第六十六話 城壁防衛
君の辛さは僕も背負おう
君の幸いを僕は感じたい
君とずっと共に居たいよ
(要約:だから任せて)
「総員耐衝撃姿勢用意!!」
マーリンの叫び声に、自分は隣に立つギラファへとしがみ付く。
直後、到来した衝撃波に大気どころか大地すら揺れ動き、城壁を形作る石材が不気味な軋みを上げる。
「この程度なら問題はありません! ――ですが、」
暴風の中でありながらよく通るモルガンの言葉は、これがまだ始まりに過ぎないと言う事を暗に告げていた。
だが、その事実や地震の如き鳴動よりも、自分の思考は目に映る光景に釘付けとなっている。
「――――綺麗っすね。」
「相変わらず肝が据わってるな君は。」
まあよくある、それに実際目に映る光景は神秘的な物だ。
遥か彼方、聖剣同士の激突により生じる光の黄金の輝き。
望遠術式は先程の爆圧で役に立たない、しかし、だからこそ直接見つめる光の衝突は色鮮やかに感じられた。
そんな視界の中、天より振り下ろされる光剣に、迎え撃つ光が僅かに押され出している。
「押し負ける!?」
「いや! アーサーの方の勢いも増した!」
マーリンの言葉が示す通り、押し込まれ始めたアーサー王の聖剣が息を吹き返す。二度、三度と光は輝きを増し、それに伴い吹き荒れる暴風は最早風と言うのも生温い爆圧と化している。
「このままじゃ持たないか、ええい大盤振る舞い! 魔力ありったけ持ってけドロボー!!」
マーリンが杖を城壁に叩きつけると同時、展開した魔法陣から光の線が城壁を駆け巡る。
幾何学模様を描いて走るラインが都市を囲む城壁全体に行き渡り、先程までの鳴動が嘘の様に静まった。
「この……ッ! ああくそ! さっきの戦闘での魔力消費が痛いな!!」
「完全にそっちの自業自得っすからねそれ。――あと先代曰く聖剣の再現に成功したのもお二方が色々弄って不安定になってたから見たいなんで、つまり大体アンタたち夫婦が原因っすね今回。」
「やめろおおおお!! 真実は時に人を傷つけるんだぞ!!」
人じゃなくて神なのでセーフ。
「……なにやら禄でもない事を考えている事だけは分かります。」
「いやいやそんなこと無いっすよ? ただ神格に人権って適用されるのかなと。」
「さらっとド畜生発言出ましたけど、一応マーリン達の様に人の中で生活している神格には適用されますのよ? 国によって差異は当然あると思いますけど。」
ふむふむ、
「なるほど、ごめんなさいっす新婚夫婦。」
「謝るって事は内心で僕たちの人権無視してたな! そうだな!?」
しまった、言わなきゃバレなかった奴っすかねこれ。それはともかく視界の中の聖剣の光が更に激しさを増していると言うか、ここから見ていても分かるくらいに爆発寸前というか。
「モルガン!」
「わかっています。――≪水よ 其は抗えぬ神の裁き也≫」
二つの聖剣の輝きが融合し、地上に第二の太陽の如き光が生じる。
輝きはフレアとなって城壁まで迫りくる。大地を砕き霧散させつつ吹き荒れる光の奔流に、モルガンの生み出した莫大量の水流が正面から激突した。
疲弊して居ようと神格の力。生み出された水流は光に掻き消されながらも確かにその勢いを押しとどめる。
「くぅぅっ!」
だが、先程自分が相対した時に比べて目に見えて水流の勢いが弱い。光の奔流にその大半が飛沫として霧散、さらに光が収まらない中、遅れて到来した爆圧が轟音と共に水流を喰い尽してゆく。
それでも、モルガンはその権能を行使する。
「あああああああああっ!!」
叫び声と共に、モルガンの全身から蒼白い光が溢れ出す。それが魔力であると認識したのも束の間、消えかけていた水流が魔力によって息を吹き返した。
「母様!」
モードレッドが叫ぶ理由は明白だ。今のモルガンは文字通り身を削って水流を維持しているのが傍から見ても一目でわかる、疲弊した状態でそれだけの力を行使すればどのような負荷がかかるか分かったものではない。
だとしても、この国を護る神格が足掻きをやめるわけがない。そしてそれはもう一柱の神格も同様であった。
「――君を支えると言ったよ、モルガン。」
差し伸ばされた手が、モルガンのそれを包み込む。指を絡め、互いに強く相手の手指を握りしめた瞬間、水流に新たな光の粒子が混ざる。
モルガンの魔力と、マーリンの魔力。二つの神格の力を注ぎこまれた水流は、光の波と化して爆圧を包み込んだ。
「「≪水よ 其は全てを飲む力の奔流なり!≫」」
遠く輝く黄金の光が消え、叩きつける様に押し寄せていた爆圧が止まる。
直後に起きるのは、莫大量の大気が押しのけられた事で発生する巨大なエアポケット。
開いた間隙を埋めるように、辺りの大気が先程までとは真逆に爆心地へと吸い込まれていく。
「―――――ッ!!」
マーリンの声にならない叫びと共に、水流を形作って居た魔力が霧散。大部分が大気と共に彼方へ流れていくが、残りは城壁の防護術式を補強してゆく。
今まで一方向からの圧力を受けていた物が、突然引き込まれる力を与えられれば、必然的に強くバランスを崩して崩壊する危険が大きくなる。
「術式の流れを変えて、補強の経路を再構築する! ――パーシヴァル!!」
「承知しましたわ!!」
名前を呼べば、為すべきことを理解する。
パーシヴァルが投げ放った幾本もの光槍が城壁に楔の様に突き刺さり、光に解けてマーリンの魔力の経路を補強してゆく。
鳴動が静まり、突き抜ける風の音もまた、次第に緩く収まり始めた。
後に残るのは、晴れ渡る空と衝撃波に洗われた荒野の大地。
先程までは暗雲と聖剣の光で分からなかったが、すでに日は傾き、夕焼けが大地を茜色に染めている。
「――なんとか、なりましたか。」
膝を付き、絞り出すような声でつぶやくモルガン。しかし自分とギラファはそれに対して首を横に振る。
「まだっすよ。――向こうの二人がどうなったのか、それを確認するまでは終わりじゃないっす。」
「ああ、ここからでは確認できない以上、動けるものは急ぎ救援に向かうべきだ。」
あ、ごめんなさいギラファさん。自分はもう足がガックガクなんですけど。運んでくれる? 姫様抱っこでお願いしまーす。




