三、山鹿温泉逗留
これぞなろう歴史小説(笑)。
宗茂と誾千代は秀吉軍と同行途中、許しを得て、肥後の山鹿温泉に湯治に訪れた。
しなびた露天風呂で立花夫妻は仲睦まじく温泉を楽しんでいる。
筋肉質なしなやかな柔肌を持つ宗茂と、白く透きとおるやわ肌の誾千代。
「洗いっこでもするか」
「お戯れを」
「よいではないか誰もおらぬ、ここはワシとお主のふたりっきりじゃ」
「・・・では」
(だぎゃ)あ
「ん?」
2人は若干違和感を覚えながら、互いの裸体を洗いっこする。
誾千代は宗茂の背中をこすりながら、
「宗茂様やりましたね」
「ああ・・・だが」
思い形は違えども、島津を制し、戦絶えぬ九州に平定をもたらしたのである。
必死の奮戦を重ねた立花軍の働きにも、宗茂は満足している・・・だが。
「願わくば、我等と大殿(宗麟)の力で、この大業を成し遂げたかった」
「あなた様」
「はい」
「それは欲張りというものです」
「そうかの」
「あの劣勢の中、我等だけで勝機を生みだすのは皆無でした」
「・・・・・・」
「そうだぎゃあ」
突然、湯けむりの中から声がした。
白く立ち上る湯気の中から、姿を現したのは秀吉とその妻ねねだった。
「流石、宗茂の奥方殿、聡いし、相変わらず、めんこいのう」
「これっ!この助兵衛猿」
「ねねっ!助兵衛とはなんじゃ、助兵衛とは!」
「助兵衛を助兵衛と言って、何が悪いのですか、ねぇ」
ねねは破顔して見せた。
突然の温泉来訪者に、宗茂と誾千代は合点いき、顔を見合わせた苦笑いをした。
・・・それにしてもと宗茂は思った。
(秀吉様の奥方ねね殿は、うちの嫁誾に似て、幼く見え、めんこい顔をされておる。どうりで、誾に執着されるはずだ)
宗茂はねねの身の丈は低く、おさまりのいい乳とお尻を見て納得いった。
そんな宗茂を見透かすかのように、
「ワシは、おみゃあさんも好きじゃて」
と、秀吉はいやらしい手つきで宗茂の肩に手を置いた。
「これっ!」
ねねの喝が飛ぶ。
「わしゃあ、宗茂を労って肩を叩いただけじゃ、何が悪い」
「手つき、顔つき、思惑!」
ねねはすまし顔で言いきった。
「こりゃ、かなわんのう」
秀吉はぽりぽりと頭を掻いた。
その仕草に、立花夫妻は思わず声をあげ笑った。
ふいに秀吉は真顔となる。
「宗茂」
「はっ」
「此度の戦働き、見事であった。まさに鬼神のごとく西国無双なり」
「そのようなお褒め言葉を頂くとは」
宗茂は恐縮する。
「いや、お主たちがいなかったら、九州平定は、もうちっと時間がかかっていただろう。ひとえに感謝する」
秀吉はぺこりと頭をさげた。
「ほんに」
ねねも秀吉に倣った。
「で、お主をでぇみょうに取り立てようと思っとる」
「私を大名にですか、畏れ多い」
「おっと、断るなよ。これは宗麟にも許しを得ておる。分かっておろう」
「は」
「聞けば、岳父は柳川を欲していたと」
「はっ、父は堅固たる柳川城を幾たび攻めましたが、落とせませんでした」
誾千代は割って入って答えた。
こくり、宗茂は頷いた。
「然り、この秀吉、万事承知しておる・・・そこで、近いうちに論功行賞を行う。宗茂、誾千代、ともに柳川の地を治めよ」
突然のことに、2人は目を合わせて信じられない顔をする。
「ふはははは、頑張ったご褒美だぎゃ・・・是非、受け取ってくれるな」
「は!」
「はい!」
2人は気持のいい返事をした。
「ふふふ、でわ、宗茂、誾千代よ、ねっとり、裸の付き合いを楽しもうて」
「これっ!」
ねねの怒りの大声が、湯殿に響いた。
山鹿温泉の歴史は古い・・・らしい。