三、天下人、秀吉の死。戦の終結
秀吉の死。
暗闇の中、男はふるえる手を天に伸ばす。
「まだじゃ・・・ま」
1598年、豊臣秀吉没す。
露と落ち
露に消えにし我が身かな
難波のことも夢のまた夢
天下人は最期まで、最愛の息子、秀頼のことを案じていた。
日本は再び風雲急の時代をむかえようとしていた。
秀吉の死により、戦う意味を失った日本軍は明と講和をし、帰国の途へとついた。
なんの戦だったのか・・・。
大名たちの徒労感は果てしない。
欧州先進の国々が虎視眈々と亜細亜の国を狙う中、両軍は疲弊を招き、ただ国力は衰えた。
立花宗茂は、戦の最中、その報聞き絶句する。
「くっ!関白様」
事態は切迫、のち日本軍は、合議により帰国方針が固まると、釜山まで撤退することになった。
明との交渉により、和議が成立し、日本への撤退が正式に決定される。
撤退の為、巨済島に集結していた宗茂を含む日本西国軍は、ある知らせを受ける。
「敵、襲来っ!」
「なんと!和議は成立、無事帰還が約束されたのではないのか!」
主将島津義弘は思わず叫んだ。
「いかんとする?」
小早川秀包は眉間に皴を寄せる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙する戦国大名たち。
「帰る為に戦うしかありますまい」
宗茂は、ゆっくり立ち上がり、自慢の槍の石突を床に叩きつけた。
「さもありなん!」
頷く一同。
「おう!」
西国大名は、決意を固め立ち上がる。
のちに露梁海戦と呼ばれる慶長の役最大の海戦であった。
宗茂率いる立花軍は、敵先鋒水軍と交戦、奮戦により相手軍を後退させていく。
が、後退した先鋒軍を見て、明主力軍が押し込む形となり、これにより入り乱れの混戦となる。
海峡を突破し、日本への帰還を狙う日本軍だったが、水軍の包囲網は激しく容易にいかない。
そんな中、敵から圧倒的な戦上手で鬼島津と恐れられた、島津義弘の旗船が潮に流され、後落する。
敵船に熊手を掛けられ、あやうく斬りこまれそうになる。
宗茂は主将の危機を目視する。
「旋回っ!主将を救えっ!」
「は!」
古参の由布惟信が叫んだ。
「殿っ!お父上を討った仇敵ですぞ」
「は!」
今度は宗茂が言い返す。
「長年の無念、見て見ぬふりをし、島津の最後を見届けるのも・・・」
惟信の言葉に、宗茂は大笑いをする。
「ははははははは!見て見ぬふりだと・・・立花は島津に勝てぬか」
「・・・いえ、決して」
「ならば、無念を晴らすは我等自身ではないのか?・・・いや、よそう。ここは私怨を晴らす場ではない。仲間を救うのだ」
「殿っ!」
「惟信、世迷言はここまで、全軍で島津殿をお救いするのじゃ!」
「最もでござる!」
「行けっ!」
「はっ!全軍突撃っ!」
立花軍は敢然と敵軍へと向かった。
主将の船を全力で守ると、一丸で海峡を突破する。
激戦激闘の後、西国軍はなんとか、敵の包囲をかいくぐり、日本への帰途についた。
撤退戦。