関ヶ原の戦い。その時立花は編 一、大戦(おおいくさ)はじまる
宗茂の矜持。
徳川家康の傲慢な政治手腕は軋轢を生む。
慶長五年(1600)、越後の上杉景勝との関係が悪化、家康は動いた。
会津の上杉景勝に叛意あり、上杉家重臣直江兼続、怒りの「直江状」に家康は完全にキレ、会津征討の命を下した。
・・・表向きはである。
老獪な家康は、天下取りの算段を着実に移していく。
上杉追討の進軍は遅々としてゆるりとしたものだった。
家康はじっくりとその時を待っていた。
7月、蟄居していた石田三成が、大谷吉継とともに挙兵、それに示し合わせたかのように、豊臣三奉行が五大老の一人、毛利輝元を総大将と確立して、諸大名に家康の弾劾状を送りつけたのだった。
もはや決戦待ったなし。
宗茂は、別居後も足しげく誾千代の館を訪れていた。
今日は緊張した面持ちで、手には書状を持っている。
「誾千代来たぞ」
「あなた様」
ぺろんと、出会い頭に宗茂は誾千代の尻を撫でた。
「ずいぶん、細くなったな」
「最近は、平和で身体がなまっておりまする」
誾千代は瞬間、睨みつけ一変笑みを見せる。
「・・・そうか」
宗茂は押し黙った。
「なにか、ございましたか」
「・・・う、うむ」
妻に嘘はつけぬ、宗茂は覚悟した。
「書状が届いた」
「・・・決戦ですね」
「ああ」
察しのよい妻に、宗茂は頷くほかかなかった。
「で、どちらに、付かれるおつもりですか」
「無論、西軍じゃ」
即答する。
「でしょうね・・・はあ」
誾千代は溜息をついた。
「なんじゃ、今の溜息は」
「律義者のあなた様なら、そう言うと思っていましたので」
「なんじゃ、それなら・・・」
「負けますよ」
誾千代は断言した。
「なにを戦う前から」
「決まっておりまする。戦上手なあなた様なら、分かり切ったことでございましょうに」
「・・・勝負は・・・」
「あの内府(家康)様にぬかりがある訳がありません」
「ぐ」
「聞けば、内府は上杉征討の命を下したとか・・・で、豊臣軍が動いて・・・今から軍を動かして間に合うのですか」
「駆けつけてみせる」
「はぁ」
誾千代は溜息をついた。
「城を頼む」
「今や、か弱い私に頼むというのですか」
「・・・すまぬ」
宗茂は頭を垂れた。
「私は先の戦で力を失いました」
「うむ」
宗茂は誾千代の手を取った。懇願する瞳。
「・・・はあ、あなた様は、言いだしたら聞かぬお方」
「・・・・・・」
「お風呂でも入りますか」
誾千代は笑った。
お風呂いくよ~。