第四十五話 叛逆
あの人が描いた理想の姿
その礎となれるのならば
私の全てはただその為に
(要約:叛逆のカタチ)
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王城中央塔、一つの階層をほとんどそのまま使った大広間にて、アーサー王は届いた報告に息をのむ。
「このタイミングでキャスパリューグが攻めて来たか……!」
可能性としてはあり得た事だ。キャスパリューグは計算高く、トゥルッフ・トゥルウィスの軍勢と違って策を巡らせた襲撃すらこなしてくる。アーサー王自身、まだ聖剣を継承する以前に戦った事があるが、幻影を駆使した攪乱に気を取られ、致命傷一歩手前の深手を負わされた記憶がある。
「ギラファならば、万に一つの敗北も有り得んだろうが。――その分こちらの戦力に穴が開く……か。」
これは覚悟を決めるしかない。そう判断したアーサー王は、大広間の舞台裏に設けられた、上階の発射場へと向かう階段へ体を向ける。
「陛下、何処へ向かうおつもりですか?」
それを止める様に立ちふさがるモードレッドに、アーサー王は答えを返した。
「キャスパリューグにギラファが掛かり切りな以上、手が足りん。ならばたとえワイルドハントに模倣されたとしても、儂が直接出向くしかなかろう。」
「それは認められません、陛下。」
「認める必要はないぞ、モードレッド卿。ただ儂を止められるとは思わんことだ。」
応答を待たず、アーサー王はモードレッドの横を通り過ぎて行く。
「――――ご無礼、ご容赦を。」
その体を、術式の光を散らす刃で、モードレッドが背から刺し貫いた。
瞬間、体を走り抜ける電流にも似た感覚は、刺傷による激痛とも違う。聖剣と自分の中の魔力を強制的に切断されたような未知の感覚。
「――――ッ!?」
突然の事態に目を見開き、薄れそうになる意識を強引に覚醒させながら、アーサー王はこの異常事態に即座に思考を巡らせる。
殺気は一切感じられなかった。何より、背から心臓を貫いて居ながら、その後一切の痛みも出血も無い。
ただ、体だけが、精神と切り離されたかのように一切動かすことができない。
「……何らかの、魔術礼装か。」
「……それは」
唯一動かせる口を用いて呟いた疑問に答えたのは、モードレッドでは無かった。
「ピンポンピンポーン! せいかーい、それは僕とモルガンが造った君専用の拘束用魔術礼装だ。あ、肉体への損傷は一切無いから安心しなよ、アーサー王。」
「本来であれば意識も奪うものなのだけれど、流石ねアーサー王。気力だけで意識を保つとは思わなかったわ。」
そこに居たのは、この国を支える二柱の神格達。
「貴様ら……何を、」
言葉を絞り出すアーサー王へと、表情を消したモルガンが答える。
「簡単ですわ、アーサー王。――この国の為、貴方と、そしてモードレッドを、殺しに来たのです。」
「――――な!?」
告げられた言葉に、アーサー王の目が嘗てなく開かれる。
「ふざけるな、儂はどうでもいいとして、何故モードレッド卿を殺す必要がある!?」
「いや自分はどうでもいいんかーい!?」
やかましい。どいつもこいつも微塵も殺気を感じられない上に、殺すつもりならばこの様な面倒な手を使う必要は無いのだから、殺すと言う事が何らかの符号である事は予想が付く。
だが、モードレッドを殺すと言った時のモルガンの瞳に映った悲しみは、本物だった。
「モルガン、貴様が実の子の様に愛している者を、何故!!」
「子の様に、ではありませんよ、アーサー王。」
「モードレッドは、私がお腹を痛めて産んだ、正真正銘、私の娘です。」
その言葉は、アーサー王の思考を数瞬止めるには、十分な時間だった。
「モードレッド、今だよ。」
「はい、マーリン様。――陛下、失礼。」
マーリンの促しに、モードレッドがアーサー王の眼前に跪き、左手を己の胸に、右手をアーサー王の右腕へ伸ばす。
「モードレッド卿、何を……ッ」
「我が叛逆を刃に映せ、『叛逆の剣』。」
紡いだ言葉に応える様に、手を当てたモードレッドの胸元に光が灯る。
光は次第に彼女自身を包み込むように広がり、右手を伝ってアーサー王の右腕、聖剣へと注がれてゆく。
「まさか、これは――!!」
アーサー王が何が行われるかを理解した瞬間、大広間の大扉を蹴り破って駆け込んでくる姿が一人。
「――陛下!!」
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モードレッドが二柱の神格と共にアーサー王を拘束した。
アグラヴェインがその報告を聞いたのは、蜜希達よりも本の僅かに速いタイミングだった。
『アグラヴェイン卿! モードレッド卿が陛下を拘束して後ろからぶっ刺したとのことです! しかもモルガン様とマーリン様も一緒とのことで、4Pですよ!?』
何言ってるのか本気で分からん。が、とりあえずマーリンとモルガン、モードレッドがやらかしたと言う事は伝わって来た。
「よりにもよってこのタイミングか!!」
予兆はあった。ここの所のモルガンの不可解な動きや、妙にアーサー王が今回の戦闘に出る事を拒否していたマーリンが、何かを企んでいると言う疑念はあったのだ。
しかし、キャスパリューグの参戦で戦力が不足したこのタイミングで来るとは……。否、おそらく陛下が出撃しようとした関係で急遽行動に出たのだろうが、だとしても間が悪すぎる。
「こちらへ流れてくる死霊が増えた以上、私が抜ければ兵達の負担が多すぎる!」
対応できないとは思っていない。指揮官が抜けても各隊長格が指揮を引き継げるだけの実力はある上、彼等を鍛え上げたのは自分だ。
それでも、自分が抜ければ戦力の低下は歴然だ。最悪、居室で待機しているフィーネに応援を要請するしかないと考えるも、それは出来る事なら避けたい。
「アグラヴェイン卿!!」
そう考えていた自分の耳に、兵達の隊長格の叫びが届く。
見れば、誰も彼もが全線を押し広げる様に前に出ており、死霊の波を押し返して行く。
「お前達、前に出過ぎだぞ! そんな事では長くはもたん!」
だが、隊長格である熟練の騎士は、臆することなく言葉を続ける。
「構いやしません! 体力が尽きたら気合で、それも尽きたら根性で、何があろうとでも防衛線は維持します!」
「なぁに、アグラヴェイン卿の鬼の扱きに比べたら、こんなもん屁でもないですよ!」
だから、と、騎士は叫ぶ。
「行ってください! アグラヴェイン卿! ――貴方の忠義を果たすために!!」
その言葉に、アグラヴェインの意識が即座に行動を選択する。
「――感謝する!!」
銀閃が走る。辺りの死霊を一瞬で切り伏せ、次の瞬間には、その軌跡は城壁を駆けあがり、その向こうへと消えていく。
揺るがぬ忠義を、その身に宿して。




