第八十話 先代アーサー王の影響
一つ面倒な問題が片付けば
一つ新しい問題が生まれる
一つ残らず消えるは何時か
(要約:先代王の置き土産)
「しかしまあ、どうした物でしょうか……」
お茶のお代わりを淹れてもらい、茶菓子の饅頭と共に頂いていると、フィーネが首を傾げながらそう切り出した。
「報酬に関してでしたら、私の裁量の範囲でしたら何とか致しますが……。」
「ちょっと興味本位で聞くんすけど、具体的にどの程度まで行けるんすか?」
「蜜希、貴女それ交渉としては下策も下策ですわよ?」
呆れた顔のパーシヴァルが、此方を諫める様に言葉を作るが、言わんとしている事は分かる。
「あー、先に上限額を訪ねて、相手がそれを本来より低く申告した場合、相手はそこからの加算を行った場合『本来の上限額』より低く抑えたとしても譲歩した事になるとか、そんな所っすか?」
「わかってたら何でしょっぱなからそれやらかしますのよ……」
それに関してだが、つまるところ自分とパーシヴァルの立ち位置の差だ。
「いやパー子、考えて欲しいんすけど、この場でそういった駆け引きの必要な立場ってパー子だけなんすよ?」
自分やギラファ、フィーネは所属する国家も無く、ククルゥも逃げて来たことから分かる通り現状所属無しに近い。
一方パーシヴァルは円卓の騎士であり、聖剣国家の重鎮としての立場がある。
そう重鎮、唐突にポールダンスしたり乳が無かったりするけど重鎮なのだ……いや本当薄いっすね。
「い、今私の胸を見ながら何かよからぬこと考えてますわね!?」
いかん感づかれた。急遽誤魔化す意味も含めて口を開き、
「私達は極論、無報酬とはいかないまでも、自分が『これでいいや』って思う程度の物があれば損はしないんすよ。けどパー子だけは立場もあって、自分に対する報酬がそのまま国家への報酬になりかねない訳っすよね。」
「まあ、そういう事ですわね。ですのであんまり低い報酬で働かされるわけにはいきませんのよ?」
しかし、パーシヴァルのその発言を否定する言葉が響いた。
「いや、そこに関しては今回気にする必要は無いだろうな。」
ギラファだ、彼は疑問の表情を浮かべる自分とパーシヴァルに対して一つ頷き、ちらりと御刻へ視線を向ける。
「必要でしたら、私どもは一時退出いたしますが?」
「いや、その認識があるならば構わない。君は荒人翁に似て信頼できそうだからな。」
「え!?」
なんだかギラファの言葉にダメージを受けているようだが、荒人翁って人に似てるのがショックだったんすかね?
「――話を戻すが、アグラヴェインは今回、パーシヴァルの報酬に関してはむしろ無報酬でも構わないと思っているだろう。」
「はい?」
どういう事だろうか、パーシヴァルの立場を考えれば、無報酬などそれこそ聖剣国家が軽く見られるように思うのだが、一方パーシヴァルはその言葉で何かを察したのか口を横に開いた。
「あー……そういう事ですの。」
「いやいやどういう事っすか、私にも分る様に説明してくださいっすよ?」
「いいかね蜜希、聖剣国家で起こった先日の大規模戦闘だが、アレはワイルドハントと災厄の悪魔合体である上に、先代のアーサー王が関わっていた訳だ。」
「しかも最後に先代がテンション任せに全世界に警告したせいで、あの事件に先代が関わった事が各国に筒抜けになっている。これは先代が全世界に用心を促したファインプレーでもある一方、各国から『お前んとこの先代が災厄に操られるとか何やってんだよ』と非難される事象でもある訳だな。」
「んー、あー、なるほど?」
「……分かってるかね?」
何となく?
そんな内心が顔に出て居たのだろう、ため息を吐いたパーシヴァルが言葉を紡ぐ。
「まあ大筋は分かってそうですので続けますけれど、アグラヴェイン卿としては今回の調査を神州への貸しとして、そうした各国からの批判に対抗するための後ろ盾としたいと、そういう事ですの。」
「あれからまだ日も浅い。各国殆どが未だ災厄の残滓への調査に踏み切る前段階と言った所だろうから、このタイミングで神州側からの派遣要請はアグラヴェインとしては内心有難いだろうな。神州とは元々関係が良好だから、ここで貸しに出来れば他国との交渉で出せる手が増える。」
「各国の動きを考えると、この短期間で全土の一斉調査をこなした神州がバケモノじみて見えますわね。」
呆れた様なパーシヴァルの呟きに、ミナカが軽く手を挙げて答えた。
「あー、百年前にTOKYO大改修した時に、それに合わせて全国に共通区画の魔力路を通したからね。地球側の自動車道参考にして、地面に魔力伝導性の高い素材でできた道を舗装してく感じで。そのまま上も移動礼装とかで通れるようにしたからぶっちゃけ自動車道そのまんまだよねー。」
「滅茶苦茶すごいっすけど、そんな大改造して反対意見とか無かったんすか?」
国中のインフラ一括整備とか、どう考えても大事業過ぎてそう簡単には決まらないような気がするのだが。
「そりゃもう最初は大反対だったよー。おかげで私が最高神としての強権発動した上で説得に数年、そっから各地の施工で十年かかったし。だから神州全土が整ったのは百年前だけど、TOKYO自体はもう少し前に改修してたんだよね。」
ちなみに、とミナカは言葉をつづけ、
「全国に広がった決まり手は、魔力ネットワークの試験運用場所としてTOKYOが選ばれた時に、魔力路の利便性が証明されたからなんだー。整備した魔力路があれば地脈の流れはスムーズになるから、実は神州は他国より通信関係が大分発展してるし、それを束ねてる統括局を通せば全国各地に災厄の調査術式を展開できるって訳。」
「なるほど、下地が出来てるからあとはそこに術式を適用させるだけと。でもそうは言っても、全国規模となれば人員の配置やら調整やらで時間が掛かるんじゃないっすか?」
その疑問に対し、やや疲れた様な表情で御刻が片腕を上げた。
「ええ、本来であれば全国一斉調査となると、各径路先の寺社仏閣との調整もありますし、それぞれに対応した細かな調整も必要なので本来上位の巫女数十人態勢で行う作業になりますし、通常業務をこなしながらそれだけの人員を確保しようと思えば調整に数週間は欲しいです。」
「けどミナカと来たら、『御刻一人でやれば諸所の手続き大分飛ばせるよね?』とか言い出しまして、結果としては許可関係だけ急ぎで手配して、後の調整はすべて私一人でやる羽目になりましたとも!」
いやあの、それって本来数十人がかりでやる仕事を一人で片付けたという訳で……
「具体的には一人で何日くらいかかったんすか?」
「あ、はい、許可関係はミナカの証書付きで回したので半日で済みましたし、術式の適用作業と調整は数時間ほどで終わりましたね。」
「因みに本来の巫女数十人態勢でやった場合、適用と調整だけで大体一日仕事だからね?」
いやもう本当、この神にしてこの巫女ありと言うべきか……
「いや、その、一人で作業する分には巫女間での報告や引き継ぎ等の手間が無くなりますし、私は各地の神社や仏閣は大体行った事があるので、調整に必要な各地の癖やアタリを感覚で掴んでると言いますか……」
「フィーネ、一回言った程度で各神社の癖ってわかるもんなんすか?」
「魔力ネットワークに親密な私なら、数日滞在して地脈の感覚を掴めば行ける思いますが、普通の人なら数十年かけて手に入れる感覚ですね……しかも各神社一斉にとなると、可能なのはそれこそアージェ様や希様クラスかと。」
なるほど、
「……人間って、すごいっすね。」
「ええ、時折こうした規格外の天才が生まれるのが、人の恐ろしさと言いますか……」
「えと、その……私、そんな規格外じゃないですよ? ミナカみたいに他国に転移とかできませんし?」
「比較対象が最高神な段階で人間やめてるって気づきませんの?」
「あうー……」
規格外巫女が机に突っ伏すのを眺めつつ、一息。
「はい! 今日はもう解散!」
全員一斉にこっち見て目を見開いたっすけど、いやもうこれが正しい気が。




