栄枯盛衰~新たる戦い編~ 一、さらなる覇をとなえる
天下人の次の戦。
翌年の天正19年、肥前(佐賀)に名護屋城が建てられた。
それはかつて大坂城に匹敵する巨大な豪華絢爛かつ強固な城で、眼下に見える海原の遙か先には高麗と明がある。
秀吉は天下を統一し、絶頂期にあった。
「南蛮異国の力恐るべし・・・日の本ならびに周辺国はひとつにならにゃなるまいて」
「はっ」
秀吉の言葉に、石田三成は慇懃に答える。
「官兵衛・・・首尾はどうじゃ」
「決裂」
黒田官兵衛は一言告げた。
「なんじゃて!」
秀吉は目を丸くして、血相を変えるが、手に持つ扇子で自分の頭を二三度叩く。
「・・・ほうか、ほか、相分かった。ならばこの日の本が一つにまとめあげ、異国の脅威を取りのぞく他あるまいて・・・佐吉」
「はっ」
「諸大名に下知せよ・・・唐入れじゃ!」
「ははっ!」
三成は平伏する。
「あいや、しばらく!まだ日の本は戦が終わったばかり、機は・・・」
官兵衛は天下人を諫めようとする。
「官兵衛!ワシはもう決めたのじゃ!」
秀吉物凄い剣幕で軍師に言い放った。
翌天正20年、肥前名護屋の地に秀吉配下大名たちが集められた。
さながら戦国オールスターズである。
徳川家康、宇喜田秀家、小西行長、上杉景勝、加藤清正、鍋島直茂、黒田長政、島津義弘、福島正則、小早川隆景、毛利輝元、豊臣秀勝、細川忠興、九鬼嘉隆、藤堂高虎、伊達政宗などなど。
そして西国無双立花宗茂。
名護屋城での開戦の宴が行われる。
宴もたけなわ居並ぶ諸将を前に秀吉は下知する。
「唐入りじゃ、おのおの全身全霊最善を尽くせ!」
「はっ!」
全員が平伏し、天下人秀吉は満足そうに頷いた。
解散後、立花夫妻は、近くの野趣豊かな近場の露店風呂に入っていた。
「えらいことになったな」
「ええ、でも、我等立花軍は負けません」
「誾・・・」
宗茂が言おうとしたのを、誾千代は言葉を重ねた。
「私は行きますよ」
「やめてくれ。頼む、日の本のいくさとは違うのだ。見知らぬ地に行くのだぞ」
「元より承知」
「・・・誾千代」
「私は絶対行きます!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
堂々巡りのやりとりが行われる中、笑い声が聞こえた。
「ははははは!これは面白い」
「誰だ!」
「伊達政宗じゃ」
「・・・と、真田信繁(幸村)」
ばいんと大きなものを揺らし、かたやおずおずと急所を隠し、政宗と、スレンダーぼでぃの信繁が湯けむりの中から現れた。
「これはこれは、お2人もいらっしゃったのですか」
宗茂は慇懃に一礼をする。
「伊達・・・」
誾千代は眉をひそめ警戒する。
「奥方殿、そんな目をされるな」
政宗は自虐的な笑みをみせた。
「ま、其方の所業を目の当りにすれば、警戒するのも致し方あるまい」
信繁はぶっきらぼう言い放つ。
「ははははっ!これはきついのう!」
政宗は両手で湯を掬うと、信繁の顔めがけてかけた。
「熱」
信繁は顔にかけられた湯を両手で拭う。
「しかし、此度の戦はマズイな」
政宗は自分の思いを包み隠さずに言った。
「・・・政宗殿」
宗茂はあたりを見渡し、声をひそめた。
「誰もおらぬ。同い年(25くらい)のよしみとして忌憚なく言っておるのだ」
「油断はなりません」
誾千代は言った。
「然り・・・だが、それは生あってのものじゃ」
政宗は言い返す。
「唐入りか・・・」
信繁は呟く。
バシャ。
物思いに耽る信繁に、政宗は再び湯をかけた。
「なっ!」
「生きよ」
政宗は言い放った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
立花夫妻は真意を探るべく政宗を見た。
「これより、きっと日の本は再び動乱の世となる・・・次は我等の時代となるのだ・・・だから・・・生きる、生きよ」
その言葉に頷く宗茂と誾千代そして信繁。
政宗はニヤリと笑うと、3人の顔に湯をかけようとする。
バシャ。
先手をとり誾千代が政宗の顔面に湯をあてる。
「ふふふふ」
「はははは」
湯けむりに4人の笑い声が響く。
新世代。