立志編 一、萌えたる者、運命の出会い
ずきゅ~ん。
天正6年(1578年)千代11歳の頃、九州の覇権を巡る大戦、耳川の戦いが行われた。
主家大友軍と薩摩島津軍の合戦は、激戦の果てに大友家大敗に終わり、仕える多くの有力武将たちが命を落とした。
千代の父紹運は兄や義兄までも失い、その無念さのあまり剃髪し、名を鎮種から紹運(文中の名)と号した。
そんな失意の中、筑前の地を預かる大友家重臣紹運と、三宿老の一人立花道雪は愛娘誾千代を連れて、風雲急を告げる九州の情勢について話し合うべく紹運の居城岩谷城を訪れた。
2人は膝をつけて語り合う。
「島津の勢いは日に日に増すばかり・・・それに比べ我が大友家は・・・」
道雪はため息をつき、庭で蝶を追いかけ遊ぶ愛娘を見た。
「道雪様・・・我らが守る筑前にて、きゃつらを止めなければ、大友家の繁栄はありますまい」
紹運は畳を叩いて、道雪を奮い立たせようとする。
「然り・・・だが情勢は厳しくワシも老いた・・・たった一人の娘・・・誾千代はまだ若く青い青い、家督を譲りはしたが・・・この先どうやって主家を盛りたてようか・・・」
「道雪様、なにを弱気な」
「うむ、弱気・・・確かにな、だが足腰もすっかり弱り、後のことを考えるとなると・・・」
その時、ズカズカと床に音をたてて速足で歩く音がして、
「父上っ!」
大声が居間に響いた。
「なんじゃ千代!大事な話の途中じゃぞ」
紹運は眉間に皴を寄せた。
「おっ、これは道雪様」
道雪の姿に気づいた千代はぺこりと頭をさげる。
「ほう、千代、大きゅうなったなあ。武芸は磨いておるか」
「勿論です」
「ふむ、見事な体躯をしておる。これなら若武者にも負けまいて」
「当然じゃ」
千代は鼻をすすり、えへんと胸をはる。
「いや~、とんだおてんば者に育ったものです」
紹運は頭を掻いた。
「いやいや、今や戦国の世、男だろうが女子だろうが関係ない。強い者が勝者なのだ」
「さすが道雪様」
「こらっ!」
「えへへ・・・ところで、あのおなごは?」
「ああ、あれか、あれはワシの娘じゃ」
「あれが・・・誾殿か、めんこいのう・・・実に可愛い・・・たべてしまいたい」
「ん?」
「ああ、こっちのこと」
「千代」
「はい」
「誾を気に入ったか」
「はい。実に可愛いそれにつきる。出来ればアタシのものにして愛でたいものじゃ」
「・・・ほう。ワシも千代のことを気に入っておるぞ」
「それは祝着、だけど、お年寄りに腰入りなぞいたしません」
「こらっ!」
「はっはっはっ」
豪快に道雪は笑った。
「お前は!」
「よいよい。ワシもおぬしのような童女は好かん。ワシはおぬしの武の才アリと見ておる。ようはその肝っ玉と腕っぷしに惚れたのだよ」
「千代~!」
紹運は顔を真っ赤にして怒っている。
「ははははっ。では、失敬」
父の怒り心頭な姿を見て、千代は脱兎のごとく庭へ飛びだす。
千代は少女誾の前に立ち、彼女の手を掴んだ。
「誰?」
「そなたの姉じゃ。一緒に遊ぶぞ」
「へっ?」
千代は誾の返事も聞かずに走り出し、紹運と道雪の前から消え去った。
「あいつめ!」
紹運は2人の消え去った方を睨みつけたまま、叫んだ。
「ははははははっ、よいよい紹運殿よ」
「はっ」
「ところで折り入って話があるんのじゃが・・・」
道雪は急に神妙な顔を見せた。
ビビッときた。