第八十九話 幼女と虫
ギラファとしては、この状況を新鮮で、それでいて好ましい物と感じていた。
……蜜希と共に居る様になってから、こうした賑やかな食事が増えたものだ。
かつて、彼女の祖母である希と旅をしていたころは、各地の人々との交流こそあれ、基本は二人旅だった。
この様に、決まった何人かで常に行動を共にすると言うのは自分にとってかなり珍しい事である。
今もまた、パーシヴァルが何処から取り出したのか台座付きの支柱を使ってポールダンスを開始しているが、この光景ももはや見慣れ始めた自分が居る。
「行きますわよー……はい! ―――はっ!!」
「いいっすよパー子! はい足開いてー、後ろでポール持ちながら腰を前後に揺すってー! ナイス絶壁!!」
「最後余計って言うかこの動きはアウト系ですのよ――――!?」
いやまあポールダンスはそちら側の需要を含むものではあるのだが、基本的にパーシヴァルが行って居るのは体幹とバランス感覚を魅せる美しいものだ。――本人酔っぱらってて後で記憶無いのだろうが。
そもそもパーシヴァルは何処でポールダンスなど覚えたのだろうか……?
自分が初めて彼女と出会ったのは、円卓の騎士に選ばれたばかりだったパーシヴァルの教官をアージェに頼まれた時だが、
「さあフィーネ! そこでポールを胸に挟んで上下にグラインドですのよ!」
「えぇっと、こ、こうでしょうか……?」
「ヒュー! ナイス肉感――!! ここはいっちょ私が反対側から押し付けるしかないっすねぇ!」
『撮影――』
少なくともこんな性格はしていなかったと言うか、というか一応性別的にはオスの自分も居るのだがね君達?
と、そんなことを考えつつ盃に濁り酒を注ごうとしたところ、
「ほらよ、ギラファのオッサン。」
いつの間にか横に来ていたククルゥが瓶を両手に持ち、此方の盃に酒を注いだ。
「ああ、ありがとう、ククルゥ。」
こちらもオレンジジュースの瓶を手に取り、ククルゥのもつグラスに注ぐ、互いに注いだ器を軽くぶつけて音を立て、喉に通しながら視線を向けるのは、何やらポールを中心に絡まりだした蜜希達だ。
「ん、あ……ちょ、蜜希様!? 何処触ってるんですか!?」
「えー? ちょっとわかんないっすねぇ、大きな声で教えてくれないっすか? ほら、何処触ってるんす? 私?」
「あ、んっ……そ、それは……」
「それは? 何処ですのほら、こんなに柔らかくて、だらしないお肉がついてるの・は?」
「し、下腹ーーー!!」
……本格的に何やってるのかね?
「……なんか企画物の成人向け動画見たくなってるけど、あれオッサン的には止めないでいいのかよ?」
ククルゥの言葉に、自分は酒を舐めとりつつ頷き。
「まあ、本人達も楽しんでいるようだし止めなくても良いだろう。」
「ふーん、フィーネからキャメロットではマーリン相手に蜜希への独占欲丸出しだったって聞いてたんだがな。」
「むぐ……、たしかに、独占欲はもちろんあるとも。」
「だったら、もし蜜希がオッサンの他にフィーネやパーシヴァルともくっ付きたいって言ったらどうすんだ? 女同士で子供作る方法ぐらい普通にあんだからよ。」
幼女の外見から繰り出されるにしてはいささか生々しい発言だが、言わんとしている事は分かる。特に考えたことは無かったが……、
「……そうだな、蜜希がキチンと考え、その上でそうしたいと言うのなら、私は構わないとも。――ただし、それは君たちの様に蜜希と、そして私とも親しい者達に限るがね。」
「……へぇ、アタシも入ってんのか。フィーネやパーシヴァルと違って、出会ったのはつい最近、追われてる理由も明かさないこのアタシを?」
嘲るように告げるククルゥだが、その程度ならば気にすることも無い。
「それを言い出せば蜜希と出会ったのも大差無いだろう。そして、何より君が追われている理由を話さないのは、下手に私達を巻き込まないためだろう?」
仮に追手がククルゥを補足したとして、此方が事情を知らなければククルゥ以外は見逃される確率が高い。もっとも、蜜希を始めとした自分達がククルゥを相手に差し出すことはあり得ないだろうが。
「……あー、お見通しって訳かよ、ほんとやり難いぜオッサン。」
「むしろ気付かれて無いと思っていたのかね?」
「……いや、まあ、フィーネには初っ端で色々バレた上で絆されたしな。蜜希達と一緒に居るのも楽しいし、アタシも失いたくないさ、この関係を。」
「アイツらには言わないでくれよ?」と照れたようにククルゥが笑う顔は、外見相応の愛らしさを感じさせてくる。
自分はククルゥの頭に軽く手をのせ、その水色の髪を優しく梳きながら、告げる。
「安心したまえ、君を狙う物が居たとしても、全て私達が何とかするさ。――希さんの言葉を借りれば、神様だろうが竜王だろうがぶん殴ってやるとも。」
「あー、あの人なら余裕でそんぐらいするわな、この前実感した。」
「違いない、一人でも世界を敵に回せる人だからな。」
互いに苦笑し、再度器をぶつけて音を立てる。共に頷き蜜希達を見守る様に視線を向けた。
「ちょ!? パーシヴァル! 蜜希も! 服、服!!」
「ふふ、よいでは無いか―!」
「そうっすよ! フィーネもそんなキツク帯締めてないで、楽になるっすよー?」
「ああああ!! 私の帯を引っ張らない! あ、あ――――っ!?」
『お宝映像――』
フィーネの敬語が抜けているのは中々レアだなと思いつつ、流石にそろそろ蚕による撮影だけは止めておくことにした。
「あれ、パーシヴァルはまだしも蜜希はほぼシラフでやってるのが頭おかしいよな。」
「……正直フィーネだけ被害者な気もするが、まあ内心楽しんでいるだろうし放っておくか。デザートにアイスでも頼むかね?」
「お、いいねぇ。アタシチョコミントで!」
自分は抹茶アイスを術式陣で頼んでいると、どうやら完全に帯を持っていかれたらしいフィーネが、
「く、ククルゥ! 後生ですから助けてくださーい!!」
「んー、巻き込まれたくないし、アイス食べるから無理だな、頑張れフィーネ。」
「私はアイス以下ですか!? お、覚えてなさい――!! あと私はバニラで!」
むしろ覚えてた方が恥ずかしい気もするのだが、如何に。




