幼年期編 一、姫生まれる
いざっ出陣(投稿)!
幼年期編
一、姫生まれる
永禄10年(1567)、8月18日、夏、立花宗茂は大友家重臣高橋紹運の長男として生まれた。
史実では・・・しかし、宗茂は女性だったのである。
この物語は立花宗茂公の生涯をなぞらえながらもifの世界、とりわけ萌と無双に趣きをおいた作品である。
宗茂が生まれた時、たいそう喜んだ父紹運は、めんこい我が子に千代(本当は千熊丸)と名付けた。
愛らしい千代姫は玉のように可愛がられ、すくすくと成長していく。
彼女が4歳の時、
「萌」
父紹運が紙に一字を書いて見せた。
対座する千代は父に聞いた。
「ちちうえ、なんてかいてあるの?」
「うむ、これは萌じゃ」
「もえ?」
「千代、お前のことじゃ」
「?」
「ははは、近こうよれ」
紹運は手招きをする。
「うん」
千代はいつものように父の膝の上に乗って、満面の笑みを見せる。
「はうう~」
父紹運は至福の顔を見せ、千代の肩まで伸びた黒髪を優しく撫でつける。
「えへへ」
父を見上げる娘。
「萌は芽がでる、芽吹くという意味じゃ」
「もえって、ちよのこと」
「そうじゃ、そうじゃ」
そう言って、父は千代に笑顔を返した。
愛らしい千代姫はまさに萌と呼ぶに相応しい。
艶やかな黒髪に、大きな眼、鼻は低く、唇は大きく、はっきりとした顔立ち、まだ二頭身の小さな身体。
生持つ者が、芽吹く、幼い頃。
しかし、姫には恐るべき力があった。
それは無双の怪力である。
父紹運が屋敷の中庭で剣の素振りをしている時、側で千代は遊んでいた。
「これ、千代、父に近づくなよ。危ないからな」
「うん」
千代は頷くと、庭を走り回る。
「そりゃっ!」
紹運は脳内に仮想敵をつくり、集中し剣を振るう。
その横を千代が通り抜ける。
「・・・せいっ!」
横に薙ぐ。
「わーい」
目の前を娘が走る。
「・・・これ、千代」
「ん?」
「父は危ないと言ったぞ」
「うん」
千代はそう言うと、直角に父の横を曲がり、顔を振り向き手を振った。
「千代危ない」
紹運は叫んだ。
瞬間、大きな庭石に激突する。
「いたーいっ!」
ベソをかく千代。
「そら見ろ」
父は言った。
「もう!」
千代は怒りにまかせ、庭石に張り手をする。
ゴロン。
地中深く埋まった大きな石が転がった。
「うわーん、父上っ!」
娘は号泣しながら父に抱きつく。
「・・・この子は・・・」
紹運は驚き呟いた。
この次の日から姫のお稽古事に武芸が追加された。
やるべす。