第六十七話 円卓の騎士
一人で全てを背負った貴女の姿
その正誤は誰も判断できずとも
我等は皆で背負うと決めたのです
(要約:一人では無いのです)
破壊の渦の中心地、直径数キロのクレーターと化したその中央。
エアポケットによる吸い込みで中央に引き寄せられた二つの人影が、夕焼けで紅く染まった大地の上に見えている。
「ぐ……ッ」
一人は、大地にその身を投げ出し、立ち上がる事すらできない程に疲弊した今代のアーサー王。
「……どうした馬鹿弟子、立てねば死ぬぞ?」
そしてもう一人は、多少の疲労こそ見える物の、大地を踏みしめアーサー王を見下ろす先代王アリスの姿。
地に伏すものと地を見下ろす物、勝敗なども火を見るよりも明らかだった。
●
アリスは思考を言葉にする。少なくともこれは勝利とはいえんな、と。
「私がこうして立っているのは、聖剣の最終拘束開放形態に慣れていたからと言うだけだからな。」
実際、聖剣同士の激突としては相打ちなのだ。自分と弟子の状況を分けたのは、超越を使った事が初めてかどうか、それだけの事だ。
かつて何度も同様の負荷を受けて来たものと、たった今初めて負荷を受けたもの。こちらの肉体が全盛期で再現されている以上、どちらが有利かなど聞くまでも無い。
「ああ、よくぞ私の一刀を相殺する程に練り上げた。――誇らしいぞ、アーサー。」
「――は、この体たらくでは嫌味にしか聞こえんぞ、師匠。」
口元に浮かぶ笑みは、弟子の返しによる苦笑か、それともその成長を称える微笑みか。
どちらにせよ、今自分は弟子の前に立っている。そして嵐の王としての性質上、その首を断つことが己の行動指針だ。
会話で何とか先伸ばそうと試みるが、自分の両手は自然と手の中の力。辛うじて第二拘束まで開放可能な聖剣を握りしめる。
「……許しは請わない。恨めアーサー、最後の最後でお前を殺すしかない弱い私を。」
そうだ、災厄の浸食を捻じ伏せたなどと言って置きながら、自分は最も根本的な部分でそれに敗北している。
命を懸けて守った国を、愛する弟子を、自らの手で断つ事が敗北でなくて何だと言うのだ。
思いに反し、両手は聖剣を大上段に振りかぶる。
ああ、いっそこの刃を己に振り下ろすことが出来れば良いのに、己の体はそれを許さない。
思わず眉を顰める自分の耳に、目の前で這いつくばる弟子の声が届いた。
「恨まんさ、アンタは何時だって強くて美しい。――俺の誇りだ、師匠。」
その言葉に、自分は苦笑。
「最期くらいは名前で呼べ、馬鹿弟子。」
目じりに滲む感覚は何だろうか。だが自分は吹っ切れたような笑みと共に、かつて愛した男へと、聖剣の刃を振り下ろした。
●
アーサー王は、自身に向けて振り下ろされる聖剣を真正面から見据えていた。
泣くような笑みを浮かべる先代の姿に感じるのは、己の実力への憤り。
……この五百年、可能な限り鍛えてきたが、ついぞ超えられなんだか。
先代はこちらを褒めたが、己は知っている。
先程の超越形態での激突。先代が振り下ろしではなく、突きの様に聖剣の出力そのもので此方を狙って居たら、自分は引き分けにすら持ち込めなかったことを。
自分を倒せと、そう告げる先代の意志が分からぬ自分では無い。
手加減されたことに不満は無い、だがそれでいて彼女を超えられなかった自分に腹が立つ。
故に、この刃は甘んじて受け入れる。なにより最早指先すらまともに動かん。
「―――――ッ」
見据える視線の先、黄金の軌跡がこちらを断ち斬らんと迫り、
突如現れた水流が、その刃を受け止めた。
「なに!?」
「――間に合いましたか、陛下。」
そこに居たのは、短剣状の聖剣とも言える『叛逆の剣』の刃で、先代の聖剣を受け止めたモードレッドの姿だった。
●
モードレッドは内心で安堵の息を吐く。
母の権能をまねた水流による転移術式は自分の得意分野だが、流石に数キロ以上の距離でピンポイントに座標を合わせられるかは賭けだった。
――先程陛下の聖剣と経路を繋いで居たのが役立ちましたね。
怪我の功名とでも言うべきか、叛逆の為に繋いだ経路の残滓を辿ることで、直接アーサー王のいる座標が割り出せた。
受け止めた刃の先、直接会うのは初めてだが、話だけは母から何度も聞いた先代のアーサー王と視線があう。
「お初にお目に掛かります、先代王アリス様。私はモルガンの娘にして、叛逆の騎士モードレッド。――故に私達は貴女に叛逆の刃を向けましょう。」
聖剣を押し返し、短剣の切っ先を先代の喉元に向ける様に突き付ける。
「ほう、モルガンの娘か。――良いだろう、その刃、そう簡単に届くと思うなよ!」
先代の言葉に、自分は一つ頷く。自分の持つ叛逆の剣はいわば聖剣の劣化複製品。一応は解放形態まで展開することが可能だが、その出力は大きく劣る。
「構いませんとも、何故なら――私は、一人ではありませんから。」
「――ッ!?」
こちらを見据える先代が、不意に煌いた銀閃に聖剣を防御に翳す。
硬音。そしてそれを為した存在が銀の翻りと共に自分に並び立つ。
「アグラヴェインか!」
「久方ぶりですな、先代。まさか化けて出てくるとは思わなかったが、我らが王を害すると言うのならば、我が忠義は貴女を貫こう。」
アグラヴェインの言葉に合わせる様に、自分達の遥か後方、城壁側から飛来した光槍の群が先代に降り注ぐ。
「今代のパーシヴァル卿か! はははッ、いいな貴様ら!」
飛来した光槍を聖剣で叩き斬り、こちらを見据える先代に、自分は告げる。
「円卓の騎士三名による連携。 私達は個々を束ねた総合力で貴女を超えます、アリス様。」
自分の言葉に、先代は一度歯を見せる笑みを浮かべ、叫ぶ。
「――聖剣、充填。さあ見せて見ろ! 私とは違う、貴様らの選んだ答えの力を!」




