第六十九話 己が役目を
かつての臣下と新たな騎士
それを嬉しく思える自分は
越えて見せろと力を試さん
(要約:つまりは全力)
先代はかつての臣下と、かつての友の娘の動きに内心で称賛を送っていた。
アグラヴェインは当時より更に速く、そしてアイツの娘はアイツを受け継ぎこちらに迫るか!
これを嬉しく思わずに何とせよと言うのだろうか、最早閃光にも等しい忠義の斬撃に注意を向ければ、幻影と転移を用いた叛逆の剣がその思考を乱す様に情報量を上げてくる。
些細な油断が命取りに繋がり兼ねない緊張感。それは互いの全力をぶつけ合う弟子との激突とはまた違った面白さを自分に感じさせるものだ。
そして、なにより
「私にアーサーを殺させないでくれた事、感謝するぞ! 貴様等!!」
ああそうだ、今更隠しても仕方がないだろう。
「さあ、越えて見せろ。悪いが手加減は出来ん、全力で挑み、過去の亡霊たるこの私を殺せ! 今を生きる円卓の騎士達よ!!」
「言われずとも!」
「そのつもりです!!」
両側から迫る斬撃に、己は防御と迎撃を両立させる。
自分から見て右、袈裟斬りで迫るアグラヴェインの斬撃へと身を飛び込ませる。動かなければ同時に直撃する挟撃も、片方に飛び込めば時間差の攻撃として処理できる。
そしていかに速度が速くとも、こいつは昔から斬撃の軌道が素直過ぎるのだ。速さに頼っている訳では無いが、速すぎるがゆえに剣筋を正しく通さねば狙いが狂うのだろう。
「―――――」
故に、聖剣を斜めに構えて斬撃の軌道を逸らす。速度では向こうが勝っていても、経験からくる先読みはそれを可能とし、刃を滑る忠義の銀閃は、移動したこちらを追う様に放たれた長剣状態の叛逆の剣と激突する。
「ご、ごめんなさい!」
「構わん、しかし相変わらず呆れる勝負勘だな先代!」
「は! この程度も躱せずに王を務められるものか!」
その隙を逃さず放った踏み込み付きの大上段は、左右に飛び退くことで躱された。
次第に調子を戻す己を自覚し、告げる。
「聖剣、臨界。――さあ、ギアを上げて行こうか!」
三メートルを超す光の大剣を構え、己は円卓の騎士達へと突撃した。
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光剣と化した聖剣の圧力を前に、モードレッドは肌が泡立つ感覚を自覚する。
「これが、先代の臨界形態……!」
先程までとは文字通りに次元の違う踏み込みからの一刀に、自分は転移で安全地帯へと退避する。
「そこだな!!」
「――え!?」
無造作に振られた光剣が、自分が転移先に選んだ空間へと薙ぎ払われる。
完全に虚を突かれた一撃に、対応よりも何故と言う思いが思考を満たす。そして呆けて状況が好転する筈も無く、圧倒的な光の剣がこちらの体へと―――
「おおおおおおおおお!!」
自分の体へと光剣がぶつかる直前、雄叫びと共に両手で一刀を叩きつけたアグラヴェイン卿によって光剣が弾かれる。
「パーシヴァル!!」
『承知しましたわ!!』
通信越しの叫びと共に、大量の光槍が先代へと振り注ぐ。
先代は軽く聖剣を振るって迎撃するが、時間差を持って飛来する光槍は僅かに先代をその場に押しとどめ、自分が呆けていた思考を戻す時間を稼ぐ。
「申し訳ありません、アグラヴェイン卿。助かりました。」
謝罪に対し、アグラヴェイン卿は振り向かないままに頷きを返した。
「なに、謝罪は要らんとも。――モードレッド卿、いつも言って居る事だが、戦闘においては常に先を視野に入れておきたまえ。自分の動きを読み、未来予知にも似た先読みを駆使する達人に対抗するには、自分の手が凌がれる前提で動く以外にはない。」
「了解です!」
アグラヴェイン卿の忠告に、先程何が起きたのか理解する。つまり先代は、こちらが転移をすることを前提とし、攻撃と共にその転移先を予測。そこを潰す為に次の一撃を続けて放ったと言う事だ。
――こちらが退避に徹するのではなく、攻撃につなげる為に死角を取ることまで視野に入れた訳ですか!
なるほど、此方が転移から即座に攻撃に転じるなら、確かに位置はある程度絞り込めるだろう。けれどそれを実戦、それも互いに高速で挙動する中で行える人間がどれだけいるだろうか。
だが、この相手はそれを為す。ならばそれに此方も対応していくほかはない。
「――行きます!」
叫びと共に水流で転移、パーシヴァル卿の光槍に隠れる様に先代の背後へ回る。
背の中央を狙った刺突剣形態での一撃は、振り返らぬまま放たれた蹴り上げによって上へと弾かれた。
敢えて衝撃に合わせ、後方へ宙返りの様に下がれば、光剣が自分が先程までいた空間を通過した。
「ほう、読まれてなお転移を選ぶか。――いい判断だ!」
当然だ、相手はこちらよりも格上。ならば一度先を読まれた程度で自分の動きを縛る意味は無い、対応されるなら、此方もそれを見越して、或いは対応をずらす様に動きを微調整していくだけだ。
「胸をお借りします、アリス様!」
「良いだろう、正直貸したら赤字なんだがな!」
自分でネタにしていくのはずるいと言うか、それで言うと私やパーシヴァル卿の方が貯蓄が少ないのですがね?
『なんか不穏な思考をキャッチしましたわ!!』
どういう第六感してるんですかパーシヴァル卿。
「変な電波受信してないで仕事したまえパーシヴァル。」
アグラヴェイン卿の言葉には同意しかない。故に自分も先代の懐へ潜り込む様に身を飛ばす。
「はああああ!!」
聖剣の横薙ぎを搔い潜り短剣による刺突を放つ。しかし今回は大きく突き込む動作では無く、下から鎧の隙間を縫う様に脇腹へと刃を向ける。
死角を付いた内臓狙いの一撃は、先代が大きく後ろに下がった事で空を斬る。
「いい誘導だ!」
「ちいいい!!」
下がった先で待ち受けているのはアグラヴェイン卿による高速の連撃だ。
先代が防御に翳した光剣に最早同時とも言えるタイミングで幾重もの斬撃が直撃し、黄金の飛沫と銀閃が宙を彩る。
『行きますわ!!』
通信越しにパーシヴァル卿の声が響く。
降り注ぐ光槍の束は槍衾として先代の周りへと突き立ち、光剣の速度を遮り遅らせる。
無論それは自分達の攻撃も阻むことになるが、自分には転移がある。
「――――!」
槍衾を越え、先代の光剣が通過した空間に体を転移させ、出現と同時に身を屈め、下から直剣状にした叛逆の剣で顎を狙う。
「なるほど、私の動きを制限した上での転移。確かに有効だが――――!?」
直剣の一撃を仰け反って躱した先代が驚愕に目を見開いた。
自分の頭上、槍衾に隠してパーシヴァル卿が組み立てていた、全長数十メートルの破城杭が落ちてくる。
巻き込まれる前に自分は転移で離脱するが、光剣は振り抜いており咄嗟の迎撃は出来ず、更には大きく仰け反る姿勢を取った先代は回避の為の初動を取ることが出来ない。
されど――――
「――聖剣、解放!」
気迫と共に放たれた叫びはその力を具現する。光剣が爆発的に伸長し、振り切った姿勢で下がっていた剣先は大地へ斜めに突き刺さる。
伸長によって先代の体が射出される様に飛び、それを初速に空中で展開した足場を蹴ってさらに身を飛ばす。
「―――!?」
向かう先は破城杭に続いて飛び込もうとしていたアグラヴェイン卿だ。如何に円卓最速を誇ろうと、停止状態から加速を得るには踏み込みがいる。それを遮る様に放たれる十メートル越えの光剣は、咄嗟に盾の様に構えられた忠義ごとアグラヴェイン卿の体を吹き飛ばした。
「アグラヴェイン卿!!」
自分の叫びに、されど吹き飛びながらアグラヴェイン卿の声が届く。
「モードレッド卿! ――務めを果たせ!!」
聞こえたその言葉に、己は意識を先代に向けなおす。
「――――叛逆の騎士モードレッド、参ります!!」
叫びと共に、己は先代へと駆け出した。
――この一撃に、己が力の全てを賭して。




