第七十三話 花園の一幕
さようなら親友
また会う日まで
どうか安らかに
(要約:忘れないから)
蜜希達が弾道ミサイル体験を行って居たころ、王城の花園、泉のほとりに佇む人影。
「…………」
モルガンだ。
彼女の前には、やや苔生しながらもしっかりと手入れが施された一つの碑。
剣を模した碑には、一つの名前が刻まれていた。
《アリス・コールブランド》
その名の他には何も刻まれてはいない、ただ、アヤメの花が辺りを囲むように咲き誇っている。
「……まったく、貴女は死んだ後まで騒がしいのね、アリス。」
告げる言葉に棘は無く、ただ懐かしむ様に口を出る。
「貴女が死んでから、私は道を間違えて、戻って、また踏み外して……最後は殴って戻されましたが、ええ。」
言葉は止まらない。
「貴女は何でも一人で背負って、そして解決してしまうから、周りもそれを良しとして……けれど、本当はお互い分かって居たのですよね、それではいけないと。」
「よかったです。――貴女に直接、その答えを見せる事が出来たのですから。」
「ああ、けれど貴女、私の奥手具合ばかり言ってくれましたけど、自分だって大概じゃないですか。アーサーを弟子にしたのだって、若い時の彼に一目惚れしたからでしょう?」
五百と数十年前だっただろうか、アリスと二人、転移を駆使して気楽に領地を渡り歩いている時、まだ十歳にも満たないアーサーに出会ったのだ。
訪れた先の領地が堕竜の襲撃を受け、その時アリスがすんでの所で助けた少年がアーサーだ。
「弟子にしてくれ。と懇願するアーサーに、『騎士になれ、その時強くなってたら考えてやろう!』なんて言って、五年後にキャメロットまで訪ねて来たアーサーを見て即落ちしたのでしたよね。」
それからはひたすら彼を鍛えていたのだったか、武器を買う金が無いから素手で領地の騎士隊長まで上り詰めていたアーサー相手に、実戦まがいの訓練を良くしていた物である。
負傷した彼を治療するのは何時も自分の仕事だったが、彼は何時も、それこそ見ていていじらしい程にアリスを見続けて居た。
「まあ、貴女達の場合は年の差と言うか、襲名者とそうでないものと言う違いもあったとは思いますが。」
そのまま時は流れ、結局二人共想いを告げる事が無いまま死に別れたのだ。それでよかったのかどうなのか、それは部外者である自分が決める事ではない。
けれど、
「……今度は、言えましたね。」
最後、子供の様な笑顔と共に彼への愛を告げた彼女に対し、彼もまた同意で答えた。
もう会う事は敵わずとも、二人の想いは確かに通じた、それを自分は嬉しく思う。
「――よかったですね、アリス。親友として、おめでとうと言わせてください。」
無論返事は返らない。理想郷の存在は確定しているし、死者と会話する術がないではないが、やはりそれは易々と使うべきでは無いのだから。
「ここにいらっしゃいましたか、母様。」
不意に、背後から声が掛けられた。振り向けばそこには自分の娘が立っていた。
「どうしました、アイリス?」
告げた名前に、娘が僅かに眉を上げた。
「何故、その名で?」
「あの計画が潰えた以上、貴女がモードレッドとして縛られる必要はありませんからね。――家族だけの時は、昔の呼び名で良いでしょう?」
「――はい、母様!」
娘の笑顔に頷き、自分は先程の問いを再度告げる。
「それで、何か用があったのでしょう?」
問いに、はっとした様に娘が答えた。
「はい! ――なんでも神道の最高神がパーシヴァル卿達を拉致したかと思ったら忘れ物取りに来たとかで、アグラヴェイン卿とマー……父様が対応に追われておりまして、一応母様にもご報告をと。」
思わず親友の碑に突っ伏しそうになったが何とか堪えた、何してるんですか一体。
「わかりました、私も向かいます。――一緒に行きましょうか、アイリス?」
告げた言葉の返答は、満面の笑みと共に返された。
「はい!母様!」
差し伸ばした手が、娘に握り返される。
手を繋ぎ、執務室へと向かいつつ、ふと気配を感じて後ろを振り向く。
「―――――」
風に揺れるアヤメの花の中、碑の前に親友の姿が見えた気がした。
勿論錯覚だろう、けれど自分は一つ頷き、前を向いて歩きだす。
隣、娘の腰に光が見えた。それはかつて娘の身に宿され、けれどその意味が無くなった今は腰に下げられた叛逆の剣。
親友を止めたその剣が、僅かに、暖かい光りを放って居たのだった。
これにて円卓編は完結です。
次章の日本神話編まで隔週くらいでキャララフ等の解説や小話とかを投稿していきます




