シャルメの助け 2
第20話です。
悠人視点です。
「しかし俺たちがここに連れ去られること、シャルメは知らなかったのか?」
御者の男の言葉を信じるわけではないので俺も疑問には思っていた。
「ええ、お父様が何が悪巧みをしていた様子は知っていたのでまたいつもの様に失敗して懲りると思っていたのですが、まさかお二人に対してとは…」
「ちょっと待て。と言うことはいつもこんな事しているのかよ」
陣の呆れた顔を見たシャルメは恥ずかしそうに肩を縮こませているが、流石にそれには俺も呆れる他ない。
「それで、私も分からないことがありまして…。二人の事はお父様にも秘密にしていましたのに。何で二人のことを知っていたのでしょうか?」
いやいやいや、普通に話してもよかったのに。
…いや、駄目だ。正直に俺たちのことを話してもどっちにしろ消されそうだ、プチっと。
綺麗なものに群がる虫に対してみたいに。
ただ虫にだって矜持とプライドと命があるので反撃はするが。
秘密にするなら徹底的に隠し通して欲しかったがバレてしまったのなら仕方ない。
しかし長い廊下を進んでいるが、進めば進むほどシャルメの顔が怖くなっている。
今イライラゲージ120ですか?
「そろそろです。お二人は念の為に私の後ろに」
「そうさせてもらいます」
お言葉に甘えて、背中で隠れさせてもらう。
一つのドアの前に立って深呼吸をするシャルメに対して俺はなんと声を掛ければいいのか迷っていた。
1 「お願い助けてくれ!」
駄目だ。情けなさすぎる。せめて俺の見た目がヒロインでなければぶん殴られる。
2「背中は任せろ。先に行け!」
今シャルメから離れるとか自殺行為過ぎる、却下。
ふざけた回答しか思い浮かばない頭を一回クリーニングして流したい気持ちに駆られていると、シャルメはドアノブに手を掛け扉を開いて一言言った。
「お父様!今日という今日は許しませんよ。私の友人に手を出そうとした事をあの世で後悔してください!」
ちょっと!なんか魔法使おうとしてませんか、シャルメさん!屋敷で炎は厳禁ですよ!
「シャルメよ!それを私に向けるつもりか!?ええい、そこのウジ虫に唆されたのだな!」
目の前でやけに元気そうな太っちょのおじさんがシャルメの父親か?
「似てねえなあ」
「陣!感想とかどうでもいいから止めるの手伝ってくれ!」
シャルメに助けを求めた筈が何でシャルメから元凶を助ける羽目になっているのだろうか…。
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「ふむ、なるほど君たちはウジ虫ではないのだね」
分類上はヒト科ヒト属ホモサピエンスではあるが、少なくとも虫ではない。
「ハエと言ったところか」
「お父様!彼らは虫ではなくヒューマンですよ」
訂正。少なくともではなく絶対に虫ではない。
この男は一体なぜ俺たちを毛嫌いしているのか、全く見当がつかない。
「シャルメに男が群がるのが駄目なのだ。大事な娘に手を出そうとする男など今までどれほどいたことか…!」
俺と陣は、このとき理解した。
ああ、何言っても納得しない奴だと。
娘を溺愛し過ぎた結果がこの暴挙と。