これからの事
7話目です。
悠人視点です
ウィリアムの案内の下、俺たちは右の焦げ跡のある家に入る。
そして、家の中を見回りながら食器の位置などの説明を聞いていた。
…ただし、左の家についてはほとんど使っていないため、記憶が朧げで案内ができないとのことだった。
(案内できないのではなく、したく無いんじゃねえの?ウィリアムさんと同じ立場なら俺だってしたく無いし)
あまりにも使われてなさそうな家と焦げ跡があるだけの家。今すぐどちらか片方に住んでくれと言われたら答えは決まっている。
右だ。
ウィリアムもそれを最初から分かっているから、敢えて左の家の説明をしなかったのだと思う。
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来客用の部屋で俺たちは、明日からの身の振り方を話し合うことになったのだが、ウィリアムはこれまでの優しい雰囲気をガラリと変えて真剣に話を切り出した。
「さて、どうする?君たち保護した僕にも責任はあるけど、責任には自由が付き纏う。つまり自身の責任を持てない君たちに今自由がほとんどないと言っても過言じゃない」
ウィリアムの突き放すようなつらい言い方は、今の俺たちに欠けている現実への直視を促すきっかけとなった。
「そうですね…。ウィリアムさんには何から何までお世話になってますし」
「それに俺たちは、いつまでもお世話になるわけにもいかねぇもんな」
「でも一体何ができるんだ?」
「そりゃ異世界だぜ?魔法とかギルドとかあるからそっちの方で」
「有ったとしても素人が行って何ができるんだよ…」
「うーん」・・・・・
俺たち二人で話し合ったがグダグダしていき結論は出ない。
この世界の常識を持ち合わせていない俺たちには結論を出せるほどの度胸がなかった。
「一週間だ。一週間この街を観て自分の道を決めてごらん。それまでの面倒は保証するからさ」
お互いに意見を出し尽くして会話が途切れる瞬間を見計らっていたのか途中から黙っていたウィリアムからの提案に俺たちは驚く。
「一週間?いいんですか?そんなに長く助けて貰って」
「俺、てっきり明日には出て行くと思ってたっすけど…」
「流石にそこまで厳しくは無いよ。それにタダで泊めるわけでもないから。一週間の間に掃除や洗濯とかを二人でやって貰う。それに……」
それに?
「"空からの落下”や”異世界"について色々と聞かないといけないからね〜」
あ、忘れてた。
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今日のところは疲れているということで”異世界"などについての説明を後にしてもらい、充てがわれた二部屋にそれぞれ入り、俺はベッドにねっ転がる。
「しっかし、まさか異世界とはな。陣に巻き込まれるのもここに極まりだな」
明日のことを不安がっていないわけでは無いが、何かが心に突き刺さる。
何か大切なことを忘れているような…。
元の世界でも感じたことが無いこの気持ちはとそこまで考えて涙が出ると同時に思い当たる。
もう、家族に会えないのだ。
そう考えると涙が止まらない。嗚咽が止まらない。
戻れる手段がこの世に存在していても、それを知り得ない俺にとっては不可能に等しい。
外を見ても星あかりは見えない。
今の心は空と同じどんより曇りだ。
母さん、父さんごめんなさい。
親不孝な俺を許してください。
悲しみが涙に変換され減っていくなんてことはない。
悲しみは涙を呼び込むだけで、消えることはない。
まだ夜は長い。