今日の寝床はいづこに
第22話です。
悠人視点です。
「しかしどうするのだ。貴族が絡んでいる問題をどうやって解決すると言うのだね」
「あー、それは……企業秘密で」
「キギョウ?」
…こいつ何も考えずにあんな啖呵切ったのかよ。物理的に一周回ってラリアット喰らわせたいぞ。
しかしいつもこういう時は俺が作戦考えていたからな。陣に考えさせたら、後々が迷惑だ。俺の苦労も知らないだろうが乗った手前、何もしない訳にはいかない。
陣からの視線は無視しながらも理解しているのでとりあえずは俺が返事をする。
「すみません。細かいことは後ほど連絡するので、今は解放してくれませんか」
「ん?ああ、そうだったな」
「まぁ、乗り込んで来たのはこっちだけどな」
ボソボソとした陣の小言は聞こえなーい。聞こえない。それでみんな幸せだ。
俺たちの話は終わり部屋から3人で出ようとすると、背後から声をかけられる。パパさんだ。本名知らないからパパさんだ。
「待て。待ちたまえ。何処に行こうとしているのだ」
「彼らの新しい学寮にですよ、お父様」
これで何とか寮に行けると安心していたためか俺と陣は振り返る事なく部屋を出ようとした手前、聞き捨てならない言葉に反応が遅れた。
「シャルメ、残念だがそこの二人は寮に入れんぞ」
「…どういう意味ですか。お二人の入学金も、入寮金も支払い済みですわよ?」
「その、だな。二人は行方不明扱いにしようとしたからな、その…コッソリと入寮手続きを破棄したというかだな…」
は?
「ふ、ふざけんなぁー!え。それじゃあ、何か。俺たちは野宿なの?ウィリアムさんに頭下げてまた迷惑かけに行くの?どっちも死ぬわ!片や物理的に。片や精神的に!」
なんだろう。貴族相手に敬語をかなぐり捨てて異議申し立てをしたのに、全然後悔の波が来ない。むしろ最初からかなぐり捨てて話した方が良かったのでは無いかと思うぐらいの心の開放感だ。
「落ち着けよ、悠人。野宿の一回や二回いい体験だろうが。な?」
「思い出せよ!この街の路地裏には変な触手ワンコロがいただろうが」
「あの程度平気だろうが」
「それはお前だけな!俺はか弱いから普通に死ぬって!」
それに不安は他にもあるが!
「二人共…落ち着いてください。とりあえず今日のところは、我が家にお世話になっては?」
「「「え…」」」
シャルメからの提案は彼女の性格からしてありうる事であろう。では何故その提案に俺たちは驚きを示したのか。それは三人目の疑問者が何してくるか分からないということを無意識に考えているからだろう。
「あらお父様、反対ですか?いっったい誰のせいでこの様なことになったかは…言わなくても解りますよね…?」
笑顔は満点だが、こめかみに青筋が見える。
「ハハハハ、流石にここまで来て不義理な事はしないさ。いやー、二人共今日はゆっくりと休みたまえ。何遠慮は要らない」
先程までの厳しい表情は消えたのか、優しく大らかな笑顔だ。これならまぁ…
「「ハハハハハ」」
「馬小屋では無いですよね?」
「ついでに毒殺とか暗殺とか爆殺とか無いよな?」
笑いながら、幾つか不安項目を確認するだけでいいだろう。最初から聞かないという選択肢はない。言質は取っておかないと俺たちに未来は無い。
「安心したまえ。普通の来客用の部屋だ。ただし」
ただ、そんな心配は要らないようだ。だってこの顔をよく見て、話を聞き逃さなければわかる。
「「(ゴクリ)」」
「大人しく朝日が拝みたければ娘に指一本、髪一本たりとも触れないでくれたまえよ。ワカッタカネ?」
これは心配しようと言質を取ろうとやる時はやる気だよ。嫌な笑顔ダナー。