四、失意
国許へ。
宗茂たちが大坂城に入ると、関ケ原の敗戦によりどんよりとした空気に覆われていた。
彼はつとめて笑顔を見せ、皆を鼓舞する。
「なあに、一度負けただけじゃ、これから、これからよ」
宗茂は早速、西軍総大将毛利輝元に進言する。
「こうなれば、籠城し徹底抗戦しましょう」
「しかし・・・」
輝元の言葉は歯切れが悪い。
「亡き太閤が造られた古今無双堅牢たる大坂城は絶対破られません。敵が城攻めに疲弊した頃を見計らって、奇襲、夜襲をかければ、その内東軍は綻びが生まれましょう。なにせ、あちらには豊臣の恩顧の武将が多くおります」
「・・・・・・」
「輝元様っ!」
「宗茂殿、そう怒鳴るな。・・・実は、徳川方から講和の使者が来てな」
「なんと、恭順するおつもりで!」
「淀殿、それに秀頼君もそうすると仰せだ」
「・・・それをどうにかするのが、総大将のお務めでは・・・」
「皆まで言うな。これはもう、決定事項じゃ」
「勝機を逃すおつもりか!」
宗茂の顔は怒りで紅潮する。
「我らは関ケ原で大敗したのじゃ。今は再び力を蓄え、その時も待つのみ」
「・・・それでは、遅い!老獪な内府殿は、その牙を喉元に突きつけますぞ」
「これまで!」
輝元はそう言い放つと、そそくさとその場を後にした。
「総大将!」
宗茂の叫びが広間に響き渡る。
宗茂は直ちに軍を整え、自領柳川へと引き揚げることを決断した。
門を出て大坂城を一瞥し嘆息する。
「もはや・・・」
小さく呟くと、軍に行軍を下知する。
失意の行軍の中、にわかに騒然とする。
異変を感じた宗茂は、
「どうした?」
と、尋ねた。
「島津が!こちらへ」
関ヶ原の戦いで、堂々島津の退き口を行った島津は兵のほどんどを失ない、命からがら立花軍の前に現れた。
「義弘殿か、生きておったか」
「はっ!」
「・・・・・・」
老将由布惟信が、何やら言いた気な顔をして、拳を固めている。
「まさか・・・な」
と、釘を刺す宗茂。
「いえ、滅相も無い。ここは島津に塩を送るが吉かと」
「よう言うた!いくら爺でも、また仇などど、世迷言をぬかしおったら、ただではすまさんかった」
「危のうございました」
「ん」
「いえ。共に国元へ帰る旨お伝えしてきます」
「応」
老将はその年に似合わず、軽快に駆けだして行った。
こうして、立花、島津はともに、九州を目指し無事国元へ帰りつくことができた。
だが、柳川でも東軍の脅威が迫っていた。
島津と立花。