾千代に、宗茂はくしゃりと髪を撫でた。

「何を」

「さあ、行こう」

 宗茂は右手を差し伸べた。




 人はそれぞれ思いがある。

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