邂逅は突然に
2話目です。
涼しい。
悠人の朦朧とする意識の中で、初夏に入ったばかりの通学路とは思えないほどの涼しさに目覚めかけた意識が再び沈みかけ......
グベラバツ!ボキッ!ゴフッ!
その隣からは、物騒な破壊音と危険危険信号を発する親友の悲鳴が聞こえ、慌てて目を覚ました。
「ここは?と、それよりも陣!お前何が.....」
出しかけた言葉の続きは、出てこない。
代わりに出てきたのは、血。
その次に感じたのは、体の中を弄繰り回された不快感だった。
だが更なる違和感がその2つへの恐怖を塗りつぶした。
「目覚めたか。人間よ。信仰んなき者よ。己が差異を感じたか。己が才を感じたか」
いつの間にか、目の前に2メートルは超える大男が立っていたのだ。
その体からは強大な圧が、その眼差しからは凍える恐怖が、目の前の自分を捉えている。
今の頭の中には、親友を心配する余裕が消え去っている。
体から力が抜けて精神は追い詰められたかのように余裕なんてない。
返答をミスれば死ぬ。
そんな直感を抱きながら、今答えるべき問いに返答する。
「感じ、ましぃ、た。この...違和感が、才です、か?」
「そうだ。よくぞ答えた。わが身は人の身に圧を与えてしまう。故に、汝の返答を大いに讃えよう。汝の恐怖を受け入れよう。恐れることは、恥ではない。恐怖を恐怖と認識できなくなった時が恥ずべき時だ」
聞こえてくる声は、マフィアのドンの如く。
返事をしたことで多少は圧が弱まってきたが、まだ辛い感じは残っている。
重くゆったりとした口調で、彼は話を続ける。
「汝は、運が悪い。あの光は自然現象のようなもので、本来なら汝が巻き込まれる筈ではなかったのだ」
「エッ」
聞き逃せない言葉が聞こえてきた。
つまり、陣の所為でこんな謎空間で連れ去られたということになる。
おのれっっ!!
目を覚ましてすぐの心配を返して欲しいと思うが、当の本人がいないことには、感情という非物資であっても返済催促が出来ない。
「あの、もう1人のやつは?」
「あの少年ならすぐ隣におる。尤も、今は干渉は出来ぬがな」
「それは、どういう…」
すぐ隣。
ついさっきまでは見ても解らなかったが、意識して視線を向けると確かに変な感覚を感じる。
腕を伸ばして何かに当たる感覚は無くとも、そこの違和感だけは拭えなくなった。
「確かに…。これは一体?」
「ほう?違和感に気づくか?そこには干渉避けの結界が張られておる。多少は見所があるようだな」
どうやら、お褒めいただけたようだ。
でも多少っ…。
多少っ…。
「しかしこれも何かの縁か。よい、汝に加護を授けよう。汝が才の手綱を握る手助けとなろう」
捨てる神あれば、拾う神ありとはこのことか。
俺の好感度のマッチポンプが起きている気がしなくも無いが、貰えるものは貰っておこう。ただし、トラブルの種以外。
「どうやらあちらも話は終わったようだ。では、そろそろ新たな世界に送るとしよう」
どうやらこの空間に居られるのもあと僅かのようだ。
何故この人がここで話をしてくれているのか謎は残るが、それでも聞かなければいけないことがある。
「あ、あの、貴方の名は?」
「…真名は明かせぬ。しかし地上での名ならある」
「それは…?」
ゴクリと唾を飲む。
これから先の人生、この人の名に感謝することになるだろう。
だからこそ一言一言を聞き逃さないように集中する。
「我が名は「悠人!今まで何処にいたんだよ!!!」
「うっせぇよ!今大事な場面なんだよっ!」
いつでも、何処でも陣は間が悪い。
くそッ、名前聞き逃してしまった…。