第八十六話 高みを目指して
ただ足るを知るとは言うけれど
やはり足りない部分はある訳で
目指す先へと向かう気概はある
(要約:お肉の話)
「とまあ、アイツとの馴れ初めはそんな感じね。」
いやはや、思い返すと結構恥ずかしい物だ、特に当時の自分のチョロさが。
紅く染まった頬の熱は酒精と熱気のせいにして、話を聞いていた皆の様子を伺うと、何やら四人で顔を向き合わせて話し込んでいた。
「え? そんだけ情熱的な出奔しといて正式に付き合いだしたのついこの間とか、一体お互いどれだけヘタレなんすか?」
「アレだよな、男の方は『俺が初めてそういう事を言っただけだから』とか考えて変に一歩引いてて、女の方は何時までも男の方に言って貰うの待ってるパターン。」
「あー、小説とか読んでて、『良いからさっさとくっ付きなさいな!』ってなる奴ですわよね。」
「しかし何故男性と言うのは、こう……、変に格好つけたがるんですかね?」
思ったより採点が厳しいが、相方が格好つけすぎなのは事実なので否定のしようがない。
「う、うるさいわね! だってそれこそ物語みたいって思ってたのよ? 相手からキチンと告白されたいじゃない!」
「とのことですけれど蜜希、こちら側で唯一の彼氏持ちとしてどうですのその辺り?」
「あー、私の場合は希おばあちゃんが『ギラファさんにはこっちからアプローチしてけ』って言ってたんで、遺骸の一件でもう今行くしかないなと。」
蜜希のお嬢ちゃんちょっと思考回路が男らしすぎない?
「それ、フラれたらどうするつもりだったんだ?」
「そうっすねぇ……ショックだとは思うし、暫くはぎくしゃくしたかもしんないっすけど、でも私がこの世界に居る間はギラファさんは一緒に居てくれる約束だったんで、旅の中でもっと彼の事を良く知って、どういう人が好きなのか、どうすれば見て貰えるか、色々試して行こうとは思ってたっすね。」
「ギラファさん、約束破らないっすから。振り向いて貰えるまで絶対地球には帰らないくらいの気持ちで居たっすよ?」
そこまで行くと少し粘着気味と言うか。言葉選んで穏当に言うと、
「……執念感じるわね。」
「そりゃあそうっすよ。たった数回拒絶されたくらいで諦められないって、迷わずそう確信できるくらい惚れちゃったんすから!」
一気に空間の糖度が上がった気がして、思わず徳利から酒を一気に喉へ通す。喉が熱くなる感覚の後に、すっと全身の汗が風に触れて熱を奪う。すぐ熱がぶり返す気もするがまあ気分気分。
「あっつーーーーつめたぁ!!」
パーシヴァルが叫び声を上げながら手桶に汲んだ冷水を頭にぶっかけた辺り、だいたい皆同じ感覚を感じたらしい。
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「んで、その辺り旦那としてはどんなかんじだったんだ?」
「ふむ、仮に遺骸での一件が無かったとしても、恐らく共に過ごす中で決して離れたくないと思う様になったのは間違いないだろう。――こういうのを、運命の相手と呼ぶ物なのかね?」
「あ――!! こっちもこっちで激アマかよ! 口から砂糖吐くわ!!」
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蜜希は、「先に上がるわね」と言ってエイルが浴槽から立ち上がるのを見ていた。全体的に細身でありながら、太ももや胸はしっかりと主張しているバランスの良い姿、サイズ的にはモルガンと先代の間くらいだろうかと考えていると、急に声を掛けられた。
「……なんか視線が怪しいんだけど?」
「別にいやらしい思考で見てたわけじゃないっすよ? ただ純粋に、引き締まってていいスタイルしてるなーと。」
パーシヴァルもそうなのだが、女性特有の柔らかさを残しながら、その下に強靭な筋肉のバネを持っている。地球側と違い、見た目の筋力と実際の筋力が比例しないこの世界だが、それでもやはり戦闘に密接な体は雰囲気が違うのが良く分かる。
それに比べて、多少パーシヴァルに付き合って訓練をしているとはいえ、自分の肉体はまだまだ常人だ。
「私ももっと(筋)肉付けないとっすねー。」
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パーシヴァルは湯船から立ち上がるエイルの体を見ていた。
……結構ありますわね。
胸の話だ。以前遺骸で出会った時は戦闘用のジャケットとローブでよく見えて居なかったが、こうしてみるとそこそこある。
戦闘系と言うこともあり、腕や足腰には芯となるバネの様な筋肉があるが、それがかえって柔らかさを引き立てているあたりさすがと言うべきか。
まことに遺憾ながら自分はその辺り才能が無かったと言うべきか、非常に控えめと言うか最早壁であり、これはこれで楽ではあるものの、やはり劣等感に近しい何かは感じるという物だ。
と、降ろした視線の先、その豊かな双丘をお湯に浮かべて揺らす蜜希が、
「私ももっと肉付けないとっすねー。」
喧嘩売ってますの?
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「え!? 蜜希はもう十分ですわよ!?」
エイルを見送った蜜希は、突然パーシヴァルにそう叫ばれた。
……ああ、筋肉の話っすね?
確かに、本来の自分は戦場にでるタイプでも無いし、竜の加護のおかげで大分身体能力は底上げされている。
それでも、やはり基礎の肉体がしっかりしていればその分純粋に強化される訳であり、そう考えればまだまだ筋力は必要だろう。
「いやいや、今でも十分ではあるっすけど、やっぱりもう少しあった方が色々便利かなーと思うんすよねー。」
何やら凄い物を見る顔をされたんすけど、そんなに変な事っすかね?
「……具体的には、どのような事に?」
どのような事にと言われても、やはり直近で自分が筋肉を欲する理由と言えば、
「戦い……っすかね?」
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パーシヴァルは蜜希の回答に戦慄した。
――夜の戦いですわね!?
なるほど、蜜希はかなり大きな物を持っているが、それはあくまで人間サイズだ。対して教官は全高で2m越え、体格で言えば最早小型の竜種に近い。
であるならば、身長の低い蜜希では色々と不都合が生じかねない、それを補うために更なる大きさを欲すると言う事か。
「でしたら、太ももや腰回りなどが大切ですわね……」
「そうっすね、そのへん重視で鍛えていきたいっす。」
なるほど、基礎となる筋肉をつける事で、その上の脂肪と合わせてギラファを受け止められるだけの体を目指すと言う事か。
「確かに、教官を相手するには、もう少し鍛えた方が良いですわね。」
「うっす! ギラファさんとまともな勝負ができる様に頑張るっすよ!」
「ええ、頑張ってくださいまし、応援しますわ!」
そう結論し、互いに深く頷き器を軽くぶつけて乾杯。
あー、酒が美味いですわー。




