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虫系異族のギラファさん  作者: 神在月
第三章 神州
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第八十三話 郷愁

異なる世界に異なる景色

けれど胸に寄せるは郷愁

(要約:繋がってるから)


 ミナカに先導されつつ旅館を進みながら、ふと先程の会話で気になった事を尋ねてみることにした。


 挿絵(By みてみん)

「ミナカさん、さっき言ってたもう一組の宿泊客が王族かどうのって、どういう事っすか?」


 自分の質問に対し、先を進むミナカが一瞬こちらへ振り替える。その表情は若干の驚きを含んだもので、


 挿絵(By みてみん)

「おおう、よく聞いてたねミッチー。んーっとね、この旅館って結界に守られてるって言うか、宿泊客を篩に掛けてるんだよね。」


 挿絵(By みてみん)

「篩にかけてる? 入る為の条件的なのがあるんすか?」


 自分達はミナカの転移でやってきたが、そういった何らかの方法で無いと入れないとか、そういう事だろうか?


 挿絵(By みてみん)

「そうそう、さっき転移で来た旅館前の庭園あるでしょ? あそこまでは誰でも入れるんだけど、そこから先、旅館の玄関に結界が張ってあってさ、オオゲツヒメの居る本殿と、普通に従業員が居る別館で別れる様になってるの。」


 挿絵(By みてみん)

「それは、重要人物と一般客で対応を変えていると、そういう事かね?」


 差し込まれたギラファの言葉に、ミナカは一つ頷き答えを返す。


 挿絵(By みてみん)

「そうだよー、本殿は私達神州の神格が招待した人達か、それ以外だと一定以上の身分や血筋持ちが案内される様になってるの。元々は重要人物への暗殺防ぐとかそういう対策だったんだけど、今だと神罰系がかなり充実してるからあんまり関係ないんだけどねー。――ああ、場所が違うだけで基本的なサービスとかは一緒だよ、本殿の方が混雑はしない程度かな?」


 そんな事を話しながら階段をのぼると、ミナカがふいに立ち止まり、全身で此方を振り向いた。


 挿絵(By みてみん)

「はいとうちゃーく。三階は全部で四部屋あるけど、全部間取りは同じだから好きな所使って良いよ。三階は貸し切りにしてあるから何なら全部使っても問題ないから!」


 ミナカの後ろ、手前に椅子と何やら販売機の様な機械が並ぶ広めの空間があり、そこを取り囲むように間隔を開けた扉が左右に二つずつ並んでいる。


 だが、自分が目を奪われたのはそこでは無い。


 挿絵(By みてみん)

「……庭が……」


 正面だ。休憩スペースの向こう、一面の窓から見える、先程旅館に入る前に通った池泉回遊式庭園。日が傾き、夕日に照らされたその景色に、思わず体が前に動き出す。

 

 ミナカの横を通り抜け、窓の手すりに摑まる様に身を乗り出す。そうして気が付いたのは、窓にはガラスなどは無く、外に直接開け放たれた空間だと言う事だ。


 夕日が池に映り込み、景色が黄金色に照らされ、不意に通り抜けていく風が、自分の髪を優しく揺らす。

 

 初めて見る景色の筈なのに、何処か遠い昔に見た様な郷愁の念に駆られるのは、自分が日本人であり、この神州がほぼ同様の文化として発展しているからだろうか。


 挿絵(By みてみん)

「良い眺めでしょ? 私もお気に入りなんだ、ここから見る庭の景色。」


 横に並んだミナカの言葉に、自分は頷き言葉を返す。


 挿絵(By みてみん)

「――ミナカさんはどうして、ここに自分達を招待してくれたんすか?」


 勿論、仮にも国として招いた客人に下手な宿を提供できないと言うのは分かる。だがここは一国の首都だ、そうした宿泊施設には事欠かないであろう場所の中で、この場所を選んだ理由が少し気になったのだ。


 その問いに対してミナカは少し照れたような笑みを見せ、窓の外へ視線を向ける。


 挿絵(By みてみん)

「別に、そんなに深い意味は無いんだよね。――ただ、ミッチーにこっち世界の日本も好きになって欲しかった……それだけ。」


 軽く手で掻き上げたミナカの金の髪が風にそよぐ。その横顔に、不意に重なる様に女性の姿が見えた気がした。

 

 決して華美では無い、けれど上質な物だと一目でわかる薄紫の着物を纏い、夜空の様な濃紺の長髪を風に揺らすその姿に、自分は知らず目を奪われていた。


 挿絵(By みてみん)

「どしたのミッチー? ぼーっとして。」


 不意に掛けられたミナカの声に、自分はハッとして意識を戻す。


 挿絵(By みてみん)

「あーー、いや、なんかミナカさんに和服着た女性が重なって見えたきがして?」


 目を奪われるほどに印象的だった筈なのに、思い出そうとすれば霞が掛かった様に曖昧になる。その事に首を傾げて言葉を返すが、対するミナカはケラケラと笑みを返しただけだ。


 挿絵(By みてみん)

「あはは、何それ? うーん、その辺に稲荷系の遣いでも居たのかな?」


 狐につままれたと言いたいのだろうか、まあ分からない物は仕方が無いし、切り替えていくほかないだろう。


 と、窓の外から、白い何かが羽ばたきながら自分達の間に飛んで来た。


 挿絵(By みてみん)

『――――』


 挿絵(By みてみん)

「蚕? いやでも蚕って飛べないっすよね?」


 原種であるクワコは普通の蛾だが、今目の前に居る真っ白で丸々した蚕は人に家畜化された物であり、自然界で生きていけない稀有な昆虫だ。しかし目の前の蚕は丸々した体を小さめの翅で浮かせ、覚束ないながらも飛んで居る。


 挿絵(By みてみん)

「あー、これオゲヒメの遣いの蚕だからね、ええと何々? ああ、お食事の時間は何時にしますかってさ。いや私じゃなくてミッチーの方に聞きなよオゲヒメ。」


 ああなる程、確かにもう夕食をとっていい時間ではある、ただ今から用意してもらうとなるとそれなりに時間もかかるだろうし、


 挿絵(By みてみん)

「んー、じゃあ先にお風呂入って、その後ご飯っすかね? みんなもそれでいいっすか?」


 そう言いながら振り向いた視線の先、パーシヴァル達女集は売店から持って来た砂糖菓子を摘まんでいるし、ギラファは自販機で購入したのか牛乳を啜っている。


 挿絵(By みてみん)

「あ、ズルいっす!」


 挿絵(By みてみん)

「いえ、何やら二人でセンチメンタル入ってらっしゃいましたし、先に部屋に入るのもどうかと思いましたのよ?」


 うーむ、まあ夕日眺めて歓談してた身としては何も言い返せない。


 と、砂糖菓子をお茶で流し込んでいたフィーネがこちらを向いた。


 挿絵(By みてみん)

「そうですね、空の旅は中々に堪えましたし、一度お風呂で汗を流してからがよろしいかと。」


 挿絵(By みてみん)

「おっけー、じゃあ蚕にそれを伝えて……よしっと。それじゃあ私はこれで一旦帰るね、通信のアドレスはさっき交換したし、調査や報酬の方が固まったら連絡頂戴!」


 パタパタと蚕が窓の外へ飛んで行ったのを見送り、ミナカが軽く手を振りながら別れを告げる。


 挿絵(By みてみん)

「大分巻き込んじゃった形だけど、引き受けてくれてありがとうねミッチー。こうでもしないと御刻は一人で解決しようとするからさ!」


 いい話風に言っているが、その御刻に一人で全域調査やらせたのは何処の誰だっただろうかと思わないでもない。だがまあそれをわざわざ言ってもグダグダするだけなので、また今度御刻にこっそり告げ口することにした。


 挿絵(By みてみん)

「今日はありがとうございましたっす、ミナカさん! また今度!」


 挿絵(By みてみん)

「うん、それじゃあ、まったねー!」


 軽く手をかざして空間の歪みを作り、そこを通ってミナカの姿が虚空へ消えた。それを見届けた自分は一つ伸びをし、


 挿絵(By みてみん)

「さて、部屋に荷物置いてお風呂行くっすよー!」


 そういえばお風呂の場所を聞き忘れていたのでこの後皆でちょっと迷った。




   ●



 転移門を抜け、御刻の待つ水天宮へと戻ったミナカは、周囲に誰もいない事を確認した上で息を吐く。


 何時もの自分に似合わない、重苦しいため息の原因は先程蜜希が告げた一言だ。


 挿絵(By みてみん)

「……私に、和服の女性が重なって見えた、か……。」


 希の孫で、女神の欠片の保有者と言う事もあり、それ相応の実力者だとは思って居たが、一見して竜王の加護を受けている以外は一般人と変わりがない様に見えていた。


 まあ一般人にしては不規則言動が多すぎるし、出会って短時間で御刻にあそこまで気を許されていた人タラシの手腕は異常だが、それ以外の能力的にはあの中で一番弱いと、そう思っていた。


 挿絵(By みてみん)

「いやはや、まさか私本来の姿を幻視するとか、感受性高すぎないかなミッチー。」


 イマドキjkを装ったこの姿ではない、神話で出て来て速攻で姿を隠すほどの引っ込み思案で極度の引き籠りが本来の自分だ。


 こちら側に顕現してから色々あって今の性格に落ち着いたが、根っこの部分は変わっていないと言う事だろうか?


 挿絵(By みてみん)

「ま、考えても仕方が無いか、それにミッチーがそれだけ感受性高いなら、災厄の調査も案外何とかなるかもしれないからね!」


 よし、と気持ちを切り替えて住居兼本殿の社へ向かう。


 中から漏れる灯りと炊事の煙、漂う香りから察するに今日の献立は魚の煮付けだろう。


 石畳を越え、階段をのぼる。拝殿を回って本殿前の裏手の扉を開け、廊下を通って居間へ抜ければ、割烹着を着た御刻と視線が合った。


 挿絵(By みてみん)

「お帰りなさいミナカ。ほら、手を洗って来てください。神格とは言え雑菌はつくのですから、キチンと禊がないとダメですよ?」


 出迎える彼女の言葉はいつも通りの物だ。それに軽く頷きながら、自分は笑顔で言葉を返す。


 挿絵(By みてみん)

「うん、ただいま、御刻!」


 この幸いを護る為なら、自分は何だってやってみせるのだから。

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