街中への入り方
6話目です。
悠人視点です。
「でけーー!」
「すげーって!全部石でできている壁とか中世かよ。イメージ的には日本というよりもヨーロッパ?行ったことないけど」
門の前に着いた俺たちは、胸の内の思いを叫びながらウィリアムを待っていた。
…門の外で。
ウィリアムは門の詰め所みたいなところにいる。
......うん、対応に違いがあるというか明らかに厄介者扱いです。
もちろんそれには理由があった。
第一に目の前の場所は国を守る門です。つまりは国に害意を持つ存在が入らないようにする場所ですね、はい。こんな遅くまで門前警備ごくろーさまです。
第二に俺たち二人、陣と俺は身元を証明するものを持っていません。学生証?あんなもん、この世界では定規代わりに使えるか使えないかレベルの役立たずに成り下がっておられまするわ。『ワタシ、イセカイモジ分かりませーン』というやつである。
そして第三に、うんまだあるんだ。第三にこの世界では人権はとにかく低い。国に実害を及ぼす可能性がほんの少しでもあるのなら、外で野垂れ死にしようが国には入れられない。
つまりこんな遅い時間に身分を証明できない男が二人やって来たらあからさまに怪しい、という結論にあちらさんは至ったそうです。
ちなみに余談ではあるが、身分を証明さえできればいい。つまり貴族が「私の客人だ」といえば貴族が言質で証明したことになり問題なく入ることが出来る。ちなみに平民の言質に価値はないため出来ない。
余談終了。
ということで門の前でかれこれ二時間は待たされて辺りがすっかり真っ暗になったときに、詰め所からウィリアムは戻ってきた。
「ごめんね。身分証の無い君たちを保障するための手続きが手間取っちゃって。貴族ほどではないけど、僕もこの街では結構偉いような立場にいるからね。特別に君たちを入れられるように話を付けてきたよ」
「ありがとうございます」
「これで俺たちも街を出入り出来るっすか?」
こら、陣。まずお礼を言いなさいって。
陣の頭を無理やり下に下げさせているが、早く街の中を見に行きたいのか頭に置いた手を引っぺがして門へと向かっていく。
しかし、陣が門に向かうよりも前にウィリアムは先ほどの陣の言葉を否定した。
「いや、今できるのは入門だけだよ。出門するのは身分証を手にしてからだね」
入出両方で身分証の提示を求められるのか。
どんなことでもしっかりしていることは安全を確保するためには重要な点である。
門を守る兵士に軽く会釈をして過ぎ去る。
そして門を超えて観える街中は、夜中だというのに明るく活気付いていた。
「今日の演奏も...」「明日の準備を」
「そろそろあの時期で」「はよ、ねようぜ」
「そういえば、あの」・・・・・・・・・
街中からは多くの人の会話が聞こえてくるが、一番目を引いたのは街を照らしている街灯だった。
街を照らす街灯の色が火のような赤色ではなく電気のような黄色だった。
「なぁ、あの明るさって電気使っているとか?」
「さあ?ファンタジー的な何かじゃねーの?」
色々と疑問は尽きないが、人混みのなかでウィリアムとはぐれることだけは避けたい。
そう思い、ウィリアムの後を付いていくと人混みの少ない道に出て、更に少ししたら二つの建物を同時に立てて無理やり敷地を拡げたかのような家の前にたどり着いた。
大きい庭の中に何故か建物が二つあって、片方は少し焦げたような跡の付いている。もう片方は外見は綺麗だが、埃が建物の中に蔓延しているのが外から見ても分かるほどの様子だった。
「ここが僕の自宅なんだ。中を案内するよ」
え、此処に住んでいるの.........?