秀吉九州を制する編 一、秀吉拝謁
九州に覇を。
太閤九州に着陣す。
この知らせは敵味方問わず駆け巡り、島津軍は苦渋の撤退を余儀なくされた。
この機に乗じ、さらに攻勢をと思いを巡らす宗茂夫婦に、主家大友から知らせが届いた。
宗茂は宗麟からの書状を読んだ。
「此度の戦、真に大義であった。直ちに秀吉公のもとへ参内せよ。なお、なにがあっても応と言うように」
宗茂は労いの言葉の後に書かれた一文に引っ掛かりを覚えつつ、誾千代と共に秀吉の元へ向かった。
度肝を抜かれるほどの大軍の列をかきわけて進み、秀吉の陣へと2人は足を運んだ。
陣幕には並みいる諸将の中、そして宗麟もいて中央の床机には、眼力鋭い小男がじっとこちらを見ている。
「立花宗茂と妻誾千代にございます」
2人は恭しく平伏する。
「おう、おう!おう!おう!おうっ!」
秀吉はその身体に似合わず、でかい声で叫ぶと、満面の笑みを見せ、二人の元へと駆け寄った。
「宗茂だぎゃあ、宗茂だぎゃあ」
彼は宗茂の両手をぎゅっと握りしめぶんぶん振った。
「ようやった。ようやった!お主のおかげで、万事九州仕置がうまく行っただぎゃあ」
「はっ」
「しかし、お主、見事な武者っぷりだが・・・おなごとしてもなかなかのべっぴんさんだぎゃあ・・・それに・・・」
張り詰めた空気が一気に緩くなり、秀吉は鼻の下を延ばし、秀吉はまじまじと2人を舐めるように見つめた。
「奥方様もきゃわいらしゅうて、思わず食べてしまい・・・」
「なっ!」
誾千代は顔を赤らめ、怒気を浮かべる。
「秀吉様」
諫める声がする。
「なんじゃ!官兵衛」
「御戯れを」
「・・・って、おみゃあ、これだけのべっぴんさんたちがの、敵を蹴散らしただぎゃあ!これを喜ばずして、なんとする?」
「おっしゃる通りです・・・が、まだ戦は決しておりません」
「む」
秀吉は真顔となり、2人に頭をさげた。
「いや~いかん、いかん、ワシはもっぱらおなごが好きでのう。美しいおなごを見るとたまらんのじゃ、ほれこの通り」
彼は素直に頭を垂れた。
「なんと、畏れ多い」
宗茂は深々と頭を下げるが、誾千代は釈然としない。
「でな」
秀吉はくるりと翻し、床机に座った。
「宗茂よ」
「はっ!」
「今日からそちたちはワシの家来となれ」
「は?」
「宗麟から許しも得ておる」
宗茂たちは宗麟からの書状の意味をここで知った。
「悪いようには決してせぬ」
「はあ」
宗茂は歯切れ悪く返事をする。
「誾たちは大友様に仕えます!」
誾千代は迷いのない瞳で答える。
「ふむ」
秀吉はギロリと宗麟を見た。
宗麟は床机から立ちあがり、二人の元へ行くと片膝をついて、秀吉に深々と平伏する。
「親方様・・・」
「・・・・・・」
宗麟は一気に口上を告げた。
「このものたち、忠義にあつく西国随一の兵にございます。よって秀吉様の推挙致します」
「そうか、そうか、あいわかった」
秀吉は満足気に顎髭を撫でた。
「2人ともよいな」
2人に振り返った宗麟の瞳は有無を言わさない。
「はっ」
「・・・はい」
宗茂と誾千代は声を絞り出した。
大友の大殿にみなまで言わせてしまったことに誾千代は唇を噛みしめた。
「ふふふ、官兵衛めでたいのう」
「はっ、真に」
「ワシは西国一の武将を手に入れたぞ!これで九州仕置は成った」
秀吉は高らかに笑った。
秀吉という男。