第五十三話 暇人たちのお茶会
外から見ても
意外と疲れる
(要約:手に汗握る)
「はあ――――、見てるこっちが肝が冷えたぜ……」
王城の一室、椅子にもたれ掛かる様に座るククルゥが大きく息を吐く。
「ですね、水流に飲まれた時は流石にダメかと思いましたが、機能に結界を組み込んで置いて正解でした。」
テーブルの向かい側で、同じ様に安堵の息を吐くフィーネに、ククルゥは問いかける。
「いや、あそこも確かに肝は冷えたけどよ。それ以上に、――最後のアレ、一体なんだ?」
「…………さて、何の事でしょうか?」
「いや流石にトボケルのは無理だろ。最後の光の柱、多分他の領地からも見えてんぜ?」
「ですよねーー、いや、まさか蜜希様がこんなにも早くあの機能を開放するとは思ってませんでしたよ……」
肩を落とし、紅茶を一口すすると、従者は表情を戻す。
「最後のアレは、神骸機装の第一拘束を開放した姿です。もっともソレが為されたのは、私が知る限り初めてですし、恐らく、歴史上初めての事では無いかと。」
「ん? 神骸機装ってのは、遥か昔からあるもんなんだろ?」
「はい、神骸機装は女神の武装を元に造られた武装の総称であり、原初の女神の時代、災厄との戦闘の際にも人々の自衛の為に数多く造られ、しかし殆どがこの時代では消失していますね。」
数多く造られたと言う事は、それだけ様々な状況で使用されたと言う事だろう。だと言うのにこれまで一度もその解放形態が使用されてないと言う事は、
「そもそもかつての神骸機装には、解放形態が存在しない?」
「当たらずとも遠からず、と言ったところですね、ククルゥ様。」
「おいおい勿体ぶらずに教えてくれよ?」
ククルゥの言葉に、仕方ありませんね、と、フィーネは苦笑を零す。
「かつての神骸機装にも、解放形態は存在しました。――というより、解放形態と言うのは、神骸機装内部の位相差空間を通して女神の武装本体の機能を限定的に使用する、いわば権限の様な物なのです。」
一つ息を挟み、続ける。
「なので、全ての神骸機装は解放形態を搭載しています。ただ、その権限を行使できる素質を持ってる存在が、この世界には居なかったのです。」
「その素質ってのは、何なんだ?」
「素質は大きく二つ。一つは、女神との濃い繋がりを持っていること。そしてもう一つは、女神に匹敵するだけの強固な意志を持つことです。」
「女神と直接関わりの在った太古の人々の中には、一つ目の条件はクリアしている者も居ました。ですが女神に庇護され、その存在に頼るしかなかった彼らは、女神と同じ意志を持つことは出来なかった。」
「一方、女神が倒れ、己の力で道を切り開くようになった人々には、後者の条件を満たせる人が多くいましたが、女神が倒れた事で、その繋がりも途絶えてしまったのです。」
「――そうか、女神の欠片か。」
「正解です。女神の一部である欠片を宿した蜜希様は、女神が倒れたこの時代に居ながら、女神との非常に強い繋がりを持つお方なのです。」
フィーネの答えに、ククルゥはカップに残った紅茶を飲み干す。
「なるほどな、だから蜜希の意志に反応して、さっきのアホ見たいな一撃を放ったってことか。だけどよ、その通りなら話に聞く蜜希の祖母ってのも、同じことが出来たんじゃないのか?」
「ああ、それは簡単ですよ。希様の場合、そもそもそんな物に頼る必要が無かったのです。」
「はぁ!?」
「本人の基礎スペックだけで竜皇の一角を一方的に蹂躙したお方に、武装など必要ありませんので……」
「いやどんな化け物だよ!?」
「しいて言うなら女神の化け物さね?」
「そうですねぇ……ん?」
そこに居たのは、いつの間にか用意した椅子に座ってケーキを摘まむ、和服姿の女性。
「……希様?」
「他の誰に見えるってんだい? ああ、このケーキ美味いね、気に入ったさね。」
「ええええええええええっ!!?」
「え?こいつがあの蜜希の祖母――――」
鈍い音が響き、ククルゥの額を弾いた希の指から擦過の煙が立ち昇る。
「こいつ?」
「――――このお方が、蜜希さんの御祖母でございますか?」
「はい、秋楡・希、蜜希様の祖母であり、かつて私を救ってくださった恩人です。」
急ぎ追加のカップに紅茶を注ぎつつ、フィーネが答える。紅茶にたっぷりブランデーを注ぐ事も忘れない。
「そういうことさ、よろしくさねククルゥ」
「よ、宜しくお願い致します。――なんでアタシの名前を?」
「といいますか、何故いきなりお越しになられたのですか?」
二人からの問いかけに、希はたった今注がれたばかりの紅茶を口にし、一息を吐く。
「ああ、蜜希がギラファとくっついたって聞いた時から、こいつは面白そうだと思ってね。ちょいと界を弄って逐一状況が見られるようにしたんさね。」
「プライバシ―――――!!?」
鈍い打撃音と共に、額から煙を出すフィーネが後ろにもたれ掛かった。
「黙って聞け、んで、あの偽悪真面目馬鹿女がテンション上がって大技かますもんだから、流石にこいつは助けてあげないとって待機してたんさ。でも、うちの孫と来たら自力で突破しちまったからさ、折角なんで暇してそうなここに遊びに来たんさね。」
「暇って……まあ事実か」
「だろう? しっかし蜜希のやつ、いくら何でも無茶しすぎさね。最後の一撃、今のあいつじゃ竜の加護が無きゃ死んでたさ。」
「あーー、確かに、相当な負荷がかかるのは間違いありませんね。」
「まあ、あの馬鹿竜もちったあ役に立つって事さね? 昔どつきまわした甲斐があったってもんさ。」
「どつきまわした?」
「五百年前のアイツはイキっててね、「我こそは最強の竜皇なり!」とかほざいてたから泣くまで殴った。まあ泣いても殴ったけど、それ以来大分謙虚になって万々歳さね。」
衝撃の発言に、ククルゥの表情が固まる。
「……あの、もしかして蜜希が竜皇の加護を授かったのって……」
「あーー、焔皇竜でしたら蜜希様が希様の親族なのは分かったでしょうし、『あ、希の姐さんの血族っすか、はい、あの方には大変お世話になりまして、あ、これつまらない物ですが加護ですー』と加護を授けた可能性はありますね……」
「…………結果良ければ全てよし、ってやつか?」
ククルゥの言葉に笑みを返しつつ、希が手を虚空に翳すと、その場の空間がねじれ、白い化け猫と相対するギラファの姿が映し出される。
「呵々、物分かりが良いのは良い事さね。丁度いい、アンタらも一緒に観戦と行こうじゃないか。」
赤龍さんが蜜希に加護を授けた経緯、本当は最初に希が銀月亭を訪れた時に説明する予定だったんですけど、完全に忘れててここにねじ込みました。
赤龍さんも蜜希がただの人間スペックなのは一目見て分かったので、助けようにも攻撃したらほぼ確実に巻き込むし、なんか遠くにギラファ見えるし、とりあえず加護渡しておけば大丈夫だろう、大丈夫だよね? とビクビクしてました。
なお割と赤龍さんは加護を安売りしてる(悪人じゃ無ければ頼めばくれる)




